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ちょっと何言ってるかわかんない


「んじゃ、王都にあるオレの家にでも一旦住もうか。王都に戻ったら、無月のお祭りに向けて街も賑わうよ」

「そうか、引き篭もろう」


 アレクライトが明るくお祭りの事を教えてくれると、月華はそれを避ける言葉を述べる。


「人が多いところが苦手なのか?」


 ゼランローンズが月華に問うと、彼女は頷く。だが、アレクライトは食い入るようにお祭りを勧める。


「引き籠るなんて勿体ないぞ! 様々な国からの、様々な品物がたくさん集まるんだからな!」

「えー……尚更面倒だな……」


 お祭り=高い が頭に染み付いてる月華は、お祭りを楽しむものとは思えなかった。

 スプーン1杯のザラメで作る綿菓子が500円。

 スーパーでなら3食128円の焼きそばが1パック400円。


 ワクワクする以前に、値段の高さに驚く。

 祖父に引き取られてから、連れて行かれても何も買わなかった。

 浴衣を着て楽しんでる人らも居たなぁ……と思い返しながらも、やはりお祭りの雰囲気を楽しめる気分はやってこない。


「お祭りだってんなら、楓とデートでもしてこいよ」


 お祭りではカップルが沢山だったから、デートスポットになるだろう。

 現場への移動で、ショートカットとして使っていた公園でお祭りにぶち当たった日は、心の中で泣いた。

 道が通れない。店と人で溢れていて、結局外周を使い現場に辿り着く。苦い思い出だ。


「ツキカ、祭で出る品々は、各国の相場通りの物となっているんだ。他国の品々や、物価を知るのに良い機会となっている。この国の審査を通った商会が、臨時で店を構えてくれるので、不当な値での取引は行われない」


 ゼランローンズは、祭の良いところを教えてくれる。普段の輸入価格より安く買える分、王都の輸入品販売店は売り上げが落ちてしまう。だが、そういったお店は休業日になり休暇を取るらしい。


「まだ、この国での相場もわからないうちに、他国のものに触れるのは気が進まないかもしれないが、触れておくと触れておかないで、差が出てしまう可能性もある。機会は逃さない方が良い」


 この男はどこまでも真面目だ。祭の場でさえ学びの場にしている。月華は、学ぶ機会ならと納得する。

 月華も実は、内心とても真面目であるようだ。


 生き方を突然変えられた2人が、楽しめればいいと祭を提案したのだが、思っていたより食いつきが悪い。

 生きていく手段を得る事が、最優先というのが、どうあってもきてしまうようだ。


「ま、学びつつ遊んでおくのも大事だよ」


 アレクライトはにこやかに言う。楓も頷いたが顔は暗い。


「カエデ、何か懸念があるのか?」


 ゼランローンズの問いかけに楓は頷く。


「寒いじゃない……」


 王都は真冬だ。楓は経験した事がない雪深い真冬だ。

 そんな中、お祭りと言われても凍えてしまいそうだ。

 寒さに弱い楓は、王都の凍てつく空気を思い出して、更に顔を暗くする。


 月華はふむ、と顎に手を当てて、墓にあった形見の本をパラパラめくる。

 そして手のひら大の紙に、魔法陣を描き込んでいく。

 出来上がったものはとても細かい魔法陣だ。そしてその紙を楓に渡す。

 受け取ったそばから、楓の周囲が暖かくなった。


「え? あったかい! 魔力を流してないわよ?!」


 楓は驚いて辺りを見回すが、月華がうんうんと頷いてるだけだ。

 ゼランローンズは魔法陣を覗き込み、解析を試みるが、月華の言ってた言葉だけでは、計算式や法則が明かされてないのでわからない。


「周囲に浮いてる魔力って見えないし、感じにくいけど、魔力だって言ってたから、その性質の魔力を自動で取り込んで、温める魔法を発動させるような、魔法陣を描いてみた」

「「は?」」


 アレクライトとゼランローンズの声が重なる。

 周囲の魔力……魔素を利用するのは、魔力の回復のみであって意図的に使う事はできないはずだ。

 そんなものが作れるのであれば、無限機関となり、とんでもないものなのでは? と問うと、月華はふるふると首を横にする。


「周囲の魔力で利用できる威力は、ほんとにわずかまで。大きな威力をだそうなんて、小さな蝋燭の小さい火で、大鍋の水を沸騰させるような労力が必要になる。そこまでの威力と時間を使うなら、普通に魔力を流す方がいい」


 あえて効率の悪いものを使って、威力を抑えてるそうだ。

 何故そのような事が思いつくのか、と頭を抱えるゼランローンズ。楓も訳がわからず首を傾げてる。


「小さな蝋燭でも手をかざせば暖かいだろ? あぁ、あれだ。使い捨てカイロの永久版みたいな? 紙を折りたたむと魔法陣に蓋がされて、暖かさは途切れるから、常に周囲の魔力を奪うこともない。外にいる間は、それをポケットにでも入れておけばいいよ」


 楓は永久版ホッとカイロを手に入れた。


「ちなみに、無月は雪が消えるから寒くないよ」


 アレクライトの発した言葉を、翻訳チートで理解したが、彼女たちの脳みそは理解を超えた。


 翻訳チートによると、無月は精霊の休息日で、一時的に雪が消えるのだ。なので、火山も噴火しないし、大雨も降らない。自然災害が一切起きないそうだ。

 そのかわり、命を司る精霊も眠りについているので、子供は生まれない。


 無月の間は何も無くなるのだ。

 太陽や月は存在しているし、日は昇り沈むが、月は新月となり人の目から消える。

 実に不思議な現象が起こるそうだ。

現在のお祭り価格は、もっと高くなってるかもしれません。

月華が子供の時に見た、お値段の記憶です。

物価高騰につき、現在の価格は想像つきません……

ぜったいこれより高いよね……。

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