分母が多いのがいけないと思います。
昼食を食べて、楓とアレクライトはお目当ての多肉植物専門店に向かう。
ここは植物が名産らしく、花屋も多肉植物も観葉植物のお店もかなりある。
大きな植物園もあり、公園もあり、緑豊かな町だ。
ゼランローンズ実家あたりに比べると幾分かは暖かいが、気温は秋のものだ。
道の木々も黄色や赤の色を帯びている。
かれこれ1時間
どの植物がいいか、吟味してる楓とアレクライト。
お互いイメージが浮かんで浮かんで、大変なようだ。
別のエリアでゼランローンズから植物の説明を受ける月華。
「……長いな」
一通り説明を受けても、まだあれこれ悩んでいる2人の後ろ姿を見ながらポツリと言葉がこぼれる。ゼランローンズが宥めるように声をかける。
「そう言ってやるな……女性は買い物で悩むと聞く」
「そのカテゴリーに、わたしは入らないぞ」
「性格の問題だろう……。ちなみに、ツキカは欲しいものがいくつもある場合はどうするのだ? おそらく今の状態が、彼らのそれだと思うのだが……」
「あの場合、多肉植物が欲しいという状態だから、手に入れる種類を決めて、店員さんに無作為に選んでもらう」
その方法を実践させようと、ゼランローンズは悩む2人に近づく。
「どうしても欲しい種類をいくつにするか決めて選んで、ほか同じ種類分、相手に選んでもらっては如何かな?」
ゼランローンズが、楓に提案すると彼女は大きく頷いて、5種類選ぶ事を決める。そして、選んだ5種類と重複しないように更に5種類アレクライトが選ぶ。
楓の分とアレクライトの分を、そうやって互いに選び合って、買い物が終了した。
王都への貨物馬車が出ているので料金を払い、自分たちが王都につくであろう頃合いに届く便に指定して、代金を払いお店を後にする。
アレクライトと楓は、植物園に観光に行くとの事で、月華は昼寝したいから宿に帰ると言って別れた。ゼランローンズは月華を1人にする気がないので、一緒に宿へ戻る。
「観光してきたら? わたしは宿で寝てるし」
月華はゼランローンズに問うが、彼は首を横に振り大丈夫だと告げる。宿に着くと月華は宣言通り昼寝してしまった。
植物園にはそれなりに人が入っていて、賑わってる。
木や草花に名前の札があって、見た事のない植物が沢山ある。葉っぱの形が知っている葉の形状と違っていたり、色がハート型のグラデーションになっていたりと、見ていて楽しい。
植物はどんな薬になるか書いてあったりする。
「アレク、ポーションって回復薬の事?」
「えっと、回復薬ってのは疲労をほんの少しだけ軽減する"気がする"ものでしか無くて、ポーションは、それとは別の解毒剤や麻痺解除とかの薬の事をまとめて、ポーションって呼ぶんだ」
ポーションは、状態異常緩和薬一般を指すらしい。
モキソニンとかバフォリンのような薬が液体になったものだろうか……と想像する。
回復薬は言うなれば、ユンケロやリポピタンの様な栄養ドリンクだな、と自分の知っているものに当てはめておく。
魔法はあるのに、ゲームのような回復が一般的に存在しないのは不思議、と思いながら楓は植物を眺めてる。
物販コーナーへ行くと、メイプルシロップ、ジャムなど植物園にある物に関連した商品が並んでる。
染料が売っていたりもして、やはり植物に因んだものが多い。
フレーバー紅茶もあるので、3種類ほど買った。
香水も置いてあり、植物の香りが書かれてある。
「瓶も可愛い!」
香水瓶を手に取り、くるくる回して瓶を眺める。鈴蘭の香りの香水瓶は、瓶に鈴蘭の形に細工が施され、作りが細かい。
職人の手作り瓶なので、模様が同じ物は無い。自分の気に入った形を見つけたくて、吟味してる人が多い。
香りも植物園らしく、自然な香りが多くて、きつい物がないので、選びやすい。
自分用と月華へのお土産もひとつずつ買って、石鹸も2種類ほど買う。
「買いすぎたわ……」
つい可愛い物に釣られて、他にも色々買ってしまったが、消耗品ばかりなので積極的に使おうと、楓はひとり頷く。
ここにも置いてあった多肉植物は、かなり買い込んでしまった。
王都にあるディジニールの家に送付する手続きを行って、テラリウムのメイン部分はバッチリだ。
「ここのお土産コーナー、実はかなりお買い得なんだよ。王都にある似たような物は、かなり高い上に質がよくないらしい」
植物園の植物を加工する工房があるので、染め物の布や服もかなりお安く手に入るらしい。
気に入った布や毛糸も買ってしまおう、と楓は開き直る。
ちゃんと自分で稼いだお金だし、この世界に来たばかりで自分の物は少ない。少しでもお気に入りの物を増やして自分の世界に愛着を持ちたい。と思った。
そして買い物をして宿に戻ると、広い部屋にはゼランローンズだけだった。月華は本当に昼寝してるらしい。
簡素な部屋にそっと入ると、月華が寝ていた。
そう言えば、月華の寝姿は初めて見る……と楓は思う。
すると月華はムクっと起き上がる。
「おかえり」
「ただいま、これお土産!」
桜の香水を渡す。月華は受け取り、瓶の細工に目を見開く。
「ありがとう、綺麗な瓶だな」
「桜の香り大丈夫?」
「あぁ、好きな匂い」
「よかったぁ」
鞄に、買った物・貰った物をしまったら、午後のお茶タイムである。




