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汚い文字って解読作業だよね。


「記録から何かわかったかね?」


 シェリッティアの主人が訊ねると、アレクライトとゼランローンズは言葉を返すことができなかったが、かわりに月華が口を開く。


「わたしや楓のいた国以外からも、召喚された人もいるようで、全ての記録を読み上げる事は出来ない。あと、情報として使えるかの判断は其方で行い、精査して貰えれば」


 淡々と今日の事を伝えるが、重たかった事実は伝えない。情報公開の判断は保護者に任せるようだ。


 いつもより全然食べずに月華は席を立つ。食指が動かない楓の、半量も食してない。

 その事からやはり、彼女の心の負荷は相当なものと思われる。

 楓、アレクライト、ゼランローンズはどう声を掛けていいものか、わからないままだった。

 3人とも食欲がいつもより無くなっていた。楓も席を立ち、食堂から立ち去る。


 楓が去ったのを確認し、ゼランローンズが口を開く。


「父上……今日発覚した事ですが……」


 ゼランローンズは、聖女と稀人は元の世界で、存在を消されてしまってるかもしれない事を伝える。

 異世界人への親愛が深い者たちには、重たい事実だ。

 常々シェリッティア、スヴァルニー両家の代々の人々は、帰す方法を探し続けていた。


 今のところ見つかっていないが、時代とともに生活が進化するように、新しい発見があり、その中に帰還方法もあれば、と情報を集めれる立ち位置を常に確保し、聖女のいない時でも尽力していたのだ。


 もし、存在を消されてる事が事実であれば、聖女召喚の儀と言うのは、あまりにも身勝手な召喚術だ。


 しかし、魔物の発生抑制や弱体など、此方の世界で起こるメリットの為に、毎回150年毎に召喚されている。

 たった1人の人生を犠牲にすることなど、王家にとってはなんとも思わない。1人の犠牲は多くの民を救う、何も問題ないといったところだ。


 過去には召喚という方法を用いたにも関わらず、"偶然この世界に現れた人"として、扱ったという記録もある。

 そうすれば、無理やり呼び出され、犠牲になったわけではなく、迷子を保護する優しい国として、聖女は国に感謝する。

 事実を知らされず、真実を知らないまま、その聖女はこの国で眠りについた。


 異世界人を傷つけない為にとった策で、その聖女は晩年まで心穏やかに暮らした。

 その後のシェリッティア家の守人は、心を壊してしまった。嘘をつき続け、欺き続けた自責の念に押し潰され、息絶えた。


 何が正解かわからないままの、今現在である。


「1番の正解は招ばないことだ。だが、王家がある限り、聖女は呼ばれ続けるだろう」


 ザーナカサブランは、異世界人の心を殺し続ける王家に嫌気がさしている。

 だが、今代の『聖女』は、今の処遇に満足してるようだから問題ないだろう。


 国は聖女を保護し生かすので、問題なさそうだ。


 記録を読み王族への不信感は募り、時代とともに良き方向へ修正されつつあった。

 聖女・稀人ともに処遇が良くなるよう、尽くしてきたはずだった。


 だが、今の代の王と王子は稀人の扱いを誤った。

 葬ろうとした事はシェリッティア、スヴァルニーへ喧嘩を売った事になる。


「あいつら滅ぼしてくれようか……」


 ゼランローンズがぽつりとこぼす言葉は、不敬罪そのものだ。だが誰も咎める者はいない。


「あいつら滅ぼしても問題ないよ」


 アレクライトもしれっと言葉を乗せる。ゼランローンズは眉を少し上げて、友を横目で見る。が、声をかける事なく退出し、月華の部屋へ足早に向かって行った。

 楓と2人でいるのだろう、と思いながら部屋をノックするが言葉は返ってこないどころか、月華の気配すらない。


「ツキカ……?」


 ゼランローンズはドアを開けるが、そこに彼女はやはりいなかった。

 扉をしめて踵を返し、彼は心当たりのある場所に足を向ける。



「ここにいたか……」


 資料保管庫の扉を開けると、蝋燭の火で記録を読む月華の姿があった。

 彼は魔導具のランプに灯りをつけて、月華の近くへ置いた。


「あ、ありがとう」


 月華はゼランローンズを一瞥し、礼を述べ再び記録へ目を落とす。


「なぁ、この稀人たちの記録で、鍵がかかった物とかあるのか?」

「あぁ、誰にも開けない本が5冊ほどある」

「それ、多分わたし宛の物だから見たい」

「持ってこよう、此処に居るんだぞ?」


 頷いて、月華は何度も何度も、母の記録を読んでいた。

少しして、厚さ10センチほどの冊子がテーブルに置かれる。

 見た目はただの本だが、ページがめくれない。


「この冊子は過去誰も開けなかった物だ。どうしてこの本の存在が?」

「父の記録に記載されてる。1ページ目に堂々と」


 その記録の1ページ目にある文字は、過去に誰も読めなかった。楓と月華の同郷の人ですら、読めなかったのだ。

 だが月華が読めたので、暗号か何かなのかとゼランローンズが訊ねると、月華はふるふると首を振るい同じ言語だと答える。


「父の字はものすっごく汚い」


 まさかの記録の字が、汚くて誰しもが読めなかっただけだったのか、とゼランローンズが少し落胆する。


 月華は冊子の1つを手に取り、開く。

 自然に開く冊子は、まさに本そのものだが、誰も開けなかった本が開く事にゼランローンズは驚くが、月華は気にせず読み進めようとしたが、本を閉じる。


「汚すぎて読めん! 次!」


 4冊が父の字だった……。

 10センチの本4冊がスムーズに読めない。ぐったりした月華は部屋に戻ると言い、保管庫を後にした。


「明日以降明るい時に、ゆっくり読むといい……」

「ゼラ……読むんじゃない……。解読作業だ、あれは」


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