荷造りって面倒だよね。でも人任せにするのも憚られる。
星の持つ力を、人間が利用して起こる誘拐は今後起こらぬよう、月華の両親は召喚の間に幾度も忍び込み、魔法陣の解析を行なっていたが、とうとう突き止める事が出来なかったようだ。
この世界から失われた魔法陣とは違うもので、何一つ解明できなかった事も記されていた。
それらを読めない汚い字で残したのは、ひとつの意趣返しだろう。下手に読めてしまった娘が、必死に解読するというダメージも負っていたが。
月華はそれらを、ゼランローンズに伝える事にした。
召喚を行った奴が悪いのに、無関係な彼らがとばっちりを喰らうのですら、申し訳ない気持ちだったのだ。
真面目な奴らはバカを見る。どの世界も同じなのだろうか……それならばせめて、彼らが得られるものを渡せるならば、という気持ちもある。
それらは記録者たちに嬉しい、気遣いだった。
被害者に気遣われるのも申し訳ない気持ちだと思い、報酬という形で、2人へ気持ちを込める。
大きな財産となる情報を、沢山くれた彼女らが健やかに暮らせるよう支えると、陰ながら守護者たちは誓う。
「まぁ、王都に行かず、此方に暮らしても良いのだからな? 此処はそこまで寒くならないし、長閑な田舎だが、暮らすのに不便は少ないはずだ」
「そうよ? わたくしは娘が増えるのは大歓迎ですのよ?」
主人と夫人の心遣いにお礼を言いつつ、その場を流す楓に月華も倣う。
「まだ、知らない事沢山あるので、もっと知ってから答えを出したいと思います」
曖昧な愛想笑いをして濁すよりは、いい返事ができたと思う楓は、自分たちを気遣ってくれる味方がいることに、ほんの少しだけ安心の気持ちも覚える。
そして、明日、朝食後にのんびり出る事になる。
魔法講座以外、たいした交流が持ててないことを夫人は不満に思っていたが、機会があれば夏祭りに来ればいいと主人に締められ話は終わり、また夕食時に。と解散する。
また馬車での移動だ。ちょっとだけ気が滅入るが、移動手段なのだ、諦めよう。と楓は1人頷く。
荷物整理をしないと! と思い、楓はハッと顔を上げる。その動作に月華が首を傾げる。
「楓? どした?」
「明日の朝に出るなら荷物まとめないと!」
「あー、そっか」
ディジニールによって送られてきた荷物も合わせると、すごい量になっている。メイドたちがクローゼットに掛けてくれたが、ものすごい量だ……。はっきり言って、王都までの日程を長めに考えても、要らない。
宿があれば、アレクライト発明の浄化箱があるし、日程の中に野宿などなかった。
増えた服も、量としては多すぎるものだ、と楓と月華はため息を落とす。
各々部屋に戻ると、メイドたちが荷造りをしてくれていた。
楓は慌てて、自分でする事を告げると、メイドから首を振られる。
「ディジニール様から送られてきた物の中に、動きやすい疲れにくい服も入っておりましたので、戻られる際の荷物の中に入れます。行程は聞きましたので、それに見合う荷造りを致します」
ドレスなどは送り返されるようで、クローゼットの中に入りっぱなしになっている。
下着は王都までのかかる日にちの半分くらいの量だ。浄化箱を使う事を考えている枚数を詰められて、楓の性格を考慮して、着回しができる物を選んでくれる。
気温の上がり下がりが発生する分、多種の服がトランクに入るのは仕方がない。
あと、アクセサリー類を少しと化粧品、ボディケア用品を用意されて、ケアを怠らないように言われるが、それよりも月華のケアサボりの監視を、強く頼まれる。
「カエデ様はお化粧もなさいますし、ちゃんと髪に香油もつけて下さいますが、ツキカ様ときたら……!」
「たぶん、月華はお洒落を楽しむ環境に、いなかったんだと思います。私のいた所って同じような髪色、瞳の色、肌の色の人たちの集まりで、少しでも違えば弾く傾向があるので、おそらくそういう環境だったのかと……。月華が化粧できないのは肌がとても繊細なので、そこは勘弁してほしいです」
大抵なら成長するに、つれて日本人の色合いが濃く出てくるはずだが、月華は父方の血が、先祖返りのように濃く出たと思われるようで、日本人らしい顔つきではなかった。
それで、学生の頃はイジメも多く、友達と楽しく過ごした思い出はないそうだ。お洒落に手を出す環境もないまま、男社会の業界で就職した。
そんな感じらしい。
「……まぁ、詰め寄りすぎて、遠ざかられない程度に発破かけて頂きたいですわ」
メイドたちは、楓と月華を磨きたくて仕方ないのだそう。
善処します、と返事をして濁す事にする。
月華の部屋でも、荷造りがメイドによって行われている。ゼランローンズを伴い、月華は服を選んでもらう。
自分の希望がないから、ゼランローンズに丸投げだ。
派手すぎず地味にならず、少々甘めテイストをチョイスしていく。
「こっちの方がいいじゃないのよ!」
「そんなの、だめよ!」
「その間をとったら、こちらになるであろう?」
メイドたちはキレイめかゴテゴテの甘めに分かれるので、ゼランローンズは両方の意見を取り入れる。
感覚による甘めが月華にはわからない。
あと、動きやすい服も3着ほど入れる。
旅支度が終わりメイドに礼を言うと、メイドから餞別にとケアセットを渡される。ボディクリームやボディオイル、ネイルオイルやマニキュアも渡される。
「……あ、あざっす」
「しっかり、お使いくださいね!」
全部使わなさそう……と思うが、口には出さず礼を言って受け取る。
王都から来た時より荷物が増えたが、増えた分はキャリーキャットでディジニールの家に送る。
そこからアレクライトの家に、荷馬車で運ぶのだという。




