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もしもし、聞こえますか?  作者: クインテット
13/59

辿って

 ひとまず、晴明(はるあき)が学生時代良く行っていた場所に連れて行くことにした。デートスポットとしては落第点だが、(あかね)がどういう反応をするか、見てみたい。


 晴明は記憶を辿(たど)りながら、国道沿いに車を走らせた。(しばら)くは住宅が建ち並んでいるが、やがて1本の川によって住宅街と(へだ)てられ、その幅がどんどん広くなっていく。そして、住宅によって(さまた)げられていた視界が一気に開けると。

 そこには海沿いを走る車の長い列が広がっているのだ。

 茜は、わあっと、声をあげた。晴明は満足そうに笑うと、綺麗(きれい)でしょう?と聞いた。

 茜は一瞬(いっしゅん)晴明の方を向いて勢いよく(うなづ)いたかと思うと、また外へと向き直ってしまう。晴明は少し面白くなかったが、見つめすぎて目の中に閉じ込められてしまった海に、その輝きに、(なぐさ)められた気がした。


 ここは一本道で2車線しかなく、渋滞が多い。

 さすがの茜も飽きてしまったのか、晴明にならって頬杖(ほおづえ)をつきながら(へび)のような車の列を見ていた。しかし、車は動かない。

 晴明は、ああ、失敗したな、と思った。

 この時間は特に、営業に向かう会社員のおかげで混み合うのだ。

 晴明が舌打ちをしそうになるのを舌を甘噛みしながら抑えていると、茜が不意に言った。

「晴明さん、しりとりしませんか。」

 晴明は驚いて茜の方を見たが、茜は相変わらず前を見たまま。

 車は動かない。晴明も暇である。

「いいですよ。では……お先にどうぞ。」

「そうですね……りんご。」

 テンプレートな始まり方に、晴明は思わず笑いそうになる。

 ああ、懐かしいな。この感覚。

 晴明にも、学生時代がある。その時は、こうして級友と遊んだものだ。


「そうですね……。ゴールデンウィーク。」

 俺にはあまり関係ないが。と晴明は心の中で続けた。

 そういえば、茜はゴールデンウィークを知っているのだろうか。晴明はそっと茜を(うかが)ったが、特に質問されることはなかった。

 恐らく、知っているか、興味がないのだろう。

「く、く。くま。」

 茜は、少し悩んでから言った。

「マッカーサー。あの、GHQの。」

 晴明は、茜がどのくらいこの世界のことを知っているか試すことにした。

「GHQ……ってなんですか。」

 さすがにこれは『木枯らし』の中に書かれていなかったらしい。

「ポツダム宣言をするための組織……ですよ、確か。」

 晴明の記憶は定かではない。

 一応学校の授業は真面目に受けてきたと自負しているので、間違っていないことを祈るが、まあ茜が調べることもなかろう。と、晴明は(たか)(くく)った。

「ポツ……なんちゃら宣言ってなんですか。」

 えぇと。と、晴明は詰まった。

 どうにかこうにか、茜の前ではカッコつけたい。

「あ、思い出しました。

 ポツダム宣言って、あれですよ。

 戦争終わりにしますよ。

 だからこうしましょうっていう宣言ですよ。」

 茜は、そうですか。

 と、首を(かし)げながら言った。

 説明した晴明が良く分かっていないのだから、茜が納得できるはずもない。


「あ、桜。」

 え、季節外れの?と、晴明は思ったが、そういえば、しりとりをしていたのだったと思い出した。

 らとはまた難しい、と晴明が頭を()いていると、車がゆっくりと動き出した。

 どうやら営業ラッシュは終わったらしい。ここさえ抜ければ、あの場所はもう少しである。

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