電話は便利だけど時々煩わしくなるよね。
メイドが滅多に近づかないよう言われている、資料保管庫で月華による実験が始まっていた。
魔力が空っぽの魔石に、アレクライトと月華が同じ割合で魔力を込めて、2人の魔力が入った魔石を2つ作り、1つずつ持ち石を合わせ、お互い許可の意思を送る。
そして部屋の端へ移動し合い、お互い最大限に離れて、石を握り念を送ってみる。
「(アレクさん、手料理まだっすか?)」
割と雑な事を考えてみる。部屋の端っこにいるアレクライトは、目を見開いて月華の方に顔を向ける。
「(今夜振舞ってやるよ、ありがたく食せぃ!)」
そしてアレクライトも雑に返答する。今度は、月華がアレクライトの方へ顔を向ける。
そしてお互い足早に近づいて、手を振り上げる。
保管庫の扉がゼランローンズによって開けられた時、ちょうど、アレクライトと月華の力強いハイタッチが響いた。
「今度は何をやらかした? ツキカ」
ゼランローンズは胡乱な瞳を向ける。月華はフルフルと首を横に振るう。
「アレクも共犯だ!」
「くっ! 否定できない!!」
空っぽの魔石で、簡易トランシーバーを作ってみた。周波数の代わりにお互いの魔力を同じ量だけ入れて、互いに許可の意思をおくる。許可の意思は、楓とゼランローンズのやりとりから取り入れてみた。と、月華は順を追って説明する。
「だから、2人がヒントをくれたから、出来上がったんだ」
離れたところで、会話ができるものを作り出した月華は、これはみんなの力作! と意気込んでニカっと笑う。
勝手に巻き込まれた気がする楓とゼランローンズは、なんとも言えない表情だ。
アレクライトも、なんて物を作ってしまったんだろう、と思いながらも、新しい発見に心が躍っている。それが顔に出てしまっている有様だ。
ゼランローンズは通信魔石をじっと観察しだして、ポツリと言葉を漏らす。
「アレクの魔力が、入ってるだけにしか見えないな……」
魔石には半量の魔力が篭ってるようにしか見えない。楓も魔力を感じ取ろうと見てみるが、アレクライトの魔力のみ、ぼんやりと"何かがあるかもしれない"程度にしかわからない。
ゼランローンズとティティラファリカは、本当に魔法に関して凄い人なのだと実感する。
理論を聞いたので、今度は4人で魔力を込めてみる。魔力を込める速度を月華の父の本に習って、ティーカップに5秒かけて魔力を満載にする速度、として全員で魔力を込める。
すると魔石が音もなく粉になった。
魔力の飽和が起きると、コップに満たされた水のように、魔石から魔力が溢れるだけのはずだ。
「な、なんだ?」
「魔石ってのは、魔力を補充する人が様々いて、色んな人の魔力が混ざってるものだから4人くらいで魔力をこめても、壊れるわけがないんだよ……変だな」
石が粉になり、月華はビックリする。
アレクライトは魔石について説明してくれて、首を傾げる。
魔石は物理的に壊した事ならあるが、魔力で壊した事はないぞ、とゼランローンズも呟く。
月華は魔石の粉を4つの山に分けて回復を試みると、魔石は綺麗な丸い形となって4つできた。
「すっげ……出来るとは思ってなかったけど出来た」
「粉にしたのお前かっ!!!!」
「違う! 粉はわたしじゃない! 直してみただけだ!」
「ごめん、私かも……」
楓が咄嗟に謝る。
魔石の色がとても綺麗で、テラリウムに敷きたいなと考えてみたが、こんなゴロンとした大きさじゃなく、砂のようなサラサラしたものだったらテラリウムの土の上に塗せば綺麗かな、と思ったら魔石が粉になったようだ。
「魔石を粉にするわ、粉になった魔石を別の形に整形するわ……頭がパンクしそうだから」
「この整形された魔石にも、3人分の魔力とおそらくツキカの魔力が均等に入ってるな」
全員が部屋の四隅へ行き、誰かが喋るのを待つ。
窓に近い位置にいるアレクライトは外を見て、頷くと念じてみる。
「(明日の天気は恐らく雪)」
「(えっ?! また寒くなるの?!)」
「(こちらもあと半月ほどで雪が降る。ふた月ほど、根雪になるぞ)」
「(え、明日外走れないのか?!)」
「(まだ怪我治ってねぇだろ! 今朝トレーニングしたんだから、明日は大人しくしてろっ!)」
出来た。4人で会話してるように、1人の念話は全員に届く。
月華は石を握って、特定の1人だけを意識して、念話を使ってみる。
「(右手をあげてみて)」
アレクライトだけ右手を上げる。他の人が上げてないのでキョロキョロと首を振るう。
「(左手上げてみて)」
すると楓とゼランローンズが左手を上げる。
「ほうほう、送る対象も意識すれば、わけれるのか……」
メッセージアプリにある1対1通話のように使ったり、グループ通話のように使い分けたりと、対象選択は、本人の意識次第のようだ。
「なんかすごいな、コレ……」
「離れた相手に、言葉に出さず己の意識次第で言葉が送れるとは……此れが記録にあった『デンワ』のような感じか……」
「でも、急に言葉が届くのはビックリしそうよね」
「着信音が欲しいところだ」
「「チャクシンオンとは?」」
電話に馴染みのない2人には、着信音が通じなかった。
電話というのは通信を申し込んだ時、相手に通信が入った事を知らせる音がなるようになっていた。相手はその音で通信が入った事を知り、応答する。と説明する。
家に訪問した時のドアベルのような物、と伝えてみる。
「(いきなり声が入るとビックリするでしょ?)」
楓が普通の会話をしてる時に、念話を差し込んでみる。アレクライトとゼランローンズは、頭の中にいきなり響いた声に、体をビクッと震わせた。
「メイドを呼ぶ時の呼び鈴のような機能が有れば、言葉を届けたい相手に言葉を届ける前に、相手に音で知らせる事ができる……といったところか?」
やはり人間は便利を求めると、更なる便利を目指すもので、そうして今の生活があるが、この世界において、此処にある通信魔石は、ぶっ飛んだ機能である。




