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数日で治る怪我は軽症です。


「ツキカのお陰で、1日掛からず倒せたので、ツキカまで説教はやめて頂きたいです……」

「アレクさんや……30分前に言って欲しかった……」

「説教前に、申し開きもさせて貰えなかったから……」


 隠れて身を屈めていたが、そんなもので対策とは呼べず、吹き飛ばされて、木に勢いよく背中からぶつかり、反動で飛ばされたあと地面を転がって、今度は別の大木へ、再度同じ箇所を激しく打ち付けた。

 もちろん、打ち付けた部分と、己の制御下にない状態で転がったせいもあり、月華は怪我だらけだ。


 アレクライトも自分の防御を考えず、雷魔法を撃ったので吹き飛ばされて、月華と同じような状態だ。鎖帷子の部分は怪我が少なめだが、手や顔が擦り傷だらけだ。


 まだ治癒魔法は明かさない事にしてあるので、アレクライトと月華は大人しく手当てを受ける。

 アレクライトは顔面と手に、傷薬を塗り込まれる。

 そして天幕から放り出された。


 間口を広く開けていた布が閉ざされ、月華は服を剥かれる。

 左肩から手首まで傷薬を擦り込まれ、ガーゼで包みこんだあと、包帯が巻かれる。


 背中も大きな痣と擦り傷だらけだ。

 右の太腿は木の枝に引っ掛かったようで命に別状はないが、かなり大きく切れている。顔も右半分擦り傷で、左頬には青痣だ。

 メイドたちはテキパキと手当てを行う。


 体の半分がガーゼに包まれている。

 包帯ではないものの、ミイラ気分になりながら、ベトナムの胴衣イェムのような下着をつけさせられて、ゼランローンズの着替えに入っていたシャツを着させられる。


 傷を擦らないよう、ゆったりした服ということで、彼の服は奪われた。

 袖部分が長すぎて指先すら出ないので、袖を折り肘くらいの位置まで捲り上げる。

 楓の頭の中は、こっそりと"彼シャツシチュエーション"では?! とプチ祭りが行なわれていた。


 下の服は月華の着替え用として、メイドが持ってきたスカートだ。そしてサンダルを当てがわれる。


「お手数おかけ致しました」


 月華はメイドさんへお詫びの言葉を述べて、頭を下げるが、メイドたちは首を振る。

 そして、隣の天幕へ移動してみんなで昼食を取る。


『ほな、ワシはみんなに知らせて、森に帰るで』

『おう、森がそれなりにグチャグチャだけど、頑張って暮らせ』

『気をつけて戻ってね』


 ヘビ太の挨拶を受けて、月華と楓は見送る。


『なんや、冷たいな! ヘビ太さん帰っちゃうの寂しいわー、くらいおべっか言えへんのか!』

『帰れ』

『ま、ほんまにありがとうな、助かったで! ほな、またなー!』

『あぁ』


 やはりテンポのいい会話を広げ、陽気なヘビは南東の方角へ飛んでいった。

 森のどこかに散り散りになった魔物や動物も、じきに戻るだろう。ドリルウサギも森へ帰っていった。


『ありがとなのー!』


 二足で立ち上がりお辞儀をする仕草は、ティティラファリカとメイドたちのハートを射抜く。

 彼女らはウサギの後ろ姿を、見えなくなるまで見守っていた。



 硬めのパンを、スープに浸しながら食べる野営飯は、決して美味しいわけではないが、脅威が去ったことから安心して、食事を噛みしめる。


「すまない、ツキカ……怪我をさせてしまって……」


 ゼランローンズがなぜ謝るのだろう? と、月華はパンを噛みながら彼を見る。

 アレクライトは真っ先に謝ってくれたし、わざとではないのもわかってる。なので彼に恨みは一切無いし、前線に出た以上、多少の怪我は覚悟していたのだが、目の前の男は、女性に怪我を負わせてしまった、防げなかった事を悔やんでるようだ。


「軽症なんだから、気にする事ないだろ」


 あちこち包帯、ガーゼだらけの人のセリフとは思えないが、擦り傷だ。

 ヒリヒリ痛むだけなので、日本のニュースに取り上げられるとしたら「2名が軽傷です」で終わる内容だ。


「しかし、何故ディゴットフェルゥは、東の地域に来たのだろうか?」


 ザーナカサブランが疑問を口にする。

 ヘビ太から聞いた話だと、ほかの魔物はムズムズするから逃げて来た、と言ってた。

 南で起きた異変といえば、聖女と稀人が来たことくらいだ。

 もしかすると、聖女の力で弱くならない魔物は、その地域から去って行くのか……魔物全てに効果があるのか……など様々な憶測が飛び交う。


「魔物の中にはヘビ太くんのような、言葉が通じる子もいて、友好的だったから、魔物全てが敵って思えなくなりました」


 楓がポツリという。

 稀人は、翻訳機能で意思のある魔物の言葉がわかる。そのおかげで対話し、無駄な戦闘を避けたのも事実なので、全員が唸る。

 アレクライトはカラカラと笑いながら、全員に言葉を渡す。


「まぁ、もともとスカイサーペントは、人間に害をなさないで森に住んでるんだし、積極的に魔物を狩る行動をしなければいいんじゃないか? 害のある者と戦えばいいんだよ」

「確かに。言葉が通じるとかわからないのに、ヘビ太は謝罪に来てくれたしな……」


 月華はパンを手に取りながら頷いている。

 翻訳によって、魔物にも意思がある事がわかり、戦いづらくしてしまった気がするが、共存が取れる者とはそうすればいい。


「聖女の力で魔物が弱くなる、ってお話ですけど、その恩恵を受ける範囲はどこなんですか?」


 楓はふと疑問に思った事を口にする。

 ザーナカサブランは、アレクライトの家に詳しい記録があったはず、と彼をみるとアレクライトは頷く。

 アレクライトは、記録の記憶を手繰り寄せて考える。


「聖女が王都にいると仮定して、半年以内に王都周辺の魔物は弱体化し、北の地域まで弱体化が進むのが3〜5年。王都から北の都までの範囲を半径として、南の隣国の一部くらいまでかな……?」


 月華は干し肉を噛みながら、眉を潜める。


「それって、聖女はこの国のためだけであって、他の国には、ほぼ意味のない奴って事か?」

「うん、聖女の力を手に入れようと誘拐は企てられたり、もしかしたら惑星直列の日に、他の国も似たような召喚が行われている可能性も、あるかも知れないけど……」


 国外の情報はあまり入ってこない。それこそスパイを送り込むか、商人から情報を手に入れるしかないが、国を超える事は容易ではなく、国外からの訪問者は商人や冒険者などは、国の監視下に置かれるそうだ。

 気軽に、国外旅行ができる世界ではなさそうな事を悟る。

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