1-6. おわり
読んでくださりありがとうございます。
第ニ部第一章 最終話となります。
短いサイドストーリーを17時にアップします。
明日からは第二章「初回攻略編」となります。
引き続きよろしくお願いします。
「お待たせしました」
「おう、温まったか? 髪乾かすよ」
「はい、お願いします」
ベズバロを出て三日。途中で一箇所町を経由したが、そこには泊まらずそのまま二人で旅を続けている。
何故って、今はお風呂を十分に楽しみたいから。その一言に尽きる。
「ハル、髪が風でめちゃくちゃです」
「難しいな。水分は飛ばせたから、あとちょっとな気がするんだけど」
「マーライオンの次はドライヤーとは、生物ですらなくなってます」
「元々マーライオンも生物じゃないだろ」
「自ら人間を辞める発言……」
「辞めてない」
最近ハルは、水属性と風属性を組み合わせた技の開発に凝っている。マッドな感じも漂う厨二真っ最中。
風呂の後の人間ドライヤーもその一つらしい。
伸びてきて鬱陶しい髪がすぐ乾くのでイーズも文句は……言ってるが不満はない。今のところ。
「ハルも髪伸びましたね。どうするつもりです?」
「どうしようか。この髪って切ったらどうなる?」
「切った瞬間偽装が解けて黒くなりますね」
「だよな。そうなると散髪屋に行くわけにもなぁ」
今二人の髪はイーズの偽装スキルにより、こんがりと揚がったコロッケのような茶色になっている。
なので、散髪屋で切って体から離れた瞬間、床に落ちる頃には元の黒に戻ってしまう。なんて摩訶不思議現象。
「いっそのこと偽装を止めますか」
「……リスクが高いな」
「ですよね」
この世界には、勇者として地球から様々な国や人種の人が召喚されている。そのため黒髪イコール勇者ではない。
ただ、残念ながら一般的ではないのだ。
黒髪は地球産で、はるか昔にはこの世界にはなかった色らしい。よって黒髪を持っていると、必然的に賢者の家系と認識される。
さらに当たり前ではあるが、賢者は爵位持ちになるケースがほとんど。よって、黒髪イコール賢者の子孫イコール貴族という嬉しくもない方程式が成り立つ。決してテストで出ないけど、ここ異世界の常識らしい。
貴族として扱われる面倒臭さは、ベズバロでもう体験済みだ。お腹いっぱいである。
「選択肢は三つだ」
ハルが指を三本立てて、ワキワキと動かす。以前も見た仕草。
「一つ、そのままロン毛になる。二つ、信頼できる散髪屋に頼む。三つ、自分たちで切る」
「三番目は回避したいです。丸坊主になる未来が手を振っています。川の向こうで」
「その川は渡るなよ。ジャステッドには長くいるつもりだから、その間にいい散髪屋が見つかれば解決だけどな。それまでは選択肢1で」
「長くとはどれくらい?」
「少なくともイーズの成人の儀まで」
「思ったより長いですね。五ヶ月って召喚されてからと同じくらいの期間です」
ハルはタブレットを起動して、アブロルで立てた半年の目標を指差しながら説明する。
【目標: 半年間】
・ジャステッドでフィーダと合流
・ハルのスキル訓練(ダンジョン探索)
・イーズのスキル候補選定
・フィーダのスキル確認並びに連携確認
・商会リストに基づく今後のルート計画
「フィーダとの合流は俺たち側は問題ないから、フィーダを待つ形になる。二番目から四番目の目標を見据えて、長期滞在もいいかなと思ってる」
さらにハルの説明では、一般的に冬に旅をする人は少ないため春までどこかに拠点を置いたほうがいいとのこと。
ジャステッドにはダンジョンがあり冬の間も冒険者として活動できるのが利点だ。
またダンジョンで経験を積み、慣れたところでイーズが成人の儀を迎えれば、新スキル獲得後の肩慣らしや連携確認もスムーズにできるだろう。
「なるほど。ジャステッドでしばらく過ごすのにはメリットがたくさんありそうですね」
「だろ? 冒険者ならもうすでに冬用の拠点を押さえ始めているかもしれない。お得な宿屋は埋まってそうだな」
「そこは考えてなかったです。そっか……ちゃんとそういうのも見越して旅をするんですね」
「バイヤーの時、アイドルイベントとか盆正月とかに重なって何度も酷い目にあったからな。自分だけじゃなく周りの動きを見るのも重要だ」
「経験者は語るってやつですね。お得にいい部屋、ついでに美味しい食事が出る所! 見つかるといいですね」
「高望みはしないでおこう」
「はーい」
気ままな二人旅もあと一日ちょっとで終わる。
お風呂を大自然の中で満喫できるのも今日までだ。
少し名残惜しいけれど、新しい街とフィーダとの再会が待っている。
「ダンジョン肉が待ってるぞー!」
「おーー!」
