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ストーカーのプラス思考怖い


 月華は御者台に向かった。

 ゼランローンズが御者をやってる時は、かなり御者台に行ってる気がする――とアレクライトは前方の引き戸を見つめている。


「秋のような気温とはいえ……寒いことには変わりないのに、外に行く気になれるわね……」


 寒がりの楓は、頻繁に外に行く月華が、未知の生物のように思えてくる。



「なぁ、ゼラ。さっきから一定距離を保って、馬車がついてくるんだが、何なのかわかるか?」


 前方の会話……月華の言葉が聞こえて、アレクライトと楓は、馬車後方の小窓をちょっとだけ開けて、様子を見てみたが、それらしい物は無い。


「ツキカ、何も見えないよ?」

「坂道を上がる時に見えるんだよ」


 アレクライトの言葉に返ってくるのは、少々限定的な場面で見えるものだということ。

 なんで御者台にいるのに後ろが見えているのかと、アレクライトは疑問に思うが、カーブなどでついてくる馬車が直線上にいない時に、横目でほんの一瞬ばかり、数度見えたそうだ。 


「む、何者かにつけられているのか……少し急いでみるか」


 馬車の速度が少しだけ上がり、そして道が坂になってる所に差し掛かると、アレクライトは身体強化で、視力を上げて後方を凝視する。


「げっ!」

「何か見えたの?」


 アレクライトが不穏な声を上げると、楓は不安になる。

 小窓から離れて、楓の言葉に頷くと、盛大なため息を吐き漏らす。


「ドゥラークの令嬢だ……」

「あぁ、ゼラのストーカー……」


 先日のやり取りを楓は思い出す。

 事実を言っても、捻じ曲げて捉える、あの令嬢がゼランローンズをつけているようだ。


「ゼラ、ローゼリアが強壮剤を寄越せって言ってる」

「む? しかし……」

「『某、あの香水女を疎んでいる故、距離を開けることに賛同する』との事だ」


 馬車を一旦とめて、愛馬ローゼリアに水と強壮剤を与え、月華がほんのり回復をかけて、ストーカーを撒くことになる。


「隠蔽の魔法ってかけれないの?」


 楓は、ゲームで敵とエンカウントしなくない時に、隠蔽効果のある魔法をかけて、攻略を進めていた事を思い出して訊ねると、視認されてると意味がないらしい。

 やはり、魔法はゲームのような使い勝手とはいかないないようだ


「この坂を登って下った後、道が二股に分かれているので、その手前で隠蔽魔法を掛ける」


 月華とアレクライトが場所を交代する。そして、椅子の下から本を取り出して楓に渡す。


「楓! この本の魔法陣で、別の道に馬車の跡を付ける土魔法ができるから、二股の道に入ったら、魔力込めてくれ。わたしはこの馬車の轍と、足跡を消す」


 アレクライトは御者台に出て、手綱を受け取る。

 月華は別の本を取り出して自分が使う魔法陣を選ぶ。

 楓に、合図がでたらページを外に向け、魔力を篭めるようにお願いする。


「隠蔽魔法を掛ける」


 ゼランローンズの声で、楓と月華も魔法を放つ。

 楓は土魔法で、蹄と轍の跡を別の道につけるもの、月華は土と風の魔法で、蹄と轍の跡を埋めて土埃を散らすものを使う。

 隠蔽魔法をかけた後、ゼランローンズは水魔法を使い土埃を抑える。


 速度を上げた事に気付いた、後ろの馬車も速度を上げたようだ。

 そして目論見通り、反対側の街道へ走っていく。反対側の道は上りや下りの坂が多いのと、曲がりくねった並木道でしばらく気づかないだろうとの事だ。


 気づかれても厄介なので、道中を、ゼランローンズの愛馬は馬車の揺れが激しくなり過ぎない、それなりの速度で駆けていく。


 ゼランローンズがアレクライトから手綱を貰い、御者としての姿勢を構える。

 男2人が御者台にいても狭いので、アレクライトは室内に戻る。


「昨日のゼラの言葉を、あの子はどういう風に解釈したのかしら……」


 昨日ゼランローンズは月華を抱きしめた後、「そういう訳なので、お引き取り下さい。今後一切関わらない方が良いでしょう。私は彼女をどんな物からでも守り通す」と言う台詞を言った。

 自分の場合であれば、ガッツリと振られたモノと認識する。


「多分、『ゼラはツキカを守る事を強制されてる』と『関わったら、貴女が危ない目に遭うので、心苦しい事ですが関わりを断ちましょう』って捉えてるな、アレは」


 アレクライトの言葉に、楓と月華の目から、光がスッと消えた。


「何がどうなったらそう解釈できるんだ? 関わるなと言うのは、そのまんまの意味だろ?」

「プラス思考の塊がヤバすぎるわ……。明後日の方向へ光の速さで向かっているわ……」


 続いてアレクライトは解説をしてくれる。


「彼女の中で、ゼラは恋人・婚約者の位置づけだ。自分がそうだと決めたからね。その彼が自分を拒むわけがないと云う思い込みが、思考を支配してる。なので、拒絶の言葉は真っ直ぐ受け取らない」

「………あ。確かにそうだわ……ストーカーってそんな感じよね」


 楓は似たような事を思い出した。黒髪ストレートの大人しめな顔つきの楓は、勝手に理想を詰め込まれる事が多くて、ストーカー被害にも遭った事があるのを思い出した。


「「え?」」


 月華とアレクライトは、楓の言葉に目を見開く。


「全然話を聞いてくれないのよね、私は◯◯であって××じゃないんですって言っても、君が××じゃ無いなんておかしいよ。そんな嘘を言って僕の気を惹きたいのかい? って言い出して……」

「カエデ……そいつ誰? ちょっと屠ってくるから教えて……」

「わたしも混ぜろ……」


 混ぜるな危険! と警鐘が鳴る。日本での話なので、もうストーカー居ないし問題ない、と必死に伝える。


「楓……こっちにだって、現にストーカーが存在するんだ。野郎がターゲットなストーカーだって存在するだろう。権力と腕力を使ってくるんだ……。ストられる前に殺らなきゃ、な?」

「い、いないから! きっとこっちには、そんな奇特な人いないから!」


 月華の顔が本気と書いて殺気と読むような状態だ。

 楓は、己の日本人顔と、さして目立たぬ髪色なので、大丈夫だと月華を宥める。


「何か変な奴に絡まれたら即言ってね、話し合いしておくからさ?」


 アレクライトの話し合いも、口ではなく剣が出そうな予感ではある。


 楓ははっきり言って弱い。日本にいる時だって、腕力で男の人に勝てた事はない。そんな彼女だからこそ、太刀打ちできる人たちは、守ってくれる意志を見せてくれる。


「あぁ、ツキカも変なヤツに絡まれたら、即殴っていいからな?」


 取ってつけたように、もう1人女性がいた事を思い出して、アレクライトは声をかける。


「ちょっ、月華の扱い雑じゃない?!」


 楓からツッコミが入る。だが、アレクライトと月華は顔を見合わせてそうか? と首を傾げる。

 月華本人がそれでいいならイイけど、と楓はため息を漏らす。

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― 新着の感想 ―
[一言] 「月華とアレクライトが場所を交代する。そして、椅子のから本を取り出して楓に渡す。」 椅子のどこから本を出しているのかな?
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