表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
88/839

荷造りって面倒だよね。でも人任せにするのも憚られる。


 星の持つ力を、人間が利用して起こる誘拐は今後起こらぬよう、月華の両親は召喚の間に幾度も忍び込み、魔法陣の解析を行なっていたが、とうとう突き止める事が出来なかったようだ。


 この世界から失われた魔法陣とは違うもので、何一つ解明できなかった事も記されていた。


 それらを読めない汚い字で残したのは、ひとつの意趣返しだろう。下手に読めてしまった娘が、必死に解読するというダメージも負っていたが。


 月華はそれらを、ゼランローンズに伝える事にした。


 召喚を行った奴が悪いのに、無関係な彼らがとばっちりを喰らうのですら、申し訳ない気持ちだったのだ。

 真面目な奴らはバカを見る。どの世界も同じなのだろうか……それならばせめて、彼らが得られるものを渡せるならば、という気持ちもある。


 それらは記録者たちに嬉しい、気遣いだった。

 被害者に気遣われるのも申し訳ない気持ちだと思い、報酬という形で、2人へ気持ちを込める。

 大きな財産となる情報を、沢山くれた彼女らが健やかに暮らせるよう支えると、陰ながら守護者たちは誓う。


「まぁ、王都に行かず、此方に暮らしても良いのだからな? 此処はそこまで寒くならないし、長閑な田舎だが、暮らすのに不便は少ないはずだ」

「そうよ? わたくしは娘が増えるのは大歓迎ですのよ?」


 主人と夫人の心遣いにお礼を言いつつ、その場を流す楓に月華も倣う。


「まだ、知らない事沢山あるので、もっと知ってから答えを出したいと思います」


 曖昧な愛想笑いをして濁すよりは、いい返事ができたと思う楓は、自分たちを気遣ってくれる味方がいることに、ほんの少しだけ安心の気持ちも覚える。


 そして、明日、朝食後にのんびり出る事になる。

 魔法講座以外、たいした交流が持ててないことを夫人は不満に思っていたが、機会があれば夏祭りに来ればいいと主人に締められ話は終わり、また夕食時に。と解散する。


 また馬車での移動だ。ちょっとだけ気が滅入るが、移動手段なのだ、諦めよう。と楓は1人頷く。


 荷物整理をしないと! と思い、楓はハッと顔を上げる。その動作に月華が首を傾げる。


「楓? どした?」

「明日の朝に出るなら荷物まとめないと!」

「あー、そっか」


 ディジニールによって送られてきた荷物も合わせると、すごい量になっている。メイドたちがクローゼットに掛けてくれたが、ものすごい量だ……。はっきり言って、王都までの日程を長めに考えても、要らない。

 宿があれば、アレクライト発明の浄化箱があるし、日程の中に野宿などなかった。

 増えた服も、量としては多すぎるものだ、と楓と月華はため息を落とす。


 各々部屋に戻ると、メイドたちが荷造りをしてくれていた。

 楓は慌てて、自分でする事を告げると、メイドから首を振られる。


「ディジニール様から送られてきた物の中に、動きやすい疲れにくい服も入っておりましたので、戻られる際の荷物の中に入れます。行程は聞きましたので、それに見合う荷造りを致します」


 ドレスなどは送り返されるようで、クローゼットの中に入りっぱなしになっている。

 下着は王都までのかかる日にちの半分くらいの量だ。浄化箱を使う事を考えている枚数を詰められて、楓の性格を考慮して、着回しができる物を選んでくれる。


 気温の上がり下がりが発生する分、多種の服がトランクに入るのは仕方がない。

 あと、アクセサリー類を少しと化粧品、ボディケア用品を用意されて、ケアを怠らないように言われるが、それよりも月華のケアサボりの監視を、強く頼まれる。


「カエデ様はお化粧もなさいますし、ちゃんと髪に香油もつけて下さいますが、ツキカ様ときたら……!」

「たぶん、月華はお洒落を楽しむ環境に、いなかったんだと思います。私のいた所って同じような髪色、瞳の色、肌の色の人たちの集まりで、少しでも違えば弾く傾向があるので、おそらくそういう環境だったのかと……。月華が化粧できないのは肌がとても繊細なので、そこは勘弁してほしいです」


 大抵なら成長するに、つれて日本人の色合いが濃く出てくるはずだが、月華は父方の血が、先祖返りのように濃く出たと思われるようで、日本人らしい顔つきではなかった。

 それで、学生の頃はイジメも多く、友達と楽しく過ごした思い出はないそうだ。お洒落に手を出す環境もないまま、男社会の業界で就職した。

 そんな感じらしい。


「……まぁ、詰め寄りすぎて、遠ざかられない程度に発破かけて頂きたいですわ」


 メイドたちは、楓と月華を磨きたくて仕方ないのだそう。

 善処します、と返事をして濁す事にする。



 月華の部屋でも、荷造りがメイドによって行われている。ゼランローンズを伴い、月華は服を選んでもらう。

 自分の希望がないから、ゼランローンズに丸投げだ。


 派手すぎず地味にならず、少々甘めテイストをチョイスしていく。


「こっちの方がいいじゃないのよ!」

「そんなの、だめよ!」

「その間をとったら、こちらになるであろう?」


 メイドたちはキレイめかゴテゴテの甘めに分かれるので、ゼランローンズは両方の意見を取り入れる。

 感覚による甘めが月華にはわからない。

 あと、動きやすい服も3着ほど入れる。

 旅支度が終わりメイドに礼を言うと、メイドから餞別にとケアセットを渡される。ボディクリームやボディオイル、ネイルオイルやマニキュアも渡される。


「……あ、あざっす」

「しっかり、お使いくださいね!」


 全部使わなさそう……と思うが、口には出さず礼を言って受け取る。


 王都から来た時より荷物が増えたが、増えた分はキャリーキャットでディジニールの家に送る。

 そこからアレクライトの家に、荷馬車で運ぶのだという。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