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神の子  作者: 柘榴石
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29.5 余談 騎士日記3 絶食系と言われた王子が

 三度目の事件はレクス王子の正式な婚約発表の夜会だった。

 勿論お相手は三ヶ月前に王子が求婚したロジエ様だ。


 ロジエ様。

 彼女は可愛らしく、かつ素晴らしい女性だ。俺達下級騎士にも笑ってご挨拶して下さるどころか、進んで話しかけて下さるのだ!

 隣国ルベウスの王女様(養女だが)で、レクス王子のご婚約者ロジエ様。

 通常騎士である俺達が、それほど身分の高い御令嬢に会いまみえる機会はない。あっても護衛などであり、しかもそれは上位騎士の役目なので下っ端の俺には雲の上の存在だ。が、ロジエ様は週に何度も姿を拝めることになった。なぜなら度々練兵場に訓練に来るからだ。

 初めて練兵場に顔を出すと聞いた日は、レクス王子とシエル王子の観戦にでも来るのだろうと誰もが思った。

 が、現れた姿に俺達は眼を奪われた。

 ミニスカートに二―ハイソックスですよ!! 白い絶対領域が眩し過ぎて目が離せません!!

 レクス王子に一蹴されましたけどね(そしてその後は素足の見えない黒いレギンスを履くようになってしまいましたが……)。

 更にはレクス王子との手合せで。なんすか、あれ。本当にお姫様ですか。レクス王子の一撃受け止めた挙句、反撃ですよ。レクス王子も力こそ加減しているようですが、それでも普通じゃない。

 ていうか俺よりよっぽど凄くね? 俺負けてる? それマズイっしょ!

 もっと稽古しないと!!

 その時の俺の心情は居合わせた騎士皆の心情であっただろう。


 美しく可愛らしく華奢で、守ってあげたいを具現化したようなロジエ様が……ギャップ! ギャップ萌えってやつですか!

 この間は、軍師を目指す奴らを軍学でやり込めていた。

 可愛くて優しくて強くて賢くて。

 ロジエ様がサフィラス騎士の憧れの的になるのはあっという間だった。

 所謂 高嶺の花 ですけどね。

 誰も進んで神剣の錆にはなりたくないですよ。ええ。


 話が逸れたが、夜会、婚約発表ですよ。


 今日も表庭を担当することになった俺と僚友は庭を巡回している。

 バルコニー下には(警備上必要最低限にしか)近付かない。今日の俺のモットーだ。

 なのにどうしてここに居るんですか! 王子!!


 ここは表庭の割合奥にあるバラ庭園噴水近くである。とりあえず俺達は木陰に隠れた。通り過ぎてくれるかと思ったからだ。

 なのに、何てことだ!!

 青いドレスを纏った妖精ロジエ様を王子がベンチに座らせてしまった。

 こんなことなら普通に礼をとって通り過ぎれば良かった。今更歩き出せば物音で気付かれる。だが、ここに居れば前回の二の前だ。どうする、どうしたらいい。俺たちは視線で会話をする。


「ロジエ……」


 うおおおおおぉぉぉ!! 王子の甘い声が聞こえる!

 つい、ちらりとそちらを見てしまえばレクス王子がロジエ様の頤を掴んで上向かせていた。

 知ってますか王子! それは美男にしか許されない行為なんですよ!! 

 いえ、ものすっごくはまってますけどね。


 そうこうしているうちに、重なった! 重なってしまいましたよ!!

 見るな。俺は木だ。木なんだ。動くな。じっと時が過ぎるのを待つんだ。

 そんなことを考えていると……パキリ……


 あほかあああぁぁぁぁぁぁぁ!! 何度同じことをするんだぁぁぁぁぁぁ!!


 前回同様蒼白とする友を見て、恐る恐るレクス王子を振り返ると……


 笑ったあああああああぁぁぁ!!


 笑いましたよ王子が! ロジエ様に口付けたまま!! それはもう……

 にやりと

 人の悪い笑みで。

 そのまま、視線で行けという様に促されたので、物音を立てないよう細心の注意で退散しました。


 しかし、レクス王子。絶食系というのはただの噂ですか!? 慣れてます? 慣れてませんか!?

 それともそういうスキルがもともと高い方なのでしょうか。

 いや、もうどうでもいいですけどね。あの様子なら御咎めはなくて済みそうだ……ろうか。


「すまん」歩きながら友がボソリと口にする。俺はまあ仕方がないと頷いた。さらに友は言葉を続ける。

「お前恋人いるか?」

「……一応な」

「俺もいるが……あんなに情熱的に出来るものか?」

「……あれはレクス王子だから許されることだ。俺達には別世界なんだ。考えるな。心が折れる。独り身じゃないだけ感謝しろ」

「そうだな……」


 気を取り直して庭を巡回していると、しばらくしてレクス王子がロジエ様をエスコートして歩いてくる姿が遠目に見えた。


 蕩けるような表情でロジエ様を見つめるレクス王子。

 普段の様子からはまるで別人じゃないですか!

 というか、ロジエ様、髪少し乱れてませんか?


 いや、見ては駄目だ。見ては駄目だと言い聞かせて、俺達は早々に道を譲る為に脇によって頭を下げる。


「いつもご苦労様です」


 ロジエ様の労わるような優しい声音につい、顔を上げてしまった。にこりと微笑むロジエ様。


 女神様!!!


 ハッとして隣のレクス王子を窺えば……。


 次の日に待っていた事は想像にお任せする。


 後日、俺達は、夜会の際の表庭の警備から外して欲しいとクライヴ団長に無理を承知で言ってみた。渋い顔をする団長。

 分かってる。分かっていますよ。

 仕事ですからね。どこを担当しようと文句は言ったらいけません。

 でも、俺達どうにも間が悪いらしいのですよ。

 叱責される覚悟の俺達に、団長は深く深く溜息を吐き、「考慮しましょう」の一言の後。


「レクス様がロジエ様に近づいたら即刻その場から離れるか、無理なら眼を逸らせなさい」


 とありがたい教示を下された。

 あれ、団長も苦労してるんですか。


 やがてその教示がサフィラス城に仕える者たちの裏心得となるのに時間は掛からなかった。


 付け加えるのならば、恐いのは処罰や叱責ではなく、心が折れる事である。

 特に独身、恋人のいない者には目の毒だ。

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