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内緒と箝口令だと重みが違う。


「んー……呼び鈴……呼び鈴……」


 アレクライトはメイドを呼ぶ呼び鈴の音をイメージして全員に音が伝わるように念じてみると、3人が肩をビクリと震わせた。

 頭の中にチリンチリンとベルが振られる音が響いた。

声であれども、ベル音であろうとも、どちらにせよ、ビックリする事は変わらない。


「自分の発する声以外で、音も届けれるのか……」

「イメージ次第というわけか……。何でもありのように思えてくるな……」

「イメージが酷いと、残念な事になりそうね……」


 そうだ、と思い立った月華が、自分のとアレクライトの魔力を込めた魔石を楓に渡して、アレクライトと通信をしてもらうことを試みる。楓にアレクライトからの声は、届かないし送る事が出来ない。

 1人だけ魔力を込めた魔石でも声を届ける事はできなかった。

 電話のように、使用方法を知っていれば誰でも使えると、言う訳でも無さそうだ。

だが、便利な物には違いなく、ゼランローンズは深く頷いている。


「魔力を持っていれば、仕様を知り使えるという点は、とても便利だな……」

「ゼラとアレクでも出来るのかな……」


 月華がこぼす言葉に、彼らはお互い頷き合い、魔力を込めて離れてみる。


「できんな……」

「ツキカの時と同じように、許可の意思を送ってみたけど……無理だね」


 4人の魔力と許可を込めた石でなら、アレクライトとゼランローンズの2人だけで通信ができた。何故かわからない仕様にアレクライトは首を捻る。


「稀人だから可能って事? 魔力の質が違うのかな?」


 いろいろ試した結果、楓か月華の魔力が含まれてなければ通信が出来ないようだ。

 そして、楓が魔力を込めた物を、月華が使う事も出来ないようだった。

 ゼランローンズは厳しい顔つきをして、急いで部屋を出て行った。


「どうしたんだ? ゼラ……」

「多分、箝口令を出しに行ったんだと思うよ」

「かんこうれい……って秘密にするアレよね?」

「そ。カエデとツキカの魔力で、通信が可能になるって事は、国内外の軍事利用を目論む者に、狙われる可能性が高まるからね。今のところ公式的に魔力があるのはカエデだけだから、尚更危険だ」


 今度は魔石を、ハンカチやリボンに包んで通信を行おうとするが、布一枚でも隔てる何かがあると、通信ができないようだ。

 ポケットに入れてると着信不可……という事が起きる。

 腕輪、指輪、ピアス、ネックレスなどのアクセサリーにして肌に触れさせなければ使えないようだ。


「アクセサリーなら台座を買うか、石をつけてもらう加工をすればできそうだね」

「加工に出して大丈夫?」

「魔石自体が、アクセサリーとして色つけ加工して出荷されてるから大丈夫」


 魔法を扱えない人が、護身用のお守りとして火の玉がでたり、水を掛けたりするための魔導具は、安価で手に入るそうだ。魔石のアクセサリーを持っていても、不思議ではないという。

 真夏はピアスから氷と風を出して涼ませる、真冬は火と風の魔導具で温風を出すアイテムが人気らしい。


 ゼランローンズが戻ってきて、後ろからメイドが茶器と菓子を乗せたワゴンを押しながら入ってきた。

 メイドが手早く並べて、一礼して去ってゆく。

 メイドの足音と気配が消えた事で、ゼランローンズは口を開く。


「母に口止めをしてきた。母が知る分は、現状カエデが魔力を繋げるのみでしか通信できないものだが、カエデから一方通行で発信できる点が、軍事利用の可能性も考え、身に危険が迫る。その為、母には父にも言わないよう頼んできた。まだイトデンワで遊んでいたので、父にも言ってなかったし、メイドもイトデンワの事しか知らないから、これ以上広まる事はあるまい」

「魔石での通信実験は誰にも伝えてないから、オレらだけで使っていればいいよね」


 どんどん秘密が増えてゆく気がしなくもないが、聖女召喚に巻き込まれたという、イレギュラーな事態が既に起きている。何が起こっても不思議ではないとアレクライトは腹を括る。


「あとは、距離の検証と魔導具として加工したあと使えるか確認ってとこだね」


 ゼランローンズがいなかった時に行った検証結果を伝えて、これからの検証と予定を伝え、今日起こった事はこれ以上触れないようにした。


「さて、夕飯つくってくるよ」


 アレクライトは保管庫から出て行った。

 月華は丸く整形した魔石を、楓にもう一度粉に戻してもらう。そして、今度は小指サイズの指輪に整形した。

 ピンキーリングにしてはちょっと太めだ。

 楓とゼランローンズも小指サイズの指輪が使い勝手良さそうとなり、指輪を作り上げて指に嵌める。


「楓がいれば、魔石の加工職人として食っていける気がしてきた」


 月華は様々な職の候補を頭に入れていた。月華は魔石を粉にする事ができないようだった。


「だけど、装飾品にすら興味ないわたしには、デザインとか無理だよなぁ……」


 月華が作ったのはただの輪。彫刻もない丸い石の輪でしかない。何でも出来そうな月華にしては珍しい、と楓とゼランローンズは目を丸める。


「そうなの?」

「服だって動きやすくて、華美なものでなく、過度な露出なく着れればいい。ってメイドさんに言ったら、朝から毎回説教受けるんだ……。襟付きのシャツとズボンは、選ばせてくれないのにな!」


 そう言って月華は口を尖らせている。本当に着飾る事に興味なさそうだ。足を投げ出して力なく座って、朝から重労働に匹敵するとブツブツ愚痴をこぼしてる


「(ゼラ、毎朝、月華の服選んで、自分好みの物着せちゃいなさいよ)」

「(なっ! 何を言っているのだ!?)」

「(露出の少ないものなら、ドレス以外着るんだし、自分が選んだものを着てくれるって、嬉しい事じゃない?)」


 魔石を用いない念話を使いこなす2人。

 一度出来てしまうと、中々便利なツールになるな、と楓は心の中で頷く。


「でも、月華はディジー用に、スケッチブックに服を描き起こしてたじゃない」

「アレはデザインじゃなく構造の記憶だ。例えば、楓が新しいデザインの服を身につける。この時に、上と下はどういう組み合わせがいいか、って聞かれても答えれないんだ……」


 センスがないというより、興味がないようだ。

 それならばメイドとの朝のやりとりは、尚更嫌なものになるだろう。興味のない事に対して受ける説教なんて、たまったものじゃない。


「ゼラ……月華が着る服選んであげて。じゃないとあの子逃げ出すわよ、窮屈過ぎて」


 今度は口に出して、月華にも聞こえるように発する。その言葉に月華は目を見開いた。その顔は「逃げる、それだ!」の顔に見えて、ゼランローンズが慌てて俺が選んでおくからな、と宥めておいた。


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