5-1. 恩の押し売り
本日より第二部第五章です。
前日は本編とサイドストーリーの二話をアップしていますので、読み飛ばしにご注意ください。
冒険者ギルドに入り、いつも通りの受付に並ぶ。
そして受付のキクノはいつも通りの薄い笑いを浮かべ、いつもとは異なるセリフを述べた。
「フィーダさん、ハルさん、イーズさん。お待ちしておりました。ギルドの担当者より、いらした際にお話を伺いたいと伝言が入っております。お時間がございましたら、奥の部屋にお通しいたしますがいかがでしょうか?」
来ると思っていたギルド員からのコンタクト。
フィーダは心の中で大きなため息をつきつつ、顔はそのままでキクノに向かって小さく頷いた。
数日前、五十階を攻略し三日間の探索を終えて、宿「賢者の食卓」に戻った三人。
無事を喜んだエッタの腕によりをかけて作られたご馳走を食べた次の日は、久々の休息日だ。
休みのルーティンであるドロップ換金と乗馬訓練を終えると、三人はそろって魚屋へ赴いた。
アイバーンに依頼されていたものを採取できたことを、魚屋のおばちゃんを通して連絡するためである。
「アイバーンたちの宿に行った方がいいのでは?」
「あいつらはジャステッド拠点で、ここに家族もいる。邪魔しても悪いだろう」
「え!? ポーも?」
「確か、結婚してるぞ」
夜の食堂でたまに酒を飲むフィーダは、意外に情報を集めるのが上手い。
ハルもそれに付き合いたいが、酒への耐性は育つ気配が全くない。そろそろ諦めた方がいいとイーズは感じている。
「じゃ、申し訳ないが、伝言頼んだ」
「あいよ! 早けりゃ午後に会うからよ。渡しとくよ」
そう言って魚屋のおばちゃんは、フィーダが預けたメモを掲げる。
もしかしたら今日の夜にでも宿に来るかもしれないと思っていたら、案の定ポーとアイバーンが夕食の席に乱入してきた。
「ゼウとライゼントは?」
「あいつらはあっちで食ってるよ。仕事抜きでここの飯は食いたいんだとさ」
フィーダが残りの二人の名前を出すと、アイバーンは食堂の反対側で大量の料理を注文しているテーブルを指差した。
「がはははは! イーズは毎日こんないいもん食って成長しないなんて、腹に暴食スライム飼ってんじゃね!?」
「暴食スライムって?」
「ん? 知らねえのか、そういう言い回しだよ。食っても太んねえ奴は、腹に暴食スライム飼ってるって言うな。イーズの場合は食っても身長伸びねえって奴だな! ガハハハハ!」
「とうっ!」
「ぶひゃ! 飲んでる途中で、横っ腹はやめろ、イーズ!」
「とうっ! とうっ!」
テーブルに並んだ料理を勝手に飲み食いし始めたポーの脇腹を、カンフーポーズでイーズが何度も攻撃する。
巨体のポーにとっては全く攻撃ではなく、くすぐりになっているが――いや、くすぐり攻撃なのだろうか。
相変わらず騒がしい二人をフィーダは無視し、アイバーンと話を進めだした。
「アイバーン、メモの内容は見たか?」
「ああ、あれは本当か?」
「本当だ。それで、どうする?」
「……正直、俺たちの手に余る。実際、可能性は低いと思って頼んだんだ」
「そうだとは思っていた。情報がほとんど集まらなかったから」
「ギルドに出せるか?」
「上は信用できるか?」
「俺たちは、する。話を通すやつも選ぶ」
「……なら、アイバーンに任せる」
「了解。他に頼んだのは後で受け取るよ」
「分かった」
横で二人の会話を聞いていたハルは、その内容に疑問を抱く。ただの一度も、採取してきたものの名前が出てきていない。
チラリとフィーダを見れば、彼は少し目をすがめるだけでそれ以上を語らなかった。
いつもより大人数で食べた大騒ぎの夕食を終え、部屋に戻ってアイバーンとの話し合いの詳細を三人で共有する。
というより、フィーダとアイバーンの会話に不穏なものを感じたハルが、フィーダの前に仁王立ちになって尋問を始めたのだ。
「それで、今回の攻略で何か問題があったのか? 話してくれ」
「イーズ、悪いが隠密かけてくれ。万一外に漏れたら危険だ」
「は、はい」
ハルの剣幕とフィーダの真剣な様子に、イーズは慌てて部屋に隠密をかける。
「ハル、話すから座れ」
静かに促すフィーダに、ハルも頷いてベッドに腰掛ける。
「問題はないはずだったんだ。まさか、シュガーマンドラゴラを四体も採取するとは思ってなかったから」
「シュガーマンドラゴラが問題?」
「いや、数だ。あれはマンドラゴラの中でもレア中のレア。数年に一体の採取と言われている」
「アイバーンはそれを知っていて依頼を?」
「本人も認めていた。可能性は低いけど依頼したと」
そこでフィーダはハルとイーズを順番に見つめた。
「すまん。先に相談すべきだった。だが、アイバーンには一体以上確保とだけしか言っていない。四体という数字を出すのはまずいと思った」
「なぜ、そんなにシュガーマンドラゴラが重要なんですか? 貴重な薬の材料になるとか?」
「それは……ハル。ハルはマンドラゴラの葉の鑑定はしたか?」
フィーダに聞かれて、ハルは鑑定した時のことを思い出そうとする。あの時は、ハートマークが衝撃的過ぎて他の内容を見たはずなのに、何も出てこない。
「悪い。覚えていない」
「いや、いい。シュガーマンドラゴラは本体よりも葉に価値がある」
そう言われてイーズは、シュガーマンドラゴラの器用に動いていた葉っぱを思い浮かべた。
土から出てきたり、パタパタと体を払ったり。最後のお辞儀は悲しくも、とても美しい所作だった。
「葉っぱ……可愛かったです」
「か、可愛いかどうかはわからんが……あれはどんな毒にも効く解毒剤になる。その特性から、王族、貴族が必ず欲しがるものだ」
「解毒……」
「王族や貴族……」
「ハル、聞かなかったことにできますかね?」
「イーズ、諦めろ。フィーダに道連れにされたぞ」
二人で盛大にため息をつき、フィーダに視線を向ける。
彼は若干申し訳なさそうだが、何か他にも意図していることがありそうだとハルは感じとった。
「それで、アイバーンに一体確保ではなく、一体以上と告げた訳は?」
「ギルド上部に繋ぎをとってほしかったから」
「……なぜ?」
「そうすれば、ランクが低いままこの国の中を移動しても、トラブルになりにくいと思った。ランクが低い間は、冒険者は一箇所にとどまりがちだ。慣れた狩場で経験を積み、ランクを上げてから実入の良い場所に移動する」
フィーダは二人から視線をそらすように、何もない床を見つめて話を続ける。
「お前たちが冒険者としての成功を求めていないのは分かっている。だったら、他の方法で守られる手段があればと思った」
「シュガーマンドラゴラでギルドに恩を売って?」
「……そうだ」
フィーダの返事を聞いて、ハルが息を吐き出しながらガシガシと頭をかく。
それから俯いた顔を上げ、ビシッとフィーダの前に三本の指を突きつけた。
「三つ、言いたいことがある」
目の前に迫る指にのけぞりながら、フィーダは神妙に頷いた。
「まず、俺たちが行く場所にはC級冒険者であるフィーダも一緒だ。C級もトラブルに巻き込まれるとでも?」
「……可能性は低い」
「だろうな。まず、一緒に行動してないような言いっぷりが気に入らない」
「……すまん」
「んで、二つ目! 俺たちのことを考えての事なのに、申し訳なさそうにするな。そりゃ相談してほしかった。でも、どうなるか分からないけど、俺たちのプラスになるなら胸を張れ!」
「分かった。次は相談する」
「よし。んで、三つ目。イーズ、言っちまえ」
三本の指をワキワキ動かしながら、ハルは最後をイーズに譲る。
ずっと二人の会話を聞いていたイーズは、突然のハルの無茶振りに目を瞬かせ、必死に考える。
「えっと、三つ目……あ、あった」
「ビシッと言っちゃえ」
「なんでも聞く」
「ギルドに売るのは、マンドラゴラを採取した方法と、採取したマンドラゴラのみのどちらですか?」
「相手の出方次第だ。情報を売るのは、よっぽど良い条件が提示された場合だけになるだろう。あと、マンドラゴラを売る場合は、一体は手元に残しておきたい」
「分かりました。もし情報を売ることになったら、あの子たちがお金持ちに乱獲されないよう約束を取り付けてください。それだけは譲れません」
「分かった」
「え? それだけ?」
未だフィーダの前でワキワキと動くハルの三本の指のうちの一本をイーズはつかみ、無理矢理おろさせる。
「いてててて」
「はい、以上です」
にこやかに笑うイーズの目を見て、ハルは大人しく三本の指を全ておろす。
「それにしても葉っぱに価値か。本体だと思ってた」
「今鑑定しても見れるんでしょうか」
「やってみたいけど、いいかな?」
「あの子たちをみると罪悪感に駆られそうですが……一体だけ出しますね」
そう言ってイーズは一体を指輪から出し、そっと両手で自分のベッドの上に乗せる。
白く丸いマンドラゴラはあの喧騒が嘘のように、鳴きもせず動きもしない。
「……やっぱり動かないですね」
「だなぁ。あ、葉の鑑定出た。フィーダの言う通り、万能な解毒効果があるって。
ーーあれ? 嗜好の情報出なくなったな」
「動いて意思がある間だけ出る情報なんでしょうか」
「それは、ありえる。おそらく葉の効果を見つけたのは鑑定士だ。なのに今まで回復魔法を好むという情報が出てこなかったのは、採取されたものしか鑑定していないからだろう」
「なるほどね。鑑定にも穴があるってわけか」
なるほどと納得しながら、イーズはベッド上のマンドラゴラを見ると、あることに気づいた。
「この子、一番初めの子ですね。ほら、ここの葉っぱに特徴があったので覚えています」
イーズは外側にせり出した大きめの葉に触れながら説明する。
「土から出る時にこの葉がペタンって横に広がって、本当に手みたいに見えたのを覚えています」
「ああ、あの時のね。よく見てたな」
「衝撃的なシーンすぎて忘れられないですよ」
ちょっと曲がった葉を撫でながら、イーズは小さくつぶやく。
「回復魔法をかけたら、また喋ってくれるかな……」
少しだけ三人でマンドラゴラを見つめるが、変化は見られない。
「なんてね、やっぱり駄目で」
「ケキョ!」
「「「ええええええ!」」」
聞き覚えのある声に三人が振り返れば――
そこにはベッドの上で自慢げに立とうとして、シーツに足を取られてコロコロと転がるシュガーマンドラゴラの姿があった。
「ケキョーー!」
昨日活動報告をアップしています。
もし、シュガーマンドラゴラってどんなんやと思われる方は、イラスト置いたので覗いてみてください。





