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惑星大直列


 ゼランローンズは、月華が楓に作ってあげた魔法陣から、目が離せない。


———やはり、失われた魔法陣を復活させた者たちの子供だからなのか、親の残した物がとんでもない物なのか、はたまた両方か……。既に自在に操れるようだな。


 自分にない属性が使えるという、魔法陣は魅力的すぎるものであり、魔法士、魔術士はおろか魔導士まで欲しがるものであろう。

 ゼランローンズは唸り声を上げる。


「おい、クマ! 唸るな!」


 アレクライトのツッコミで、顔を上げるゼランローンズは思考の海から浮上する。


「あぁ、すまない……。カエデとツキカはとんでもない逸材だ……。魔導士連中にとっては喉から手が出るほどのな……」


 ゼランローンズの言葉に、楓と月華はピンとこない。

 アレクライトは何かを悟った表情でそうか、そうだったな……と漏らす。


「まず、カエデの『魔力を伸ばす』ことが出来るものは、公式的には国内で3人くらいしかおらん。前にも言ったが、軍事利用が可能で、国による囲い込みが発生するレベルのものだ。無論俺も同じ事になる。そして、ツキカ……魔法陣をすでに作り出せるレベルの時点で、この世界のどこにいても重要視される」

「今は絶対に、周囲に知られないようにする事が、大事だね。2人は国家機密レベルの人材って事」


 シェリッティア家にもスヴァルニー家にも秘密にしたい。本当は保護するには明かした方がいいのだけど、元々2人は保護対象だ。保護を厳重に行うのは彼女らも望まないだろう。打ち明ければ、漏れ出る可能性もある。

 主人と夫人の会話を盗み聞きする奴も居るかもしれない、ディジニールと関わるならば、尚更スパイが周りに潜む。

 と、危険性を示してくれる。


「何となく出来てしまったもので、重要性や希少性がわからない事だから、そこは2人の言葉に従っておく」

「そうね、私もそう思うわ。2人は私たちを害する事は無いって信じてるし」


 カエデはすっかり心を許してるようだ。と月華は思い、自分の知らない世界ではある種、彼らが全てになってしまうのは仕方ない。

 こちらにきてから、1日たりとも離れていない彼らは、息苦しく無いのだろうか……と彼らを心配する。


「(ツキカ、何か懸念があるのか?)」


 すっかりお馴染みになった念話会話。ゼランローンズは気掛かりな事があると必ず声を掛ける。直接でも念話でも。


「(いや、ゼラたちってわたしらに付きっきりだから、申し訳ないなって……しんどくなってたら教えてほしい。2人が息抜きするときは、大人しくしておくから)」

「「気にする事はない。俺もアレクも毎日楽しく過ごさせて貰ってる」」

「(そっか、ならいいけど)」


 月華は、何かの裏を読む事などしないので、ゼランローンズの言葉をそのまま受け取る。ゼランローンズもそれをわかっているので、素直な気持ちを伝える。


「んじゃ明日くらいから、王都に戻る感じでいい?」


 アレクライトは帰り道を決めるようだ。

 行きは観光などせず、休憩による立ち寄りと宿泊のみで、町からは足早に去って、行って、の繰り返しだったので、帰りは違うルートにして、のんびり北側を通って戻る方を提案してくる。


 帰り道は名産品がある町が多いので、楽しみながら戻れるよと教えてくれる。

何があるかは着いてからのお楽しみに、とアレクライトはニコリと笑う。

 ルートがある程度決まったところで、サロンに主人と夫人が入ってくる。


 翻訳作業の基本分を支払いにきたようだ。

 金貨だけでは枚数が嵩むので、その上の単位である白金貨を置く。

 白金貨1枚で金貨10枚分だ。ざっくり10万円分だ。

 記録1つで金貨20枚――白金貨2枚だ。

 13人の聖女と4人の稀人の記録で、白金貨34枚のはずだが、楓と月華に白金貨50枚ずつ支払われる。


 月華父の記録はもっと高額だったが、高額の支払いを辞退する旨を、楓に了承を貰い、魔法陣の秘匿に対する罪悪感を薄めた。

 そして、字がとんでもなく劣悪な物であること、ただの罵詈雑言であることを伝えておいた。


「最初に聞いた額と、かなり違いますが?」


 月華は何か試されてるのだろうか、と眉を上げる。

 主人が豪快に笑い、君たちの記録の分だ、と述べる。


「君たち自身の記録を残されるのに、対価が無いと嫌ではないかね?」

「え? で、でも私は手記とか残していませんし……!」

「ん? ゼラの奴から、記録の材料を頂いたと聞いたが?」

「あぁ、元いたところにあったお金を渡した」


 月華はゼランローンズに紙幣3種類、硬貨2種を渡していたのでそれを言う。今までの人らは使えないお金をどうしていたのかわからないが、月華はあっさり手放した。

 ゼランローンズなら、後世に向けてわかりやすく記録するだろう。と丸投げをしただけである。


 あと、楓と月華は元いた世界にあった娯楽などを、世間話で伝えてる。

今までの記録にあった、わからない部分も、理解できる範囲で伝えたりした。それらの報酬のようだ。


「ただ、訳すだけではなく、此方にはない物を説明してくれただろう。非常にわかりやすく助かったのだ。あと、ツキカの父君の記録は、解明されてないものであり、大発見と言えるものだ」


 月華の父と母は惑星直列のほか、惑星大直列があることも突き止めていた。

 この世界の太陽系には150年周期のほか、その外側にも600年周期の惑星があるようだが、遠すぎて地上からの望遠鏡では見えないが存在すると記されていた。

 大直列になると、聖女以外の稀人まで召喚できるようになる。

 正確には聖女の近くにいる人を引っ張る力を発揮するらしい。

 惑星や太陽にそんな力があるはずないけれど、実際に起こったので信じるしかない。

 それらも記録にあった事でこれらは彼らにとって今までにない情報――正確には読み取る事が、誰にも出来なかった内容だ。大変重宝してるらしい。

 600年周期で稀人が来ている事も、納得したらしい。


 そんなに星って力の出る物なのか……と思うが、月華の父によると元素のひとつ、というより万能元素が浮遊魔力らしく、地球にはない物だそうだ。


 それが3年、50年、75年、150年周期の内外惑星が直列になると、惑星コア内の魔力が時空を歪め、この惑星で召喚の間に魔力を注ぐと、歪めた時空から召喚の間にあった魔法陣に人ひとり連れ込めるものになる。


 600年周期の時はさらに歪みは大きくなり、聖女とその周りの人間を連れ込めるとの事だ。


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