次の日、ジャステッドが近づいて馬車や人通りが多くなったところで、イーズとハルは隠密を解いて荷物を持って歩き出した。
ジャステッドはダンジョンを有する都市だが、その形は異様だった。
「バームクーヘンを見上げてる感じ?」
「なんとも……中が全く分かりませんね」
ジャステッドのダンジョンの等級は二級。つまり異世界人の協力なく、この世界の人たちだけで立ち向かわなければいけないダンジョンの中で最難関レベルである。
このジャステッドには魔獣が氾濫してダンジョン外に出た際、二重三重でその行手を阻むための仕掛けが都市全体に施されている。
さらには一番外側の外壁は厚さが十メートルを超え、中に住民が避難できるようになっている。これは住民の命を守るためだけでなく、魔獣と戦う冒険者や傭兵が二次被害を気にせず戦闘に集中できるようにするための配慮ともなっている。
「中心近くにダンジョン、その周辺は冒険者向けの宿が多いみたいだ。少し離れてギルド、職人街、一般住居だな。
壁際に近い方が安全で、領主や市政関連が集まってるらしい」
「そう聞くとやっぱり変わってますね」
「ダンジョンに生活を支えられ、でも氾濫に怯えているって感じだ」
「二級だと氾濫周期は長いんですよね」
「百年前後だな。人の代替わりが完全にする前ということは、恐怖もある程度引き継がれるか」
「ジャステッドの前回の氾濫はいつ?」
「それは、」
「――十三年前だ」
「え?」
町に入るための列に並んでいた二人の後ろから、不意にイーズの質問の答えが降ってくる。
思わず振り返れば、固そうな冒険者装備を着た――お腹?
イーズの真後ろに立っているため、ほぼ真上を向かないと顔が見えない。
――首痛めそう。
グッと見上げてやっと顔を含む全身を認識すると、そこには使い込まれた革鎧を着た大柄な男性が立っていた。
縦にも横にも厚さ的にもイーズの倍近くありそうだ。いや、縦に二倍はない、おそらく。
「――十三年前の氾濫を抑えるのに参加されたんですか?」
「おうよ。まだ成人したてでガキだったけどな。でもそこのチビの二倍デカかった頃だ」
「余計な情報を」
「では、しばらくは安全ですね」
「そう思うか?」
「え?」
「ダンジョンが安全だと思ってたら、冒険者としてやってけねえぞ、坊ちゃん」
「――そうですね、確かに。お言葉感謝します」
「ぐはっ、やっぱり坊ちゃんじゃねえか。大丈夫か? やってけんのか?」
「これから鍛えてくれる仲間と合流する予定です」
「ならいいけどよ。人生経験たくさん積めよ」
「ね、おっちゃんはジャステッドの人?」
「チビ、にいちゃんと呼びな。にいちゃんはダンジョン氾濫を追っかけて回ってる攻略家ってやつだ。今回はダチに会いにちょっとな」
「攻略家!」
「普通の冒険者と違うんですか?」
「身分は冒険者だ。ただ、氾濫にはその土地の冒険者だけじゃ対応できないことが多い。不慣れな冒険者を集めても足引っ張るから、攻略経験があるやつをギルドは集めたがる。で、自然にできた攻略専門の冒険者を攻略家って呼ぶわけ。モグラって呼ぶやつもいるけどな」
「カッコいい!」
「だろ?」
その後も列が徐々に動く中で、この大柄な攻略家は有益な情報を惜しみなく二人に分けてくれる。
ダンジョン攻略に必要な装備、潜る際の不味い携帯食、潜っている間の宿の扱いなど多岐に渡る。
「是非お礼をさせてください」
「おう?」
「こんなにも貴重な情報を無料でいただくわけにはいきません」
「お坊ちゃんは頭が硬いなぁ。素直に受け取ればいいのに」
「でも」
「じゃ、生きろ。俺の言葉が貴重と思うなら、ちゃんと利用して生き延びろよ」
「それは――はい、もちろんです」
「にいちゃん、これあげる。美味しいよ」
「お、ありがとよ」
イーズは肩にかけた背負袋から出したお菓子を渡す。
イーズの顔より大きそうな手のひらにコロンと乗ったビスケットを、男性は一口であっという間にゴリゴリと噛み砕いてしまった。
彼の拠点はジャステッドじゃないようだが、春まで冒険者をしていればまた会うことがあるかもしれない。
入門の手続きを終えて、さっさと去っていく大きな背中を見送りながらイーズはなんとなくそう感じた。
「話に夢中で手続き全く見てませんでした」
「冒険者証見せるだけだったぞ」
――ハルは決して言わない。
イーズが冒険者証を取り出した時に、受付担当がギョッとしていたことを。
――ハルは決して言わない。
担当者が、ハルの時には使わなかった機械にイーズの冒険者証を通して何事かを確認していたことを。
――ハルは決して言わない。
後ろにいたあの冒険者も驚愕の表情をしていた事を。
本人が知らない方がいい事って、この世界には溢れているんだから。





