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神の子  作者: 柘榴石
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60 祝賀

 晴天の空に上からも下からもはらはらと花が舞う。

 その中に二人は姿を現した。

 彼らを一目見ようと集まった人々は手を振り声を上げ熱狂した。


 神殿での誓いの儀を終えたばかりの

 白を基調にした装束に身を包む蒼髪の凛々しいばかりの自国の王子と

 光を受けて耀く銀の髪のこちらも白いドレスの麗しい隣国の姫君


 王子の左手には姫の右手が添えられている。

 そして姫のドレスを僅かに摘まむ左手には王子の愛の象徴である青い薔薇のブーケがあった。


 露台の欄干に近付き、熱狂に応えるように王子が手を振ると、尚一層の歓声が上がった。


 澄みきった蒼穹の元

 今日はサフィラスとルベウス、元は敵国であった二国の和平の証である王族の婚姻式。


 しかも、この婚姻は政略であって政略ではない。

 繋いだままの手も

 姫の持つ青薔薇も

 そして何よりも幸せそうに微笑む二人が

 互いに望んでの婚姻なのだと証明していた。


 サフィラス! ルベウス!

 レクス王子! ロジエ様!


 との歓声のなか、どうしてその言葉を拾えたのか。


「誓いの口付けを!!」


 レクスはロジエを見て目を細めて悪戯っぽく笑い

 ロジエは顔を赤く染めまさかと瞳を見開いた。


 繋いでいた手が引かれ、顎を掬われる。

 どよめきと悲鳴と歓声が空気を震わせた。


 観衆が驚くほど長く長く口付けて王子は姫と顔を離した……けれど

 今度は居たたまれないのか姫の方が顔を隠すように王子に抱きついた。


 姫の肩を抱き、観衆の囃し立てる声に王子は笑って手を振り応えた。

 やがて王子が姫の耳許でなにやら呟くと、姫も顔を上げて再び民衆に応えた。


 民の歓声に応えつつ、視線を合わせ満ち足りたように微笑み合う

 王子と王子妃からまもなく王と王妃となる二人。

 居合わせた人々は、この二人ならば、近い将来両国の神の血を受け継いだ福音が訪れるのだろうと確信したことだろう。



「レクス様」


 ロジエはレクスに腰を抱かれ、熱狂する民衆に応えながら呼び掛ける。


「うん?」

「私、レクス様になら本当に心臓を差し上げてもいいですよ」


 レクスはロジエの腰を益々強く抱き寄せ、民衆に視線を向けたまま答えた。


「お前がいないのに永く生きて何になる。心の蔵と言う形あるものよりも、俺が欲しいのは心そのものだ。そしてその器、ロジエそのもの。それを貰えば命は繋がっていく。千年でも二千年でも。だから生有る限り共に生きよう」

「……はい……」


 今度は手を振ったままロジエに視線を移す。

 ロジエもレクスに視線を移した。


「だが……今生だけで終わると思うなよ、ロジエ」

「え?」

「お前を愛するのにこの一生で足りるものか。俺は何度生まれ変わってもお前を見つけ妻にするぞ。覚悟しろ」

「……いいえ。私が先に貴方を見つけます」


 銀の双眸を露で濡らし、妻は幸せそうに微笑む

 蒼の双眸を細め、夫は蕩けるような笑みで妻を見る


 今度は自然に二人の距離が縮まった。

 観衆に最後にもう一度手を振って、二人は寄り添い露台から姿を消した。



 王と王妃は心から愛し合い、国と民を憂い思いやる

 同じ様に民も王と王妃に心を寄せた

 争いを繰り返したサフィラスとルベウス

 両国の和平は確固たるものになり

 国も人々も愛に満ちた全盛期を迎える事になる



 銀の輝きは王の果実

 千年の命を紡ぐ魔法の果実


 それは王の為の銀の花嫁と

 花嫁が夫と選んだ蒼き王の物語


 神の子ども達の物語


完結です。

全80話長かったですね。

誰も気に留めていないかも知れませんが、レクスの見る夢の正体が明らかにされていません。話的に本編に入れることが出来ずに、外伝として書くことにしました。あまり時間を空けずに投稿するつもりです。

興味を持たれた方はよろしくお願いします。

もういいよ、と思う方はここで終わりです。

ブックマーク付けて下さった方、本当に励みとなりました。感謝いたしております。

では、本当に最後までお付き合い下さりありがとうございました。


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