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月華はやはり父親似でした。


 シェリッティア家へ戻ってきて、早速肖像画を見てみる。


「ワシも見るの初めてだからワクワクしてる」


 お茶目な口調の主人は、軽い足取りで資料保管庫の奥へ行き、鍵を回す。

 開くと部屋の中に、大小様々な額縁に飾られた少女の絵があった。

 中程度の大きさの額縁に、男が椅子の後ろに立っていて、女が椅子に腰掛けている絵があり、そちらに近づく。


「…………そっっっくりだな……」

「……フルカラーで描かれてあるから、尚更似てるのがわかるわね……」

「……ここまで酷似した親子は初めて見るな……」

「ツキカちゃんはパパ似だのう、ハッハッハッハ」


 アレクライト、楓、ゼランローンズ、主人に口々に言われるほど、月華は父親と似ているようだ。


「これじゃあ……わたし、ただの父様のそっくりさんみたいじゃんか……」


 自身も口にする。

 プラチナホワイトの髪は短く切りそろえられているが、切れ長の瞳など酷似した部分が多い。描かれている姿は、月華そのものだ。

 男性にしては線が細く、筋肉質でもない風だが、所詮『絵』だ。盛ってる部分もありそうだ。と、無理矢理納得しようとする。

 一方、月華の母は、まさに大和撫子と言わんばかりの着物姿で黒髪ストレート。ハーフアップにして、かんざしをさしている。


「月華のお母さん美人ね……顔も小さいし……。あの綺麗な文字を書く人って思ったら、納得しちゃうわ……」

「小さい頃からの憧れの人だよ、母様は……」


 そして、少女たちの絵も流すように見ていた。

 傾国の聖女は、やはりあの白い襟のセーラー服だ。


「やっぱり、10代の子って感じよね。聖女たち」


 外国の聖女も、やはり幼さが見える顔つきをしてる。


「ちなみに、カエデちゃんとツキカちゃん、肖像画を」

「「いやです」」


 主人の言葉を遮ってまで却下する。


「ゼラ、体うごかそ」

「うむ」


 何かを言われる前に、月華は逃げ出す作戦をとる。ゼランローンズは体を動かすことに反対をしないので、一緒に資料保管庫を出た。


「アレク! ディジーから手紙が来てたの! ちょっと相談したい事あったわ! いいかしら?」

「え、ああ。もちろんだよ」


 主人はポツリと肖像画の部屋に残された。


「ワシだけ除け者! 悲しい! えーとたしか『ぴえん』じゃったか?」


 主人は施錠をして退出し、保管庫を後にする。



 服を着替えて、ロビーで待ち合わせる事になっていた。が、外が騒がしい。

 メイド長の声が聞こえる。

 月華は扉をちょっと開けて、様子を伺うと、お客さんのようだ。馬車に紋様が入っているので、お貴族様だろう。

 アポ無しで来た客人は、メイド長では追い返しにくい身分の人のようで、遠回し遠回しに断っている。


 こっそり開けた、2センチくらいの隙間を伺う月華の上に、ゼランローンズの顔が来て、彼もこっそり覗いてみた。


「………むぅ。厄介な奴が来おったわ……」

「ん? 知り合い?」

「あぁ、いや、知り合いとすら呼びたくない部類の令嬢だ」


 ゼランローンズが王都にいた時から、付き纏っている令嬢とのことで、騎士団を辞めて、実家に一旦戻った事を嗅ぎつけ、此処まで訪ねて来たようだ。

 馬車から降りてくると、金髪というより黄色の方がしっくりくる髪色で、縦巻きロールが沢山ある。フリルがふんだんに使われて胸の谷間を強調するラインの服を纏い、ややぽっちゃり気味だ。

 月華はゼランローンズの顔を見ると、彼の表情はゴーヤ食べた時より苦そうな顔に見える。


 メイド長は観念したのか、渋々令嬢を連れて扉へ歩き出した。ゼランローンズは月華を抱えて、小ホールへ走って行った。

 その様子を階段の近くで見ていたアレクライトと楓。


「うっへ……あの追っかけ女、此処までくるかぁ……」

「ゼラ、モテ期?」

「5年以上モテ期だな、くくっ……」


 ゼランローンズはイケメンの部類に、楓の中では入ってる。筋肉質な体、高い身長、顔だって大きいわけじゃない。

 顔だけ見ると、シュッとしている印象だ。

 首が太く体格が良い。ボディビルダーのように、魅せるための筋肉として付いている物ではないので、太いけど太くない。という矛盾な言葉が並ぶけども、楓から見るとそんな印象だ。

 短髪なのがイカつく見えなくもないが、もう少し伸びれば印象は柔らかくなりそう。

 そりゃあモテない方がおかしい気もする。


 貴族の子息で、魔法に関しては魔導師と呼ばれる、最高レベルの使い手だ。

 引く手数多でもおかしくない優良物件だ。


「ツキカちゃんは、ゼラの追っかけ女にヤキモチやくかなぁ?」


 アレクライトがいたずら少年のように笑う。


「多分、夕飯までには顔忘れるんじゃないかしら」


 くすくす笑いながら楓は言葉を返す。


「それだと面白くないなぁ」

「だって、月華は全く意識してなかったわよ?」

「ふっは……頑張れ、クマ兄さん……くくくっ……」

「アレク……これは小ホールへ行くべきかしら?」

「もち!」


 令嬢がずんずんと小ホールへ足を向けたのを見送ると、2人はいそいそとホールへ向かい、扉を開けたタイミングで、令嬢が月華の頬を、扇でバチーンと叩いた所に出食わした。


「ゼランローンズ様に近づくなんてゆるしませんことよ!! 平民のくせに!」


 悪役令嬢か、と言わんばかりのセリフだ。

 月華はすかさず扇を奪い取り、同じように叩き返した。

 令嬢が吹き飛んだ。そして扇を投げ返す。


「何かよくわかんねぇけど、売られた喧嘩はきっちり買うぞ? 小娘」

「ひっ! 野蛮……ゼランローンズ様、こ、この野蛮人を取り押さえてくださいましっ!」

「ハッ、何を寝ぼけた事を言っておられるか。先に手を出したのは貴様であろう」


 ゼランローンズの顔には青筋が浮き出てる。眉間にはコインが挟めるのではないか、というくらい深いシワが寄っている。

 メイド長がゼランローンズに頭を下げているが、彼はそれを制する。


「侯爵家の令嬢相手では強く言い返せまい、お前を責める気は毛頭ない」


 令嬢はヨロヨロと起き上がり、月華を睨みつけて叫び出す。


「侯爵家の人間を殴るだなんて! ……平民の分際でっ……!」

「ほぉ? 身分がどーのこーの言ってんじゃねぇよ? 喧嘩売ってきたのは、お前自身だろ?」


 月華は売られた喧嘩は余す所なく買う。手を出されれば手を出して、口を出せば口撃で応戦する。

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