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売り物だって手作り品


「楓からのプレゼント……だろ、きっと」


 あげる、ともプレゼントとも言われてないので、戸惑っていたアレクライトだったが、月華の言葉に顔を綻ばせる。

 そして月華は、マフラーの先端に大きなぼんぼりをつけてマフラーを完成させる。

 そしてゼランローンズの首に巻きつける。


「よし、長さ大丈夫だな」


 通常より長めに作ったが、体の大きなゼランローンズには、ぴったりの長さになる。

 太い毛糸で作ってるから、ザクザク作れて完成も早い。


「む? 何故俺に巻くのだ?」

「ゼラ、マフラーしてなかったから」

「あぁ、持っておらんからな……」

「んじゃ、邪魔じゃなければ使って」


 ゼランローンズもプレゼントを貰ったようだ、とアレクライトがほっこりした気分になる。

 月華は道具を片付けて風呂へ行った。


「家宝にする……」


 ゼランローンズはマフラーをギュッと抱きしめて、言葉を漏らす。

 気持ちがよくわかるのでアレクライトも頷く。


「それにしても、首のあたりが心地よいな」

「多分、気分の問題が大きいと思うけどね」


 目の前で、糸が編まれて作られていった、正真正銘、彼女らの手作り品。

 意中の女性からの、手作りプレゼント品。

 楓なら何かしら気遣いの形で渡すのは予想がついたが、月華からというのは、考えづらかったこともあり、男2人はかなり驚いてしまったようだ。

 しかし、いつも通りの無表情気味な渡され方に、アレクライトはこっそり哀しい目を向けていた。



 そんな男たちの思いとは、全く違う感想がお風呂場では飛んでいた。


「質の良い毛糸だから、すっごい手触りよかったわぁ」

「だな、あれ日本だと1玉ン千円しそうだ」


 まるでカシミヤのような手触りだった。

 羊の毛ざわりがとても良いのだろう……。そう思いながら毛糸の感想を口々にする女性2人。


「楓さんや、ちゃんとプレゼントと言わないと、アレクに伝わらないだろうよ」


 戸惑っていた彼を思い出して月華は言った。楓は顔を真っ赤にして恥ずかしい……と口籠もる。


「つ、月華こそゼラにマフラー渡したのよね?」

「あぁ、持ってないって言ってた」


 恥じらわないでサラッと言うあたり、ゼランローンズの脈なし感ヒシヒシ伝わるが、月華はこういう子だ……と楓は思う。

 何とか意識を向けさせたいが、何せ恋愛経験ゼロのヤツを相手にした事はない……。どうすればいいのか見当もつかない。

 いつか、何かで、不意に、トキメキが起こる事を祈るしかない……と自分がどうこうする事を諦める。


「手作りって気持ち的に、ハードル高いとか重たいとか言われがちだから、渡してしまって良かったのか気になるところだわ……」

「そうなのか? この世界、量産品無さそうじゃないか?」

「そういえばそうよね……」


 一般の服屋で売ってる服も工場生産ではなく、縫子さんが作ったものだったり、家で針仕事をしてる人の持ち込みの委託販売だったりする。

 ミシンがあるので、手縫いよりは早いが、電気のミシンではないので、ガツガツ量産するものではない感じだ。

 それよりは一点物を作って、価値をあげてるような感じに思う。


「店の物も一点物っぽいし、手作りが重たそうな感じはしないだろ、きっと」

「確かに言われてみれば、何かを渡すにしても全部誰かの手作り品になるものね……」


 手作り品を渡すのが重い、とネット上で見たので不安になっていたが、心が軽くなる。

 よく考えればアレクライトとテラリウムを交換だってした。あれだって手作り品だ。

 ならば2回目だし問題ない、と楓は大きく頷く。

 変に意識してしまった自分がちょっと恥ずかしい。と思いながら、月華の髪に香油を塗って櫛で梳かす。


 風呂から出ると、ゼランローンズが髪の毛を乾かしてくれる。

 気候に合わせて火の威力を調節してるようで、心地のいい風でふわりと髪が乾く。

 礼を言いソファに腰かけると、アレクライトがネックウォーマーをしたまま寛いでいた。


「寒いの?」


 楓が訊くとアレクライトは首を横に振るい、口を開く。


「着けていると心地よくて……」

「あ、やっぱりそう思う? なんか編んでる時から手触りすごくよかったのよ!」

「……うん、ずっとつけてたい感じ」

「わぁ、そんなに?! 私も早く自分の分作ろう!」


 ゼランローンズに髪を乾かしてもらって、ソファに着いた月華から質問が飛ぶ。


「楓はネックウォーマー派なのか?」

「そうね。満員電車で、マフラーが降りる人の波に引っ張られてから、ネックウォーマーに変えたのよ」

「……あ〜〜〜」


 それは経験した事はないが、何となく予想がついてしまう月華は、鈍い声をあげる。


「それにしてもこのネックウォーマー? 面白いね、かぶるだけで済むからほどけるのを気にしなくていいし」

「え? ネックウォーマーないの?」

「冬はみんなマフラーだよ?」


 アレクライトが教えてくれる防寒具事情に、月華の目が光る。

 スケッチブックを取り出して、冬の防寒アイテムをガリガリ描き込んで、ディジニールへ金になる物を訊ねようと決める。

 王都の冬は長いし、何だったら来年だってある。

 稼げそうな物は何でも流用してやる、と思いついた物を書き込んでいった。

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