餞別は軽い物の方が心に優しい。
翌朝
朝食はお弁当にして、出発となった。
昼食時に北西の町に到着するように出たかったので、少し予定が早まった。
「ローゼリア、またよろしく頼むよ」
月華はゼランローンズの愛馬を撫でる。
『某にお任せあれ』
ローゼリアの声が聞こえた。
前は嘶きだったのに。
楓にも聞こえたようで、楓は両手で口を覆って震えてる。
「「美声!!!」」
楓と月華の声がハモった。
何のことかと思ったアレクライトとゼランローンズは首を傾げるが、楓がローゼリアの声は、ものすごく美声だと教えてくれる。
「魔物じゃなくても、声が聞こえるのか……」
アレクライトが呟くと、ゼランローンズもため息をこぼす。
「数日前は聞こえなかったぞ?」
月華は首を傾げている。
「おそらく、魔力の訓練を行なったからだろう……」
翻訳チートは、もともと初代聖女が召喚の間に組み込んだ魔法だ。
魔力の流れを掴めば、魔法の通りがよくなり、効果をさらに発揮すると予想された。
「ま、いっか」
聞こえて不便はない。むしろローゼリアの体調を知る事もできる、とローゼリアを撫でる月華に、ゼランローンズは、愛馬を想ってくれて嬉しいと笑みを漏らす。
楓と月華はシェリッティア家の人々へ、お世話をなった礼を言い頭を下げる。
主人、夫人、執事、メイド……様々な人たちに見送られる。
メイド長が月華の手を取る。
「ご自愛下さいませ」
厳しめな表情でだが、優しさあふれる声で伝えてくれる短い言葉に、月華は頷く。
「次の飲み会は前にお伝えした『皇帝ゲーム』をするといいかと」
王様ゲームは、王へいい感情を抱いてないので、皇帝と名を置き換え、ゲーム内容を教えた月華は、メイド長へ伝える。
酒で不調になるより、テンション高い状態で、ハメ外してしまえば、また違った面白さがあるかもしれないのと、飲み比べより、内臓への負担が少ないかもしれない事も一緒に言っておいた。
次来る時はカップルが増えてるかもしれない、と楓はクスクス笑う。
アレクライトが御者をし、北西の町へ向かう。
「いつでも帰ってくるのよ、カエデちゃん! ツキカちゃん!」
夫人は貴族に似合わない大声で、別れを惜しむ。
息子がいる前で、息子を置き去りにする発言はやめて欲しい、と思いながら馬車の窓から手を振る。
馬車を走らせていると、窓をぺちぺち何かが叩いてるので、視線を向けるとヘビ太がいた。
窓を開けて馬車内に入れると、ヘビ太は月華の首に巻きついて一休みをする。
楓はちょっと懐かしく感じた、ヘビ太に声をかける。
『ヘビ太くん、どうしたの?』
『見送りに来てやったんに、冷たいで!』
『そうか、見送り受け取ったから、窓から投げ捨てるぞ?』
月華はヘビ太を鷲掴み、窓の外へ投げ捨てようと腕を上げる。
『待て待て待って! ちゃうねん! そんなツッコミ求めてないて! 餞別渡したいねん、ちょっとだけ森の方寄ってくれへん?』
『抜け殻はいらんぞ?』
『アホか! もっと実用的なもんや!』
楓がゼランローンズに翻訳を伝える。進路をちょっとだけ変更して森へ行くと、月華とゼランローンズを運んでくれた大きなスカイサーペントや他のヘビたちが森の入り口にいた。
『ほんまに来てくれたで!』
『あん時はありがとぉな?』
ヘビたちから口々に礼が飛ぶ。そして、大きなヘビが翼をバサバサっと振るうと、ポトポトと透明のような銀色のような石が落ちてきた。
「魔輝石……だと?!」
ゼランローンズが目を見開いて、石を手に取る。森の奥にある鉱物のかけらで、人間はこれを使って大儲けしてるというのを聞いたので、森の中で拾ってきたとの事だ。
『道中の路銀にせぇや?』
『おう、助かる』
「こ、こ、こ、こんな貴重な物が森に?!」
アレクライトが青褪めながら、石を見て、森を見て、と忙しそうだ。
価値のわかってない楓と月華は、ヘビたちからお金に換えれる石と聞いたので、礼を言ってヘビたちと別れた。
「森の中に、換金できる石があるなんて面白いわね」
「ほら天然石の宝石って、手付かずの場所から採掘されるからそんな感じじゃないのか?」
楓と月華は天然石を貰った気分で会話してるが、ゼランローンズは青い顔をして黙ったままだ。
「ゼラ? 気分悪いのか?」
月華でも気付くレベルで、顔色の悪いゼランローンズに声がかかる。
「この石は『魔輝石』と呼ばれる物で、普通の魔石と比べて宝石としての価値のほか、同じ大きさの魔石と比べ、100倍の魔力を篭めれると云われる代物なのだ……」
透明で銀色に見える石の事を、ゼランローンズが教えてくれる。
「魔石での魔導具より単純計算で100倍長持ちし、兵器とすれば物凄い威力を出したりする事が出来、国を滅ぼす事など容易くなる。そのような物は、勿論各国がこぞって欲しがる代物だ。魔力を放出する際に、増幅器として使う事も出来る」
戦争の道具として使えば、火力として恐ろしいものになる事を教えてくれた。
ヘビ太は、人間が入れない狭い地中から、塊を結構もってきました。




