57.5 余談 もう一人の王の子
57と57.5 合わせて一つの話のようなものです。
「貴方は真に王太子の子なれど、王にはなれません」
今際の際の母に言われた言葉だ。
「王を援ける良き子、良き兄になるように」
涙を流し微笑んで母は逝った。
その後、父である当時の王太子は正しき妃を娶る。
初めはその正妃様に虐待されているのかと思った。
三つの時に母が亡くなり、四つの時に新に義母(と呼ぶには立場上畏れ多いのだが)となったイレーヌ妃は作法に厳しい人だった。
一年間特に行儀作法を学ばずにいた俺を一から教育し直したのだ。
立派な王子になるようにと。
後から思えば、血の繋がらない王子に良くそんなことを教えたものだ。放っておけば誰も見向きもしないものを。
「プロド殿下。貴方の弟ですよ」
七つの歳の終わり頃、イレーヌ妃は蒼い髪の赤子を抱いて俺に見せた。
「貴方を援けられる子になればいいのですが」
「え?」
「? なんですか?」
驚いて訊き返せば、イレーヌ妃も訊き返してきた。
「僕がこの子を援けるのでしょう? この子が王になるのだから。母から言われています」
妃と共に一緒にいた父も絶句していた。
「私は王太子はプロド殿下でいいと思うのですが」
まさかだ。サフィラスの王位は正妃の子に継がれる。俺は側室の子で、五つの時に(まだ王に俺以外の子がいなかったため行われた)神剣の継承の儀でも神剣に認められなかった。しかも精霊師の徴を持ち、王の子でないという噂すらあったのだ。更には宰相ゼノが俺に教育者のような態度を取りだし真の父ではないかと囁かれだした。
そんな諸事情もあったがそれ以上に自分は王には成り得ない。何故なら。
「この子は神剣に認められますよ、きっと」
俺の言葉に再び二人は絶句する。
「何故?」
「え? わかりませんか? この子が王だからです」
そう。一目見てわかったのだ。
レクスは“王”だと。
父の手が俺の頭を撫でた。
「この子を支えてくれるか」
「はい。勿論です」
イレーヌ妃は膝を折り、瞳を濡らし頬に口付けをくれた。
「貴方がこの子の兄であることに感謝します」
寛容な父と美しく優しい王妃
そして、王となる弟
彼らを援けるのが自分の務め
レクスが産まれた頃からゼノの態度は周囲には分からない程度だが怪しくなった。気付かない振りをして信頼している風を装った。
ゼノは俺に甘言を吐く。
これがサフィラスに巣食う悪だと察するのは簡単だった。
けれど自分の半端な力ではどうにも出来ない事もわかる。
これを倒すのはレクスだ。
彼がその力を付けるまで監視する必要がある。
影から援けるのが王になれない王の子の務め
当然だ、と幼いあの日からずっと心に誓っている。




