5-8. 調査報告
サトはひとしきり仲間との再会を喜んだ後、トコトコとイーズの足元に来て抱っこをねだるように葉っぱを広げた。
ポーと暴れていたイーズも、一方的に休戦を宣言してサトを抱え上げる。
「楽しかった?」
「ケキョ!」
「走って疲れてない? 回復魔法いる?」
「……ケキョ?」
「いいよ、気にしないの」
まるで勝手に走ったのに魔法をもらっていいのか伺うサトに、イーズは微笑んで回復魔法をかける。
「ケキョケキョ!」
お礼を言うようにサワサワと葉っぱをイーズの頬に当てるサト。
くすぐったそうに笑うイーズに、柔らかな声がかかった。
「とっても仲良しね、羨ましいわ。私もシュガーマンドラゴラちゃんと一緒に暮らそうと思ってるのよ」
「あ、今回はお疲れ様です。ここまで大丈夫でした?」
「問題ないわ。ずっとウォードンに担がれていたもの」
「担がれて?」
イーズが首を傾げると、女性は攻略の荷物がまとめられている一角を指差す。
そこには以前風呂に加工してもらった桶ほどはありそうな、大きな籠があった。
「あれに入っていたのよ」
「え? 歩かずに?」
「そうよ? あまり姿を見られたくなかったし。A級とB級に囲まれてるなんて、なんかあったと思われるでしょう?」
「それもそうですね」
「おい、イーズ、騙されるなよ?」
話をする二人の前に、ずいっと大きな体が割り込んでくる。A級冒険者のウォードンだ。
「このおばちゃんは歩きたくないから、恥も何もなくあの籠に乗り込んだんだ。乗ってる間も揺らすなとか、曲がる時は言えとかうるせーうるせー」
「貴方が私の繊細な体を痛めつけようとするから。そんな事は許しません」
「ほらよ、否定しないだろ?」
「は、はぁ……」
「キョフゥ」
繊細と本人はいうが、繊細なのは体だけでだいぶ強いメンタルを持っているらしい。
「えっと、挨拶が遅れましたが、光魔法使いのイーズです。この子はシュガーマンドラゴラのサトです」
「あら、丁寧にありがとう。私はギルド勤務の治癒師でデュリスの妻のシャロエラよ。
――ずっとお礼をしたかったの。この情報をデュリスに提供してくれてありがとう。すでに販売いただいた分はここにいるウォードンの仲間を含め、必要な人たちに配ったわ。
でもまだまだこれからも必要な人は現れる。だからこの発見は希望。沢山の人の希望なの。本当に、本当にありがとう」
そう言ってシャロエラはイーズの両手を取り、何度もぎゅっぎゅっと力を込めた。その目は涙に潤み、微笑みを浮かべる口元は微かに震えている。
「お役に立ててよかったです。でもこの情報をデュリスさんに渡すと決めたのは、フィーダ、あ、うちのリーダーです。
最初、この情報は重要過ぎてギルドには渡せないって三人とも思っていたんです。サトの友達がひどい目にあう可能性も捨てきれなくて。
だけど、フィーダはデュリスさんと話して信用できると判断しました」
イーズはシャロエラの手を力強く握り返し、彼女の眼を真っ直ぐに見つめる。
「この成果は、デュリスさんのものでもあります。デュリスさんがシュガーマンドラゴラを必要とする人たちのために怒る姿は、絶対に悪いことはしないとフィーダを確信させるに十分でした。
あの人は立派な人です。そしてデュリスさんが信用してここに検証にきている皆さんも」
「……ありがとう。そう言ってくれて本当に嬉しいわ。あの人は優しくて素敵な旦那様なの。
でも最初にこの話が来たときは、まさかと思ったのよ。シュガーマンドラゴラが私たちが必要な時に入手できるようになるなんて。でも、二日前にここにきて、とりあえず回復魔法を使ってみたら――」
そこでシャロエラは小さくフフッと笑う。
イーズもその先に何が起こったのか想像して、つながった手の間におとなしく収まるサトを見る。
「次の日には足元にシュガーマンドラゴラが?」
「そうなのよ! 変化が分かるようにこの開けた所に泊まったんだけど。朝起きたら、何もなかった場所に葉っぱがいっぱいあって!
