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字が汚ければ感動も薄れるんだな。

 まさか父が、この世界で失われた魔法陣を復元したのか……と、月華は驚きながら頭をポリポリ掻く。

 あの罵詈雑言に魔法陣を埋めていたとは……下手に解読されていれば、ただの悪口ノートとして捨てられていたはずだ。


 ほかの物も描き起こそう、とアレクライトとゼランローンズが目を輝かせてる。

 資料保管庫へ戻り、楓がページを見開き、ゼランローンズとアレクライトで魔法陣を描き起こし、月華が余白部分の魔法の効果と魔力容量を伝える。


 魔法陣を描き起こしてる時間に、月華は月華にしか開けない父からの本を読み始める。


『この文字を読むことが出来るのは、私の子である月華だけ。

 貴女にしか開けないように、私と椿でお呪いを掛けてある。

 漸く逢えた父と母が、文字のみの存在になっているのは、君を悲しませる事になるとは思うが、子供より早く逝くことは親として当然なので、このメッセージを読んでくれてる事は何よりも嬉しい。

 月華がこの世界に来たら、少しでも生きやすいように、魔力のみで使える、この世界から失われた魔法陣を復元させておいたよ。

 今の君の容姿が僕に近ければ、魔力は隠蔽されてるが、ちゃんと存在している。

 椿に近ければ、魔導師によって、魔力の発見がされるはずだ。

 稀人も聖女も皆魔力を持っているが、眠っているんだ。起きるキッカケがないと、ただのヒトのままだ。シェリッティアかスヴァルニーに魔法に精通してる人が居るので、魔力を起こしてもらうといい。

 そして、この世界から戻れなくて本当にごめん。

 この世界の人だけに何かを残してはあげない。

 月華ならみつけてくれるだろう。それをどうするかは任せるよ。

 僕と椿が贈れる最後の贈り物だ。

 愛しい娘が幸せになれる事を願っています』


「父様……魔法陣の復元の前に、日本語を綺麗に書けるようになってて欲しかった……。むしろ母様書いてあげてくれよ……」


 父からの涙モノのメッセージも、きったない文字のせいで感動よりも、読むのが面倒という感想が、前面に出てしまう。

 読んでる最中の月華は、眉間にシワを寄せ、時に目を細め、本を近づけたり離したりと、いろいろ忙しなかった。


 アレクライトは手を止めて月華に問いかける。


「これ、月華の父さんからの贈り物なら、オレらが描き起こしちゃまずいよね……ごめん」

「んー? いいんじゃね?」


 いつも通りのサッパリした月華。安心する感じだが、無理をしてる可能性もある、と超心配性過保護クマが口を開こうとする前に、月華が言葉を零す。


「とりあえず、うちら4人で使おうか。わたしが死んだ後は好きにしていいや。公開するかしないかは、まだ決めれないけど、それまでは秘密にしといて欲しいな」

「……承った。その約束、命尽きるまで護ろう」

「オレも。大事に使わせてもらうよ」

「私も! 大事にするわ、月華のお父さんとお母さんの想い!」

「ありがとう」

「続きは明日以降、描き起こそう。メイドが来る気配がする、恐らく夕食だろう」


 ゼランローンズに言われ、全員が本を閉じて、描き起こした魔法陣は、ゼランローンズが隠蔽魔法をかけて、机の上にまとめる。


「この魔法陣のみに、夢中になっていてはならんから、記録の翻訳と、陣の描き起こしに分かれるか」

「そうすると……月華のお父さんの字が読めるのは、月華だけだから、私とアレクで、通常の翻訳作業をしておけばいいかしら?」

「だね。魔法陣すっごく気になるけど……」

「あのごはん日記再開するのね……」

「がんばろう……。文字質は見える文字ギリギリまで落として、速度優先にする」




 夕食は豪勢なものだった。ディゴットフェルゥの早期討伐の祝賀会的な感じだ。

 肉が多い。とにかく肉、肉、肉だ。

 今日のMVPである、アレクライトの好物中心らしい。


「胃もたれ起こしそう……。アラサーの胃にはキツいわ」

「こっちきてから、割と素朴な味付けの物食ってたから、ここにきてコレは、しんどそうだよな……」


 楓が月華だけに聞こえるような声量で、そっとこぼした言葉。薄味が好きな月華も同意する。

 肉がソースでテリッテリなのだ。見てるだけで味が濃いのがわかる。あんなに濃い味っぽいものは、米で中和したい。


 メイドに着席を促され、席につくが匂いだけで濃い! と思いながら、そっと肉から目をそらす。


「ディゴットフェルゥの討伐最速記録だ! みな、遠慮せず食してくれ!!」


 主人の豪快な音頭と共に歓声が上がり、討伐隊の面々が食べ始める。


「そういえば、月華って『父様、母様』って呼んでるけどどっかのお嬢様だったり?」

「母がお嬢様で、大和撫子だったな。んで、小さい頃は母の綺麗な言葉を真似してはいたなぁ。今こんなんだけど」

「やっぱり月華はお父さん似……よね。プラチナブロンドだし、瞳はカラフルだし」

「うん。記憶を掘り起こしても、父親の姿にしか見えないんだよ……マジでそっくり。母の面影が、何処かしらにほしいところ……」


 お肉を1切れ食べたらサラダを3口食べる。やはり見た目通り濃い味だった。


 テーブルの一角で、わぁぁぁ! と歓声が上がる。飲み比べが始まるみたいだ。

 テーブルについてるのは全員女性だ。夫人とメイドたち。

 そして楓と月華は夫人に手招きされ、テーブルにつかされる。


「説明を求む」


 月華は、近くにいたアレクライトに声を掛ける。


「シェリッティア家の飲み比べは、女性同士で行うんだ。男性が多いから、野郎で飲み比べだと、酒の量が半端なく消費されてしまう。なので、野郎は誰が残るか賭けをする」

「そして楓やわたしが、席につかされた理由は?」

「女性だから」

「問答無用かよっ!」

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