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豆腐レベルの決意。


 そして会場に歓声が響く。

 決着がついたようだ。メイド長がテーブルに突っ伏している。ダウンしたようだ。

 周りにいたメイド長に賭けてた男らが、彼女の背中をさすったり、水を差し出したりしてる。

 そして向かい側には、まったく顔色の変わってない月華がいる。


「さて、水分過多だ……トイレ行ってくる」


 足取りがしっかりしてるのが、逆に怖い。


「ゼランローンズ様が勝っちまった……。無敗のメイド長を破ってしまうとは、なんて隠し球だ……!」

「だからこの勝負、負けぬと言っただろう」

「あっはっはっはっはっは!! あれではここにいる男たちでも、敵わぬのではないか?」


 ザーナカサブランが豪快に笑う。


「ザーナ様ならいけるのでは?!」


 自分たちで敵わないだろうと思った男たちは、豪傑に期待を寄せる。

 主人は力無く首を振るう。


「飲み過ぎたら怒られるもん……」


 尻に敷かれてる事を思い出した男たちは、隣の夫人を見て、あぁそうか、と天を仰ぐ。

 トイレから戻ってきた月華は、アレクライトとその腕の中で眠りこけてる楓を見つけてニヤニヤしておく。

 アレクライトは腕を離すわけにいかないので、密着してる状態だが、月華にひたすら見られてる。


「送り届ける部屋は楓の部屋な? アレクの部屋じゃないぞ?」

「わ、わかってるに、きまってるだろ!」


 アレクライトは楓をそっと抱き上げて、宴会場を後にする。

 月華は、賭けに勝って、みんなから顰蹙を食らってるゼランローンズの後ろまで行き、様子を伺う。

 賭けの上限金は予め定められてるらしく、無駄に大金が賭けられてた訳ではなさそうだ。

 とはいえ、独り勝ちは中々の金額になってるようだ。


「何を奢ってくれるのかな?」


 腕をポンと叩いて月華が声をかけた。

 賭けの敗者は、宝石でもドレスでもなんでも勝ってやれーとヤジを飛ばす。

 そのような煌びやかな物は、月華が好まないだろう。とゼランローンズは、喜んでもらえそうな物を考える。


「速度強化か重撃の付与がついたブーツはどうだ?」

「ゼランローンズ様、脳筋っぷりもいい加減にしてください! 女性に贈るものじゃないっすよ!」

「マジで?! 気になるけど……!」


 ヤジ連中が慌てて止めるが、月華は目を見開いて大きく頷く。

 相場がわからないが、賭けで得た金の3割程度で買えるものとは思えない。


「それ、足が出るんじゃ?」

「出ぬ」


 目を逸らして即答という事は、賭けで得たお金全額ですら、足りなさそうだ。と月華は悟る。


「ニールの用意した物ばかり身につけているので、窮屈ではなかろうかと……。だからツキカが好きな意匠の靴を選びに行こうと思ってな」

「んー……」


 男装な服も靴も、やはりどこか線が細く華麗なのだ。そう言われると無骨なデザインの物が欲しくなったりするが、それは自分で稼いで買った方がいい、といつも通り考えてしまう。


「ちょっと考えとく」


 ゼランローンズからの申し出はスルーしておこうと、返事を引き伸ばし、液体しか入ってなかった胃に食べ物を放り込む。

 その様子を見た周りの連中に"鋼の胃袋"の二つ名を付けられた。



 翌朝


 2日酔いにならずに目を覚ました楓は、のそのそと布団から這い出て風呂に入ろうと、ゆっくり動き出す。

 アレクライトと多肉植物の話をしてから、記憶がないので、部屋で寝ているという事は、あの後眠ってしまっていたのだろう。

 前の時と違って、うっかり暴露は記憶上やらかしてないので、恐らく大丈夫。と拳を握る。

 だが、アレクライトに迷惑をかけたので謝ろうと、うんうんと1人頷く。


 お風呂に入らず眠ってしまって、起きたら慌てて風呂に入る、なんて事もない。

 朝の時間に余裕があるのは素晴らしい……と楓はサラリーマン時代を、遠い昔のように思い出す。

 風呂の扉がノックされ、メイドに声を掛けられる。


「おはようございます、カエデ様。朝のお支度に参りました、遅れてしまい申し訳ありません」

「あ、え、えっと、お風呂は1人で入れるから大丈夫よ!」

「なりません、わたくしどもできっちり磨き上げます!」


 メイドたちに洗ってもらうのは慣れない。が、彼女らの仕事でもあるので譲ってもらえず、メイドたちに押し掛けられ髪も体も再び洗われる。


 次に、脱衣所にあるベッドにて、香油を塗り込まれマッサージまで受ける。

 メイドさんのマッサージはエステのような感じで体を作るかの如く、背中から胸へと手が流れていく。

 下着の試着をすると、販売員さんがフィッティングで背中に流れた肉を、胸へ持っていくかのような動きだ。

これ以上胸に肉は要らない……と思いながらも、抵抗できず。


 そして、ゼランローンズが、月華のマッサージは極上と言ってた意味を理解する。

メイドさんのだって、エステ気分でテンション上がるし、いいんだけど、月華のマッサージには到底及ばない。

 あれはゴッドハンドだろう。と思いながら、気づけば服が着せられている。

 今日は気温が低めらしく、ベルベットの厚手なハイウエストスカートだ。

 厚手の綿のブラウスも着心地が良い。

 胸の下で、服による切り替えが行われていて、胸を強調する感じに思えるが、切り替えがないと太って見えるから、メイドたちの服選びセンスは、やはりいいのだろう。


 そしてメイドによって、食堂まで連れられてみんなと顔を合わせる。

 朝からげっそりしたアレクライトとツヤツヤしてそうな雰囲気の主人、ゼランローンズ、月華。

 この様子を見るだけで、朝トレがあったのだろうと、すぐわかる。


 おはようの挨拶を口々に交わして、朝食タイムだ。

 楓は忘れずにアレクライトに謝罪を行う。アレクライトはニコリと笑って気にしないで、いつでも運ぶよと爽やかに言われてしまう。


 次回はお酒を控えめにしよう……。と豆腐レベルの決意をしておく。


 午前は翻訳作業、午後になり、楓は夫人ティティラファリカから魔法の手ほどきを受ける。

 月華は、魔力を持っていない人扱いだ。

 だが、楓と一緒に講義を受けている。


 ティティラファリカが、楓の魔力感知を行い補助して、魔力を認識してもらう訓練をする。


 月華は『癒しの魔女』の子で、使っていたものは、治癒魔法だった。月華の父がそう記していた。

 魔力は当然あるのだが、秘匿する事を保護者たちと決めたので、稀人の全面的な味方であるシェリッティア家にも秘密にしておく。


 魔法の使えない人に魔力訓練を? と怪しまれるが、教育を受けて、理論を覚えておく事は罪ではない、とゼランローンズが言い、巧くごまかす。

 どうやらティティラファリカにも、月華の魔力は感じ取れないらしい。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 怒られるもん、のせいでザーナ様が一気に可愛く感じてしまいました(笑) [一言] ご両親が残してくれた魔法陣、とても想いが籠ったもので素敵ですね。 ただ、それが字が汚いせいで喜びと感動が減少…
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