32.5 余談 謝罪
ロジエ、リアン、レティシアの話です。
「申し訳ございませんでした!」
栗色の髪の姿勢のよい女性、レティシアに出会い頭に頭を下げられて、ロジエは狼狽した。
「え?……あの、なんですか?」
「何って謝罪ですわ」
「何故でしょう?」
「何故!? ニブイ方ですわね! 私がレクス殿下とオリアーヌ様が相思相愛だと言った事です」
「ええ!? ちょっとそんなこと言ったの!? もしかしてそれでロジエさんお兄ちゃんのこと避けてたの?」
「あの、リアンさん、ちょっと……」
背後からロジエの肩に手を置いて、リアンがひょっこりと顔を出す。
「レティシア酷いよ! そんな嘘言うなんて。あの時お兄ちゃん荒れてて大変だったんだよ! レティシアはちょっとワガママだけど虐めとかはしないと思ってた!!」
「虐めなんていたしません。私は本当に殿下とオリアーヌ様が相愛の仲だと思っていたのです!」
真正面から否定し、レティシアは胸を張る。
呆気に取られたのはリアンだ。
「へ?」
「それに覚悟の無いまま王子妃になるのも不憫だと思って忠告したのです! でも、全て私の勘違いだったようなので謝罪に来たのですわ。処罰をというなら受けますわ」
「ええ~! あれだけあからさまなのにお兄ちゃんの気持ちが分からない人がロジエさん以外にもいたなんて!!」
「あからさま過ぎて演技かと思ったのです」
「お兄ちゃんに演技とか無理だから!」
リアンがぶんぶんと手を振って否定すると、レティシアは腕組みをして考え込むように瞳を伏せる。
「ええ。私も驚いています。あれだけの甘さを演技でなく出せるなんて」
「いやもう本当に! 目のやり場に困るくらいだから!!」
「リアンさん!!」
いつの間にやらロジエそっちのけで、話に花を咲かせ始めた二人にロジエは待ったをかける。
「そんな目のやり場に困るほどじゃ、ありません!」
「ああ~無自覚! 無自覚だよ! まわりは砂吐きそうなのに~」
「わたくしも図書室で見たことがありますけれど、それ以上ですの? 例えば?」
「えっとね、朝一番にほっぺにちゅーとか、ちょっと目離すとイチャイチャべたべた…」
「きゃあああ!リアンさん!! 止めて下さい!! 」
ロジエは涙目で止めにはいった。それを見た二人はロジエにくるりと背を向けてヒソヒソと話し出す。
「前々から思っていたんですけれど、何なんです。この可愛い生き物」
「可愛いよね~! ぎゅってしたくなっちゃうの」
「わかりますわ。笑顔とか半端なくて。ですから尚更異国で苦労とかして欲しくなくてついキツい事を」
「そうなんだ。天の邪鬼だね、レティシア。これからはロジエさん、いっしょに守ってくれる?」
「勿論いいですわ。ああ、でも殿下がなんと言うか」
「大丈夫、大丈夫。勘違いだったんだし、ロジエさんの味方になるって言えば全然オッケーだから! あれ? でもレティシアってお兄ちゃんのこと好きじゃないの?」
「諦めはいい方ですの。次はウィルさんとかどうかと」
「ウィルは爵位無いよ」
「爵位は私が一人娘ですので婿養子で。次期の王の側近、将来有望ですもの、かまいませんわ」
「わかった。応援するよ! って訳でロジエさん、もうお友達だね!」
再びくるりとロジエに向き直りリアンはにっこりと笑う。
「よろしくお願いいたしますわ」
レティシアも礼儀正しく頭を下げた。
「ええ、はい……こちらこそ……」
ロジエは訳もわからず答える。
サフィラスの女の子の勢いってちょっと怖い、そう思ったロジエだった。




