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父からの贈り物


「ますます身勝手な誘拐に感じるな。自分らでなんとかしようって気が、さらさら無いんだな……」


「そうよね……。魔物の力を抑えるのだって他人……拐われた被害者任せだものね……」


 楓と月華は、ますます国への嫌悪感を示す。


「まぁ、ワシらみたいなのがもっと居れば、聖女は必要ないがな……そうおらんのだよ。……これでも、此処にいるゼラとアレクは国内最強騎士と呼ばれるし、ワシとアレクの父も武神と呼ばれておる。妻だって国1番の女魔導師だ」


 チート級の人間が揃ってるだけだった。彼らは後世の育成に力を入れていたが、中々上手くいかない。


 王族のやる気がないのだから当然だ。

 いくら直属の上司が頑張っていても、更に上の者がやる気を見せないのであれば、下の者のモチベーションは駄々下がる。


「水は低い方に流れるもんなぁ……」

「そうよね、先輩のだらしない部分を真似する方が楽、って人多かったもんね……」


 どこの世界も変わらない……ファンタジーな異世界でも、社会の辛さを見聞きしているうちに、世界を隔てた壁が、ゴリゴリ音を立てて削れてくる。


「まさか稀人の方に対してしかもこんなお嬢さんがたに、共感してもらえるとは……ワシ泣きそう……」


 社会人あるあるは、大人の共通の話題のようだ。

 昼食を終えた後は、野営設備を片付けて、馬車に積んでいく。

 月華も馬車に乗せられ、シェリッティア家へ戻っていく。


 日が沈んでも、まだ辺りは雨のままだ。

 思っていたよりもだいぶ早く討伐が終わったので、物資は沢山余っている。その片付けにメイド・執事たちは追われたが、嬉しい悲鳴だと言う。


 ディゴットフェルゥ相手に死者も出ず、五体満足で即日全員が帰還という快挙に、屋敷は沸いている。

 メイドたちは野営設備などを片付けた後に、夕食の準備に取り掛かるので、主人と夫人はティータイムで時間を潰している。



 月華は保管庫に足を伸ばし、父の記録を解読してる。

 楓も横から見てるが、本当に日本語なのか疑問だ。


「えーっと…『王族しね。腐ってるんだから、早く土に埋めなきゃ、シネ。ツバキに声を掛けるな、死ね。』うーんと…『ツバキに触れようとするな、殺すぞ』……全ページまるまる呪詛じゃねぇか! 似た様な字が続いてるから解読しやすいとか思った喜びを返せ! 内容については同意するが!」


 月華の父母も王族に対して、いい感情は一切なかった。1ページだけの解読でよくわかる。


「ゼラ……これ悪口ノートだ……。10センチくらいに綴られた束は、悪口ノート……」


 誰一人解読できなかった稀人の記録は、王族への罵詈雑言を書き殴ったもの。

 有用な情報は一切無かった。


 過去一文字も読んでもらえなかったものだったので、落胆は大きいだろうな、と月華は申し訳ない気持ちになる。

 ページを見開いても読めはしないが、月華と楓から離れたソファに座っているゼランローンズとアレクライトに見せる。


「あはは、そんな時もあるよ。でも、離れて見ると魔法陣に見えるね、それ」

「確かに。陣での魔法は失われてしまってるから、正解がわからないが、そう見えるな」


 そう言われて、楓もアレクライトたちのそばまで移動して、離れた位置から、月華父の記録を見ると、本当にそれっぽく見える。

 白紙に、ゼランローンズの位置から見えている形を描き込んでみる。魔法陣に見えない余白部分には、文字の様なものが浮き上がって見える。文字アートみたいだとカエデは思いながら見てる。


「『コップ1杯満タンの魔力を3秒かけて流したあと、コップ1杯満タンの魔力を1秒注ぐ』って書いてあるように見えるわ、ここからだと」

「…ツキカ、次のページめくってくれまいか?」

「ほい」


 パラリとめくって見開くと、別の魔法陣が浮き出てるように見える。


「ビールジョッキ1杯分の魔力を、ひっくり返すように叩きつける」


全員に沈黙が走る。


「わたしも見てみたい……」


 近くだと父の汚い字の羅列なのだ。離れて見ると別のものが浮き上がるなんて気になるところだ。

 楓が交代して本を見開く。


「余白の一番上は魔法の効果が書いてある。浮き上がるのは父の汚い方の字だ……。汚い字で汚い字が浮かび上がる暗号文とか嫌がらせか! このページの陣は……『練習用:陣から氷柱をもの凄い勢いで出すやつ』だそうだ……」

「アイスピラーとか、ゲームに出てくる魔法っぽい名前じゃないのね……」

「これ、効果なかったら、すっごく恥ずかしいんだけど。父の厨二記録に思えて……」

「チューニというものが、よくわからないが……」

「えぇと、物語にある架空の存在が、現実にあるような扱いをしたがる年齢、の俗語みたいな感じかな……」


 魔法かもしれないときいて、ウズウズするゼランローンズはちょっと試したい、と魔術訓練室へ飛び出していった。

 みんなで後をついてく。


 ビールジョッキの大きさを楓と月華で説明して、ゼランローンズは魔法陣に容量通り? の魔力を注いでみた。

 すると魔法陣から氷柱が飛び出していった。

 全員がビックリして固まる。


「い、いや! ゼラは氷魔法が使えるんだ! オレがやってみる!」


 アレクライトは無属性と雷魔法を使えるが、水系は使えない。彼も容量通りの魔力を注いでみたら、やはり陣から氷柱が飛び出していく。


「ウソだろ? 今、氷がっ……! つ、氷柱がオレの魔力で出たぞ?」


 楓と月華は、今一つアレクライトの驚きに共感できない。魔法をよくわかってないからだが。


「魔力が色鉛筆と思ってくれればいい。青色の鉛筆しか持たない者に、赤い色が塗れないような感じだ」


 ゼランローンズの説明に、2人は納得する。

 そりゃあ持ってない色鉛筆の色が、出せたら驚くだろう。

 ようやく、アレクライトの驚きの意味を理解できた。


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