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3.お悩み解決


 その日はカタカタとキーボードをたたく音がしてきたので顔を上げて確認すると、先輩が手書き原稿ではなくパソコンを使っていた。聞くとこの前の話し合いで、小説を投稿サイトに載せる事が決まったのでその作業をしているらしい。

 ちなみに他の二人はすでにそこで活動していたらしく、先輩は遅ればせながらの参加らしい。


「紙の原稿への未練が無いわけではないが、目の肥えた読み手が沢山いて、運が良ければ感想や評価を貰えるらしい。」

「へぇ…すごいですね」

「ああ、他人の書いた物も読めるみたいだし、あいつらには以前から誘われてはいたから思い切ってな」


 こうして何やら心境の変化でもあったのか、先輩は小説を投稿サイトで書くようになり、その作品は誰でも自由に閲覧出来るようになった。勿論私もこっそり登録をして先輩を追いかけた。


 これからは頼まれた時以外でも、自由に先輩の小説が読めるようになるんだ!と、思う反面……先輩の字で書かれた小説を読めなくなるのだという寂しさも感じた。そしてそれらとは違う『モヤモヤ』とした感情ものも感じたが、私にその正体がハッキリわかる事はなかった。


ーーーーーー


 傘が乾く暇もなくなってきた頃、友人達に誘われるカラオケも断って、私は今日も先輩のいる部室へと向かった。

 付き合いの悪くなった私を怪しんだり、私の顔を見てニヤニヤしたりと友人達の反応は様々だったが…なんとか誤魔化した。


 最近気付いた事だが、こんな日は先輩がほんの少しだけお喋りになるのだ。

 ソファーに座り、外の雨の音とともに先輩の話(声)を聴けるその時間を少しも逃したくなくて小走りになってしまう私。


 しかし部屋に着くと他の先輩達もいて、部屋に入るのが躊躇われた。


「傘、持ってなかったのか?」


 私に気付いた先輩が、ゴソゴソと自分の荷物からタオルを差し出してくれた。雨で体育が無くなったから未使用だと付け加えて。

 私はタオルを使うほど濡れてもいなかったが、ありがたくそれを受け取り指定席へ座りお礼を言ったが、きっと先輩の耳には届いてなかったと思う。


 部員でもない部外者の女が、特等席であるソファーを独り占めしているだけでも十分なお叱り案件であるのに、他の先輩達に対して早く帰んないかなぁ…なんて失礼な事を私が思っていると、深刻そうな内容が聞こえてきた。


 部外者の私は口を挟まず大人しくしていたが、先輩二人がいつもの様に無事←帰ったので、さっき思った事を先輩に伝える事にした。

 

 先輩達はどうやら投稿している小説が、ポイントを獲得する以前に読まれていないと困っていて、SNSでの宣伝も考えてはいるが…三人には未知の世界ゆえ躊躇していたようだ。


「『コネクト』っていうんですけど、沢山のサークルやグループがあるからそこで同じ趣味の人達と繋がれるし、自分のページに小説のリンクを貼ったら色んな人に読んでもらえるようになるんですよ!」

「お前っ詳しいのか?」

「私が使ってるのは別のだからそこまで詳しくはないですけど、ここなら活動場所やタグを絞ればそこまで変な人に絡まれる事も少ないんじゃないかなぁと……」


 思った以上に先輩の反応が良くて、食い付きがすごいから本当に行き詰まっていたのかもしれない。

 なんとか紹介文やリンクを貼るところまでが無事済んだので、後は反応を待つだけとなった。

 

「お前がこういうのに詳しくて助かった!早速あいつらも誘ってみるよ、あ…ありがとう…な」


 机に戻り作業を再開する先輩。先輩の役に立てた事が嬉しくて、きっと私の頬は緩んでいたと思う……。

 雨の音だけがやけに大きく聞こえる部屋で、二人して俯いたまま会話は途切れてしまったが、心地良さすら感じていた私は今回もしっかりアカウントを作っていたのであった……。







 

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