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便利な物発明したすごい奴


「そういや、あの金属鯨はどうしたんだ?」


 月華は思い出したので訊ねてみる。

 野営地まで運んだ後の結末を知らないのだ。


「あぁ、彼奴は2つ隣にある町の鍛冶屋に渡して、金属を扱う職人に売るのと、商人に卸す事になっている。上等な金属だから領地の良い収入になった。そしてその収入の中から、討伐隊には寸志が配布される。勿論、月華と楓にもだ」

「え、それは悪いわ……。無料でここにお世話になってるんだものする」

「だよなぁ? 討伐隊っつっても、わたしは戦闘に参加してないで、身を隠していたし」

「それを言ったら、私なんて野営地にいたのよ」

「参加者として受け取る権利があるのだ、何が贈られるかは父次第になるが、不都合が無ければ受け取って欲しい」


 ゼランローンズにとってみれば、領地での討伐はこういうものだが、楓と月華は初めての経験なので、討伐後の結果や報酬を伝え漏らしていた事を詫びる。

 そして、少しだけ翻訳と、魔法陣の描き起こしをして夕飯になる。


 夕飯は4人だけで取るので、別室のダイニングで振る舞われた。

 昨日の晩餐で振る舞われたアレクライトの好物と思われる、濃ゆい味付けを覚悟していた2人だが、意外にもあっさりしてて食べやすく、しかも美味しい。


「2人がコメ好きみたいだから、西の隣国風のあっさりめにしてみたよ。コメに合う濃い目の味付けはメインだけ。コメが無いのは申し訳ないけどね」


 アレクライトの作ったご飯は、素材の味を引き出す高級料理店のような上品さだ。


「舌が贅沢になる物しか食ってない気がする……」

「月華のご飯も、アレクのご飯も美味しすぎて、これ確実に太るわ……まずいわ……」

「明日から一緒に走るか?」


 カラカラと笑う月華に対してアレクライトは眉を吊り上げる。


「明日は休めって言ったろ! 雪だよ、雪!!」

「雪の中走るのは、普段とは違う筋肉を使うからトレーニングとしては、理想のもので……」

「もうっ、脳筋2人は黙って食ってて!」


 体を動かす事に関しては、同じような思考の2人をアレクライトは必死に止める。普段筋肉を使ってない人が、違う筋肉まで使ったら体が壊れる、と尚更必死になる。


「アレクは騎士団長なんて役職にいたのに、体動かすの嫌いなのか?」


 月華は質問したのち、箸を動かし迷いなくおかずを口に放り込んでいく。

 アレクライトは、肩を竦めて言葉を返す。


「オレはもともと、魔導具師になりたかったんだよ。使える魔法の種類は少ないし、特殊な雷属性を持ってるから、魔導具師になれば新しい何かを作れるかなって思って」


 だが、自分が生きてる間に、聖女が呼ばれる可能性がある。もし、呼ばれた時に力になれないようでは後悔する。その為には魔導具師より、騎士の方が動ける幅が大きい。

なので、騎士を目指して訓練していた。そうしたらいつの間にか隊長になっていた。

 本当は部屋にこもって魔導具の本を読むのが好き。と、言った。


「んじゃ、やればいいんじゃね? 魔導具師の仕事」


 月華が口走るその言葉は、突き放されたような気がして少し胸に何かが刺さった気がする。


「便利な物は、楓やわたしが嫌というほど知っている。それを作り上げればいいんじゃないか?」


 その言葉にアレクライトは目をパチパチ瞬かせ、表情が動かなくなる。

 楓もうんうん、と頷いてる。


「こいつの代表的な発明品は、2人も使った事がある。よく宿屋の脱衣所についてたアレだ」

「「あの便利なやつ?!」」


 洗濯・乾燥・畳みまでを30秒ほどでこなした、あの便利なロッカーもどきがアレクライトの考案した物だというから、楓と月華の表情は驚きが全面に出てる。

 あれは地球には無かった、スーパー便利アイテムだ。


「しかも、こやつは8歳の時に作り上げて、魔導具登録をしている」



魔導具登録


 魔導具登録を行えば権利が保証されて、その仕様で作成すると製作者から使用料が入り、物品が売れれば、更にお金が入る。

 5年は独占が保証され、その後は改良品の登録申請が出れば魔導具としての権利は改良者へ移る。ただし改良での権利は1年だけだ。

 ベースあっての改良なので、長く権利は独占できない。



 翻訳チートが久し振りに働いた。どうやら魔導具登録は一般常識のようだ。

 日本でいう特許のような感じか、と2人は納得する。

 あの便利ロッカーの模造品が、出回る事は無いらしい。

 回路の図面、仕様、使用効果を公開してあるので、腕のいい魔導具師なら作れるが、少しでも回路の導線をケチったりすると、効果は一切現れないらしい。


「宿屋に置く物だと、もちょっと小型化してもいいと思ってるんだけど、中々時間がなくて小型化に取り組めてないんだ……」


 あのロッカーサイズは、魔導具の回路のために必要な大きさらしいが、アレクライトの頭の中ではもう少し小さくできるようだ。

 改良品の魔導具登録が未だにされていないのは、できる人間がいないからという事らしい。


「まさか……アレクはインドア派なのか?」

「あぁ、休みの日は宿舎で本を読んだり、図書館に行ったり……と篭ってることが多かったな……」


 騎士隊長がインドアという事に、月華は更に驚きを隠せなかった。

 割とインドア気味な楓は、アレクライトに親近感が湧く。

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