57 王の子
自分が明確に世継ぎとしての自覚を持ったのは六つの時だった。
それは、処刑される自らの側近を見て顔色ひとつ変えなかった兄を目にしてからだ。
兄である第一王子プロドは優秀な王子だった。
元々あった王の子で無いのではという馬鹿馬鹿しい噂を打ち消すほどに。
神剣にその神力を伝わせることこそ出来なかったが、聡明で優しく、次期王として期待されるほど。
神剣の継承試行は正妃の子が五つになった時に行われる。
俺が産まれたとき、プロドは七つ。その時にはある程度、プロドを王とすべく体制が整いつつあった。
五つで神剣の継承者となった俺の肩に手を置きプロドは微笑んだ。
「お前が次期王だ。しっかり頑張るんだぞ」
と。そこに焦燥や憎悪はなく、寧ろ慶びを感じ取れた。
俺はほっとした。王位の継承権など二の次で、俺は兄に嫌われなかったことに安堵したのだ。
けれど、心穏やかにいられなかったのはプロドに仕える者や彼を支持する者達だった。
一年後、俺は暗殺されそうになった。
捕まった犯人の首謀者は兄の側近だった。
処刑される際に彼は声高に叫んだ。
「神剣に何の意味があるのだ! プロド様こそ王の器だ!!」
「叛臣が」
兄の冷たい言葉にその男は眼を見開いた。
兄はそれを一瞥し、首を落とされる様子を目を逸らさずに見ると顔色一つ変えずにその場を後にした。
兄の態度は間違っていないのだろう。第一王位継承者の暗殺は逆臣でしかない。けれども、それを機に兄の元を去る臣下は多かった。
そしてまた噂が燻り出す。
或る夜、兄は俺の寝所に忍んできた。
「世継ぎとして誰からも相応しいと思われるようになれ。そうすれば二度とあんな馬鹿な奴は現れない。いいな。それがお前の務めだ。俺はお前が正しく王の子であり王たる限りお前に忠誠を誓う」
黙り込む俺に尚も続けた。
「二度と俺に親しい素振りを見せるな。お前はお前の歩むべき正しい道を見つけるんだ」
兄は自分の進むべき道を見つけたのだ。
国の為
そして、俺の為に。
彼はサフィラスの影の王。
俺は決意する。
彼の影の上に立ち、光の王となる事を。




