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5.局地的猛暑


 文学部の部室に首振り扇風機の出番がきたらしい。

奥まった日陰にある部屋なので、窓を開けていると風が通り抜けてくれる。が、暑いものは暑く…ハンディーファンに下敷きの二段構えであおいでいると、「ゴゥン…」と聞き慣れない音がした。驚いていると、カビ臭いにおいとともに頭上から風が吹き下ろされてきた。


「え?クーラーつくんですか?」

「ああ、ついたな…初めてつけた」

「え?え?今まで扇風機だけだったんですか?」

「ん、俺だけしか居ないのにもったいないだろう?」


(真面目かっ!!)私は盛大に心の中で突っ込みながらも先輩に感謝し、もしや私が暑がっていたから?なんて自分に都合の良い様に解釈しつつ……あまりのカビ臭さに窓を閉めるのを躊躇していると、部員先輩達が入ってきた。

 二人揃ってクーラーが稼働している事に驚きながら、先輩とお互いの小説の事や、コネクトのコネローやコネラー数について話し合っているみたいだ。ふんふんとその内容に耳を集中させながらも雑誌をめくる私。

 話題は小説のランキングや閲覧数に移り、先輩が冷やかされている。

 何故なら先輩の作品は完結後ランキングをぐんぐん駆け上がり、今では10位ランクインも夢ではないほど射程距離に捉えているらしい。

 

 感想欄を見ても好意的なものが多いので先輩の作品が読者に受け入れられているのだろうと先輩を褒めている部員先輩の言葉を聞いて、おっいいこと言うじゃないか!なんて上から目線でソファーにふんぞり返ってふんすふんすしていると、もう一人の先輩が「でもさぁ、」と前置きをしてから言い放った一言。


「あのエピソードっては元は俺のアイデアだろ?」


ーシンーとその場にいた全員の視線が発言をした先輩に集まったのが分かった。


「違うよ、俺のはテンプレ通りの展開だけど、お前のアイデアはもっと型破りだっただろう?それでも例え同じアイデアで同じエピソードでも、お前が書いたらもっと面白くなると思うけど……」


(天然に勝る皮肉無し!!)先輩、先輩にも同じ事が言えますからね?先輩が書いた作品、ちゃんと評価されてますよ!私は部外者だから口を挟めないけど、ここに先輩の一番のファンがいますからね!


 私でさえ「あぁん?」ってなった発言を、先輩は素直に友人として、仲間として返事をしたんだと思ったら胸が締め付けられた。どこにキュンポイントがあったのかはわからないけど……。私はクーラーが効き始めたにも関わらず体に熱を持ったのを感じた。



ーこれが私が先輩を惚れ直した瞬間ー



 先輩二人が帰ったあと、私は急いでコメントした。拙い文章なのはご愛嬌、ともかく伝えたかった。先輩を、先輩の小説を応援している人間がいる事を伝えたかった。

 動機は不純かもしれないし、小説の専門的な事は分からないけど……。私が読んで面白かった所、ハラハラした所、感動した所を全部書いた。


「ふふふっ、この人素直過ぎるだろ」

「どっ…どうしたんですか?いきなり……」

「いやっ、感想がついたんだけど…ふはっ」

「え?なんで笑ってるんですか?」


 先輩のパソコンを覗いてみると……ひどい誤字脱字に支離滅裂。小学生の感想文でもまだマシかもしれない文章が残されていた。

(うわぁぁーー!!!!!!!)

ー私は部室の中心で恥を叫んだ……(心の中で)ー


「こういうの見ると嫌な気分も吹っ飛ぶよな」

「ん?先輩嫌な気分だったんですか?さっきの?」

「おん、一瞬な…でもああ思ったのも本当なんだ。あいつの方が先に小説書いてたし、文章だって構成も上手いし正直な気持ちだったんだ、お前もそう思わない?あ!あいつの読んだ事ある?」


 読んだ事はある。でもストーリーが壮大過ぎて、ほとんどが説明で、スキルも特殊過ぎて想像しにくかったし、キャラの背景も後出しが多かった様な……。

 あれ?私今ちょっとそれっぽくなかった?詳しくなっちゃったかも!

 一人百面相をしていただろう私を見た先輩が、


「俺のは?俺のは読んでくれてんの?登録とか面倒だったらデータ渡すから……また読んでほしい」

「っっっ!!!!!!?????▲×#≡………」


(先輩っ!どんな顔して言ってるの?こっち向いて、そんな大事なこと…ちゃんと私を見て言って!)


ゴゥンゴゥンとちゃんと稼働しているはずのクーラーと、カタカタと首を振っている扇風機もついてるのに……。

 いつまで経っても涼しくならないのはなんでなんだろう?誰のせいなんだろう……。






 



 

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