ワクワクしながら、手順にあった通りもう一度その葉っぱに回復魔法をかけたの。そしたら、どんどんあの子たちが飛び出てきて。もう大笑いしちゃったわ。本当に……涙があふれて止まらないくらい」
「ひっでー顔しながら大笑いしてるおばちゃんは、なかなか見ものだったぞ」
「うるさいわね。大男は黙ってなさい」
「ヘイヘイ」
その光景を思い浮かべながらイーズも笑う。
きっとその涙の理由は笑いだけではなかったのだろう。でも、そこに悲しみは含まれていなかったはずだ。
「昨日あの子たちとずっと一緒にいてね、色々聞いたの」
「あ、ちょっと待て。そこからは全員で話すぞ。おーい、アイバーン!」
大きく名前を呼んで、ウォードンはアイバーンや残りのメンバーを集める。
「そういや、お前たちはいつまで攻略だ?」
「今日この階を確認したら帰る予定です」
「そうか。もう一日延ばすのは?」
「それはフィーダに確認が必要です」
「そこも相談か」
全員がその場に集まったが、ここで立ち話も辛い。
フィーダに目配せをして確認し、ハルとイーズのマジックバッグから机や椅子、さらに飲み物や食べ物を取り出して並べる。
「ハルも上等なマジックバッグ持ってると思ったが、 イーズまでかよ」
はた目にはバングル型のマジックバッグより更に小さな指輪から、どんどんお菓子を並べるイーズにウォードンは苦笑いをする。
「おいおいおい、そんなの俺たちに見せていいのかよ!」
「もうシュガーマンドラゴラで大きな秘密は共有してるから、いいかと思って」
「軽いな、ハル……」
呆れるアイバーンの肩にポンとフィーダの手が乗る。
「こいつらのノリに付き合うと疲れるから、あきらめろ」
「すでにあきらめきった目で言うなよ、フィーダ。怖いぞ」
「ガハハ! イーズ、お前実はすげえやつとか? 全然見えねえけど!」
「すごくないけど、ポーには言われたくない!」
とりあえず全員分の椅子もそろい、めいめいが好きな場所に腰掛ける。
サトや他のシュガーマンドラゴラには一旦自由にしていてもらうことにしたら、少しぎゃぴきゃぴ相談した後、おとなしく並んで地面に潜った。
「……ああやっていても、サトは見分けがつくな」
「一本だけ葉っぱが大きいですからね」
「前も思ったけど、全員ちょっとずつ葉の形が違う?」
「そこがシュガーマンドラゴラの採取を難しくさせるのよ。葉じゃ見分けがつかないから」
「おーい、話を始めるぞ。顔見知りもいるがシャロエラもいるから全員自己紹介だ」
ウォードンが指揮をとって、正式な紹介をしていく。
今回の確認任務はA級冒険者のウォードンを筆頭に、ギルド治癒師のシャロエラが指名された。
護衛任務はアイバーンがリーダーであるパーティーがつき、この場にメンバーであるゼウ、ライゼント、ポーもいる。
最後に、情報提供者としてフィーダ、ハル、そしてイーズだ。
「イーズが光魔法使いで発見のきっかけになったと聞いているが正しいか?」
「はい」
その返事にウォードンは小さくうなずいて、今度はシャロエラに話を振る。
「すでにもらっている情報部分で確認が済んでいる箇所と、追加情報をフィーダたちと共有してくれるか」
「いいわ」
シャロエラはポケットから小さな紙を取り出し、キリッとした顔で説明を始める。
「最初の対面まではスムーズに行えました。そこからは一体一体と対話する形で情報を集めています。
生態としては、普段はほぼ休眠状態で回復魔法を検知すると目覚めるようです。自我の芽生えも、おそらく最初の魔法を浴びることがトリガーになると推測しています。
目覚めた後、またしばらく……おそらく一週間ほど回復魔法を浴びないとまた休眠に入ると言っていました。活動状態を維持するには、一日一回の回復魔法が必要です」
その情報に、イーズたちはピクリと反応しチラリと並んだシュガーマンドラゴラを見やる。
端っこの大きな葉っぱが少しふるふると震えた気がした。どうやらうちのマンドラゴラは食いしん坊なようである。
「今回大きな発見となったのは、葉っぱだけでも提供してくれる意思があるということです」
「え? ということは一体丸ごと採取しなくていいってこと?」
「その通りです。運用は決めないといけませんが、おそらく必要な際はここにきて、協力してくれる個体から葉を採取することが可能です」
「切った葉はそのうちに戻ってくるのか?」
「本人の話によれば、 一年ぐらいで元に戻るそうです」
「一年か……意外と長いが、個体を丸ごと採取するよりも断然いい」
フィーダのその言葉に激しく同意するように、イーズは首を何度も上下に振る。
「一枚で五、六人分の解毒薬が作れますから。周囲にばれないように一年に一回、異なる個体から一枚ずつ採取させてもらうだけでも十分でしょう」
「それだけでも必要分を賄えるということか?」
「はい。数年に一回しかなかった時に比べればよほど余裕があります。
私としてはこの子たちに会いにもっと来たいんですけどね。今更冒険者に戻るのも不審に思われますし」
「さっき一緒に連れていく個体を決めると聞いたが?」
「あ、もうお聞きになったんですね。そうなんです。万一、集団で被害が出たり、ストックが足りなくなった時のために一体は一緒に来てくれるといいなと思っていたんです」
「グビョォ!」
「ゲゲゲゲゲゲゲゲ!」
「ヂャーーーー!」
「ゴギョギョゴゴゴゴ!」
「デュデュデュジュジュデュ!」
シャロエラの言葉の後、我こそはと主張するように、土の中から一斉にシュガーマンドラゴラたちのくぐもった声が聞こえてきた。
「ゲギョ……」
――おい、サトは関係ねーぞ。
――サト、関係ないよね?
――サト、可愛いなぁ。
約一名プラス一体、残念な子がいるようである。





