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贈り物の候補から化粧品は消えました。


 馬車の中で、月華は母の着物をジッと見つめる。

 楓はその着物を見て、うっとりしている。昔テレビで見た加賀友禅の着物によく似ていた。


「楓、着てみる?」

「え?! だ、ダメよ! お母さんの形見でしょ?!」

「いや、だって、これ小さいし……」


 月華が袖を自分に乗せると、明らかに小さい。


「ほ、ほら! お直しとかすれば着れるんじゃ?」

「いや、わたしが着るには布が足りないし……母様たしか160弱くらいの背丈だったから、楓が着るのに丁度いいし、あげるよ」


 母の形見をアッサリ手放す発言する月華に、ゼランローンズは目を見開く。


「だ、だめだってば、着物なんて一式揃えるの大変だし、あ、えと、それに着付け出来ないし!」

「母様は、着物の着方も残してくれております。あと襦袢や足袋は新品を誂えてくれてます。だが、わたしサイズとは言えない」


 すちゃっ! という音が出そうな感じで出して、見せてくれた冊子は、絵付きの着物着付けガイドブックだ。これはわかりやすい。ネットサーフィンしているときに、何かのきっかけで着付け方法を見ていた時に、このガイドがウェブページに表示されれば、着ていたかもしれない、と思うくらいわかりやすいものだった。


「楓の黒髪だと、着物がとっても素敵になると思うんだよねぇ」


 珍しく月華の頬が緩んでる。

 帰ったら着てみようとなったところで、月華の顔がいつも通りのものになり、アレクライトを見つめる。


「アレクさん、顔に浄化を掛けてください。もう限界です」


 月華の訴えに、アレクライトは首を傾げながら、顔に浄化魔法を施すと化粧が消えた。


――これ、化粧してる女性にやったら、平手打ち食うやつじゃん!


 と心の中で、冷や汗をかくアレクライトだった。

 浄化魔法がかかった顔は、スッピンである。だが、赤い斑点がたくさん出来た、月華の顔があった。

 楓は目を見開いて彼女の顔を見た後、なんて声をかけていいかわからないながらも、声を絞り出す。


「つ、月華! 顔が!!」

「だから化粧は嫌なんだよぉおお! でも流石に墓参りのマナー的にはアレだからしたけど、めちゃくちゃいてぇ!!」


 月華は顔を覆って、回復魔法を掛けようとしたところで、手を止めた。


「このツラ見たら、メイドさん化粧諦めてくれるかな?」

「きっと諦めてくれるけど、数日このままは痛々しすぎるわ!」

「よし、数日このままだ。どうせ翻訳も終わったし!」


 いい事思いついた! という月華の顔は、物理的に痛々しい。

 楓は慌てて、肯定と心情を伝える。


 突如顔が、荒れて、腫れて、の月華の顔に、男2人は驚いて声が出ない。

 だから彼女は化粧を毎日拒んでいたのか、と化粧をした彼女に見惚れていたゼランローンズは、申し訳ない気持ちになる。


「ツキカ、痛いのであれば治すんだ。メイドには俺から言っておく」


 今日の馬車は御者付きだ。だが、馬車の中には防音の魔導具があるので、御者に会話は聞こえない。

 ゼランローンズが治すように言った時、楓とアレクライトも大きく頷く。


 そして不意に、楓は、ちょっとだけ背伸びして買った、高級な化粧品が合わなかった時の地獄を、思い出したのだ。


 タッチアップして貰ったときの、化粧ノリがすごく良かったので、思い切って買ったのに2〜3日で肌が荒れてヒリヒリしだした。

 諭吉が吹っ飛んだのに、諭吉の残骸まで吹っ飛ぶ結果になった悔しさまで、一緒に思い出した。


「化粧品、合わないと、こうなっちゃうのよ……。周りがどんなに良い物って推しても、合わない事だってあるのよ……」


 男たちに聞かせるように、楓は呟いた。

 男2人は、コクコクと、壊れた人形のように、首を縦に振り続ける。


「肌に合う化粧品を探すのだってお金もかかるし、肌を傷めるし、パレットにあった色があまりにも可愛くて衝動買い、いざ塗ってみると発色が違うこともあったし、夏と冬でファンデ変えないと、化粧ノリ全然違うし。ブランド物の流行り物を、女はみんな好きだから嬉しいだろ? って上から目線でプレゼントして、俺様優し〜って優越感に浸ってるクソ野郎もいたわ。その人に似合う色って物もあるのに、全く考えないで『当店1番人気』って書いてあるやつ買って、これ高かったんだぜ〜とか言い出す奴もクソよ! 1番肌にあってるやつが、安い化粧品だったら、お前安い女だなぁとか言われるなんて、そんな筋合いこれっぽっちもないってのに、何様よって感じよね……」


 楓はそれなりに化粧品ジプシーをしてきたようで、その中で起きた嫌な事が、一気に吹き出した。

 アレクライトとゼランローンズは、絶対に化粧品は贈ってはいけないと、頭の中のリストに、速攻でぶち込んだ。


「あれ? でも楓、姐さんに貰った化粧品は毎日使ってるんじゃ?」

「あぁ、ディジーからもらった物は、肌に優しい成分のものみたいで、全然痛くないのよね。ミネラルファンデだと思うわ。それでも月華は、荒れちゃったのよね……」

「何かつけた途端、ピリピリしだしたからなぁ……」


 顔を治した月華はふーっと息を吐き捨てる。周りの3人はホッと息を吐き胸を撫で下ろした。

化粧品ジプシーは諭吉・渋沢の舞。

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