表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/839

日課は崩したくないよね。


 朝、目が覚めるとシロは、隣でぐっすり眠ってる楓を起こさないよう、そっとベッドルームをでる。

 太陽はまだ昇ってない。

 空の様子からすると、いまは黎明どき――もうすぐ太陽も見えてくるだろう時間だ。

 日本だったら5時半くらいの時間だが、雪の季節なら日の出も遅そうだ。


 シロは異世界に来てから、スマホの電源を落としていた。もちろん圏外だったし、時間も全然違うようだった。

 通信を行うアプリは勿論起動しなかった。オフラインでも使えそうな機能は、メモ帳や電卓くらいだ。使う用事がない。

 ついでに言うなら、買ってから4年くらい経ってるので電池の持ちは悪い。電源を切っていても、すぐ電池は尽きるだろう。


――昨日の混乱からまだ明けないけど、前に進まない事には、見えない事柄が多そうだ


 ひとつ、息を吐いた。ひとまず、朝の身支度をそっと行ない、部屋を出る。


 隣の部屋の男2人が起きてる気配がするので、部屋の前まで行き、小さなノックと小さな声で訊ねる。


「おはようございます。走り込みしたいのですが、町の周辺を駆けてきて大丈夫ですか?」


 この町には、高さ2メートルくらいの石の壁があった。町の中から見ると、囲うようにぐるりと張ってある。

 外周壁と思われたので、ランニングのコースにはもってこいだろう。

 だが、勝手知ったる平和な日本とは違う。

 保護されてるらしい身なので、許可を得ないとまずいだろう、逃亡とみなされ指名手配とかになっても困る。

 許可が出なかったら、部屋で自重トレーニングにしよう。と朝の運動プランを考えていたら、部屋のドアが開く。出てきた人物の頭が見切れてる。


「シロ嬢か? おはようございます……って……」


 ゼランローンズが声を上げようとしたところ、シロは慌てて右手を伸ばし、即座にその口を塞ぐ。

 眼を見開いたところを見ると、声を張り上げそうだったからだ。


「っと、失礼。シロ嬢の瞳に驚いてしまい……昨日と異なっておりますよね。髪も異なっておられたし、驚きばかりです」

「あぁ、使用期限が1日の、瞳の色を変える道具を使っていました」


 シロの裸眼はオッドアイだった。

 昨日はその瞳を、三白眼カラーコンタクトで隠していた。コンタクトレンズは1日限りの使い捨てタイプなので、寝る前に外して、昨日取り出したTシャツを包装していたゴミと一緒に、鞄に仕舞い込んだ。

 安全靴が通じなかったので、コンタクトレンズという名称は言わず、効果を説明してみる。


 すると、魔導具でも似たようなものがあり、点眼薬で瞳の色を変えるものがある、と教えてもらった。


 「ひとつの瞳に、瞳孔を除いた2色以上の色を持ってる人や、オッドアイの人は、コレクションとして、貴族や娼館などに高く売れ、連れ去られる事もあるので、防犯の為に瞳を隠すのです」


 瞳の色を隠す伊達眼鏡も、魔導具であるらしい。

 オッドアイであるシロの瞳も、危ないかもしれないので、手に入り次第渡す、と言われてしまった。


 金がない、と断るのも今更なので、その場は頷いておいた。


 走り込みなら、やはり町の外周が適してるとの事で、自分も走る予定だった、護衛も兼ねて一緒に行く、とゼランローンズに言われた。

 流石に保護されてる身で、勝手に走る訳にも行かないだろうから、シロは頷くしかなかった。


 雪道のランニングなんて無謀かと思ったが、外周壁の外側は、幅3メートル位の、石畳風になっている。その石畳風の道路の下を、温泉宿の排水パイプが通っていて、ロードヒーティングのようになってるそうだ。

 冬でも散歩して、体を動かす人が多いらしい。


「ところで、シロ『嬢』ってのやめて欲しいんですが……お嬢さんなんて歳でもないし、柄でもないので。呼び捨てでお願いします」

「それは女性をぞんざいに扱ってるようで、性に合いません……」

「丁寧に扱われるような、お淑やかな女じゃないんで。後から改めるより、始めからの方がいいな、と思いまして」

「ふむ……シロじょ……シロが望むならそうしましょうか。シロからも丁寧な言葉ではなく、昨日のような砕けた口調をお願いしたい」

「わかった」


 軽く会話をしながら、中々のハイペースで、町の外周を2周ほど走った後、町中の公園のような広場で組手を行う。

 公園の半分はロードヒート、半分は雪遊び用に雪が残っている。

 ゼランローンズは、その体躯に合うパワーある攻撃で、巧く()なさないと怪我をしてしまいそうだ。

 昨日、殴って蹴った奴らとは、動きが全然違う。と、シロは感じる。


 勿論、体を動かす目的の組手で、練習のようなものだ。

 身を守る、基本的な動きを、教えてくれる。

 運動神経がいいシロは飲み込みも早く、段々楽しくなってきた。


「シロは元々訓練をしていたのか?」

「仕事が体力勝負なトコあったから、体を鍛えてはいたけど、こういう組み手は初めてだ」


 現場仕事も入るシロは、習い事などをする時間は取れなかったので、体力作りは、近所や、通勤で、走り込みをしたり、寝る前に筋トレをしたりするくらいだった。


 体の基礎ができているようで、ゼランローンズは教える内容のレベルを、どんどん上げていく。

 気づけば2人とも、汗だくになっていたが、体をたくさん動かしてスッキリした。そして宿に戻る。


 男たちが泊まってる部屋の前で、アレクライトが2人を待っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 「おはようございます。走り込みしたいのですが、町の周辺を駆けてきて大丈夫ですか?」 女性を娼館に売り飛ばそうと簡単に思いつく世界と言うことを忘れているのかな。そんな街を人通りの少ない朝早く…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