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神の子  作者: 柘榴石
9/80

8.5  余談 かわいいひと

時々 余談が入ります。

本編と大きく関わることは無く読まなくとも問題ありません。

人物のイメージを崩す可能性が若干あります。

今回はレクス視点の話になります。

 花が好きなようだから温室に茶の用意をさせた。


 女官長に伴われ現れたのは蝶の妖精だった。

 淡い光沢のある水色の生地とスカートの下半分はオーガンジーが覗き、そこに蝶のグリッター刺繍が施されているアンクル丈のドレス。

 銀の髪には青い蝶の宝石飾り。

 よく見れば靴も踵に蝶がいた。


 何よりも本人が恥じらうようにしているのが堪らない。


「お招きありがとうございます。遅くなりました」


 ほのかに頬を染めて視線が合うと躊躇いがちに逸らす。

 夜会の席ではああも堂々としているのに、何故ここでこうまで恥らうのだろうか。だが、そんなところも


 ああ、もう、かわいいな!


「遅くはないぞ。向こうに座ろう」


 踵の高い靴を履いているので手をとってやる。というのは建前で触れたいだけだ。


「よく似合っている。綺麗だな」


 社交辞令ではなく本心だ。

 こんな言葉は言われなれているだろうに、更に濃く顔を赤く染めた。


 本っ当にかわいいな!


「ありがとうございます。私、夜会や公式行事以外ではあまり着飾ったがなくて……恥ずかしくて……」


 茶の用意されている丸テーブルの席に連れていき、自分は向かいに座る。


「俺しか見ていないのだから恥ずかしがらなくていいだろう?」

「だからです」

「うん?」

「誰か一人の為に着飾った事なんてありませんから恥ずかしいです」


 誰か一人というのは俺だろうかと思えば、顔が弛みそうになる。


「冷たいお茶を用意して下さったのですね」


 用意されているのは氷の入った冷たい紅茶。溶けかけたそれがグラスの中でからりと鳴った。


「ああ。冬でも今日は天気がいいから温室は暑いだろうかと思ってな。温かい方がいいなら用意させるぞ」

「いいえ。嬉しいです」


 艶やかな笑顔。自分のしたことでロジエが喜び微笑んでくれる。

 それだけでどうしてこんなに幸せを感じられるのだろうか。


「この温室も素敵ですね。蝶まで飛んでいて、ここだけ春のようです」


 三方ガラス張りの大きな室内。高い天井もガラス張りになっていて青い空がのぞいていた。室内には寒い外では見られないような春や夏の色とりどりの花が咲き誇り、鮮やかな蝶までもひらひらと飛んでいた。


「蝶は花の交配の為に飼育されているらしい。ロジエは花が好きなようだから此処に、と思ったのだが気に入ったか?」

「はい。とても。お気遣いがとても嬉しいです」

「大切な婚約者だ。これくらいするさ」


 ロジエはその言葉には何も返さず、お茶を一口飲むと視線を上げた。


「あの、レクス殿下?」

「うん?」

「レクス殿下は私にどういった格好をして欲しいとかありますか?」

「は?」

「好みの服装や色はありますか?」


 俺好みに飾っていいのか!?

 いや、だが、しかし。


「ロジエの好きな格好をすればいい。ロジエならなんでも似合う」

「それはどうでもいいということですか」

「何でそうなる!? 夜会のドレス姿も今朝の服も今も全部可愛いと思っている!」

「……こういうドレスも好きですか?」

「ああ、好きだ!」


 ロジエが着ているから。


「良かった。それが一番心配だったんです」


 両手の指先を合わせ、瞳を伏せるようにして安堵したように微笑む。


 可愛すぎるだろう!


 あんな可愛い姿で顔で仕草で、あんな可愛い事を言われたら!

 いいや、言葉などなくても…あの顔でにこりと笑われたら!

 其れだけで!

 ――― 男は皆勘違いする!!



「ロジエには朝くらいの格好で充分じゃないか」

「先程の装いではお気に召しませんか」

「俺以外の男に見せたくない。着飾るのは俺が長く一緒にいられる時だけにしてくれ。心配になる」

「殿下、あまり難しい注文は困ります。あの程度着飾ったとはいいません」

「……ロジエは可愛すぎるな……」


 温室での一時の後、自らロジエを部屋に送り、レクスは女官長にそう溢すのだった。


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