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変なものが印象に残ることってあるよね。

「ふーん……アレク! これ魔導具作るのに、幅広がるんじゃないか?」


 前方の開いた小窓に向かって、月華は声を掛ける。

 恐ろしい兵器の種になり得るものだと聞いても、全く動じることなく、それどころか魔導具作りに転用と考えるあたり、平和な国から来た人らしくある……とゼランローンズは思う。


「そ、そりゃ魅力的な素材だよ?! 魔輝石で作らずとも、魔石で作るための土台として、実験できたりするしさ! でも魔輝石巡って、戦争になったりするほどの稀少品なんだよ、それ!」

「魅力的な素材なら、使えばいいんじゃないか?」


 あっけらかんとして言い放つ月華に、楓は一旦とめるように声をかける。


「あっちだと、めちゃくちゃ高い金属みたいな感じじゃない?」

「あぁ、カリホルニウムとか?」

「え? なにそれ?」

「超ウラン元素。元素番号98番。1グラムあたり30億円超え」

「ごめん、何ひとつピンとこないわ」


 世界一高い金属で検索したら、出てきたので印象に残ってるらしい。


「えーと……1グラムあたり白金貨3万枚分の希少金属が存在してて、そういう物……的な扱いかしら? と思ったのだけど……」

「値段はさして変わらないな……」


 楓が此方の貨幣に置き換えて、ゼランローンズへ質問すると彼は肯定する。そして楓と月華は顔を歪ませる。


「うっそ……そんな高価なもの向こうでも、触った事すらないわよ……!」

「くっそ、路銀になんてならないじゃねぇか! 厄介なもん渡されたのか……」


 ダイヤモンドすら触った事のない楓は、引いていた。ドン引きで引いていた。

 気軽に換金できる気分だった、月華は苦々しい表情だ。

 お金を使わない、野生の生物が持ってる情報は当てにならないな、とため息もこぼす。


「そっか、手に余るからゼラとアレクに任せるわ」

「えっ?!」

「なっ?!」


 月華が言い放つ言葉に、鈍い声を放つ男2人だった。


「家の全財産差し出しても、こんだけの魔輝石買えないんだぞ……! そんだけ高価なものを、ポンと人に任せるなよ!」

「これ、ヘビ太から、わたしらへの餞別だから、みんなのモンだろ? だからいいんじゃね?」


 価値がわかってる人が管理すればいい、と丸投げの月華に、楓もちゃっかり便乗する。


「あ、じゃあ一回全部粉にして、一纏めにすれば管理楽かしら?」


 楓の発言にゼランローンズは絶句する。

 今いくつかある、小石くらいの大きさでも、とんでもない価値なのに、一塊りになればもう値が付けれない物になる。

 流石にそんなもの怖くて持ちたくない。

 だが、富と権力を獲れる代物を持っていても仕方がないが、いざとなれば2人を守る事は容易くなる、と決意し石を預かる事にする。一纏めは断った。


「とりあえず朝食をとるか……」


 精神的疲労が大きいゼランローンズは、栄養を取り入れるべく食事の提案をする。

 ゼランローンズが食べたら、御者をアレクライトと交代して、アレクライトが今度は馬車の中で朝食を食べる。


「ヘビ太たちにとっては、森の小石をくれただけなんだから、気にしなくていいんじゃないかー?」


 月華は相変わらず軽く受け止めている。

 楓は何となくヤバいものだろう、と察しているからか口を噤む。


「あ、そういえば……アレクたちは貴族の御子息さんだから、その……奥様や婚約者の方がいるんじゃ? そんな中私たちと居て大丈夫なの?」


 楓は言葉に出して、チクリと何かが痛んだ。


「ん? オレもゼラもそんなのいないよ? ちょいちょい付き纏いはあるけど」


 ストーカーいます発言に楓は身を竦めた。ゼランローンズにも居たのだし、独身の貴族の男で、アレクライトは便利魔導具の発明者だ。

 加えて顔も良い。物腰も柔らかく、物語に出てくる王子様のような出立ちだ。結婚適齢期のお嬢さん方が放っておくわけがない。


「え? 後継ぎとかなんやらとか貴族のしがらみ? とか無いのか?」


 月華は本で読んだ知識ながらも、昔の日本でさえ、お家問題的なのがあったし、その様子が色濃い世界のようだから驚いて聞いた。


「聖女が来る代は特殊でね……。聖女を守れるくらいの知識、技量の人間を、25から30歳くらいに育て上げておくんだ。うちは姉上とオレがその役目。ゼラんとこはゼラとニール君がそうなってる。ゼラの妹は、偶然聖女付きの侍女になったって事かな。んで、誰かしらが適当に領地継げばいっかーってなってる」


 聖女、稀人優先主義なので血筋には拘らない。

 時代に合うように子供さえいればよいのだ。と思っている彼らだが、実は初代聖女のおまじない効果で、スヴァルニー家とシェリッティア家の血は絶える事なく、子宝にも恵まれて聖女や稀人を助ける役割を担えてる。


「まぁ、オレやゼラは聖女・稀人の助けになる事に生きがいを見出していたし、いまこうやって助けになれてるなら最高に嬉しいから、気にして欲しく無いんだけどなぁ?」


 自分が彼らを縛り付けてる存在であるような気がしている楓は、そう言われて少しだけ心が軽くなる。


「あぁ、もう気にしてないから。困った事はさっきみたいに丸投げするから安心してくれ」

「ホントにな!」


 月華はどんどん開き直ってる。やはりメンタルが鋼より強いと思いながら、楓は力なく笑うしか出来なかった。

手に入れることは、生きてる中で決して無いと思われる物品、その存在は頭にしっかり残る謎現象。

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