※フィクションの日本です。
楓や月華が語る日本は【実際の日本を参考にした架空の日本】です。
実際の人物・団体とは一切関係ありません。
2代目聖女の記録は、呪詛の如く王族への愚痴が書かれていた。
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自分の召喚に巻き込まれた人が殺された。
あの子をそばに置いて欲しい、彼女は何も悪くない。
そう何度も願ったのに。
スヴァルニーのお姉さんも頑張ってくれたのに、やっぱり王政ってダメだ。
聖女の力無くなればいいのに。
前の人みたいに魔法が使えたらあの王族消し炭にしたのに……
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そこからの日記はまばらになり、どんどん同じ言葉が繰り返されてる。精神を病んでしまったようだ。
スヴァルニー家に伝わってる記録では彼女は笑顔を絶やさず奉仕活動に専念していた、とあったので表面を繕いながらも、心は死んでいたようだ。
6代目くらいまで読み終わったところで、全員が疲れ果てた。
ほぼ全員、日記を書くのが好きではなかったようで、日付は飛び飛びだった。
聖女は女子高生が多いようだ。
7人中6人が女子高生で1人が女子大生だ。いずれも10代の女の子ばかり。
「変態だな」
「犯罪度が深まるわね……」
JK好きの聖女召喚に、気持ち悪さを感じながら、一旦休憩する。
「やはりスヴァルニーにある記録と、聖女の心境は一致してないね。まぁ、自分の心境を事細かになんて伝えないよね。誰かに恋をした、とかあっても異性の保護者に相談はしづらいだろうし」
「かもしらんな。居る人の分だけ、見方も変わるものであろうし」
アレクライトが豆茶を飲みながら、ため息を溢す。ゼランローンズも同意する。
月華は頭をぐしゃぐしゃと掻き、大きなため息を吐いた。
そして楓に向き直り口を開く。
「読んでた記録と、わたしのカンが一致するかわからんが……召喚された人は、元の世界から存在を消されてる可能性が高い。7代目聖女の記録では、皇太子の娘。つまり彼女は皇族だ……」
次の記録に、パラパラと目を通していた月華。
楓は驚きのあまり、持っていたティーカップを落としてしまう。
幸い中身が入っていなかったのと、テーブルに落ちる前にアレクライトがカップを受け止めたので、何事も起きなかった。
「皇族って、オレらが知ってる皇族と合ってる?」
アレクライトが眉をひそめながら問う。楓は似た感じだと思うと答え、月華の続きの言葉を待つ。
「世間や他人に興味のないわたしでも、皇族くらいわかる。わたしの記憶では、現在の皇太子の第1子は男児だ。5才あたりだった気がする。んで第2子が妹だったはず。その子供たちの名前と顔は覚えてないけど。だが、7代目聖女は皇太子の第1子と記録してある。そして彼女はわたしらが召喚された日の、半年前に日本から姿を消し、こちらに召喚された。皇族が行方不明になったら、号外が出たりマスコミが連日、関連放送をしてばかりだ。そんな大々的なニュース記憶にない」
皇族関連は何かあれば、朝のニュースや新聞、ネットニュースの報道により目にする。
だが、楓と月華は皇族の第1子は、男児と認識している。
「つまり、私や月華がいた痕跡は、向こうにない可能性が高い……のね……」
「あぁ、可能性の域を出る事はない。今後こちらに来る人しか、知らない事だ。有名人でもないわたしらを認識してる人なんて、たいした人数でもないから、確認のしようも無いに等しいが」
此処に来て、帰る方法が無い事よりも、残酷な可能性が出た。
「楓は運転免許持ってる?」
月華のいきなりの質問に意味はわからないが、所有してるので頷く。
「こっちに来たときに持っていた、あの鞄に入ってる財布の中にあるわ」
「免許を取るのに、本籍地入りの住民票の提出が必要だ。地球で存在を消されてるのであれば……」
月華の言葉に頷き、2人はこの家に先に届いた荷物のもとへ向かう。
アレクライトとゼランローンズは、突如浮かんだ残酷な可能性に、何も言葉を出す事ができず、ただ2人の後を追うことしかできなかった。
月華のキャリーケースから楓の鞄を、自分の財布を出し、中身を検めた。
財布の中の、カードが収まるポケットには、いくつも空白があった。
「免許証がない! 保険証もないし、診察券もクレジットカードもないわ……!」
「あるのは、無記名のポイントカードだけだ……。記名してあったものが、何もかも無くなってる……」
「スマホも番号が消えてるわ…」
楓のスマートフォンは、まだ電池が残っていたようで電源が入る。
名前を用いて購入、契約、取得したものがことごとく消えてる。住んでいた家の鍵も無い。
「あははは……嘘でしょ……。私、あっちで生きてたのよ……なんで……?」
足の力が抜けて、床にへたり込む。
地球にいた自分の存在を消された……生きてきた事を否定された気になって、楓の瞳からポロポロと大粒の涙がこぼれる。
「ご……ごめん……なさ……。しばらく……1人にさせて……お願い……」
嗚咽まじりの懇願に全員が頷き、部屋を後にする。
扉が閉まったあと、楓は声を上げて泣き出した。月華は苦い表情を浮かべ言葉を落とす。
「仮定を裏付ける証拠……あったか……」
自分の住んでいた場所に、拒絶されたような状態で、月華は涙も流さず、残酷な可能性の証明までして、平気な顔をしてる。アレクライトは眉を下げ、月華に訊ねる。
「ツキカは平気なのか? ハッキリ言って、重たい事実だろ……」
月華はアレクライトを見て、首を傾げる。
「わたしが辛いのは、楓を泣かせてしまった事だけだが?」
「………は?」
「いや、だってわたしはここに居るし、今まで生きてきた中で身につけた技術、記憶はここにあるし」
「お前……鋼の精神持ってんのかよ……」
「自分に起きたと仮定し、考えるととても残酷な事だ……無理していないか? ツキカ…」
月華は、口は悪いけどなんだかんだ心配をしてくれる保護者と、ガチ過保護な保護者に眉を下げる。本当に平気なのだ。
「あーうん。うーん、あぁ、元気ないから何か食い物くれ」
「……思いっきり取ってつけたように言うなよ!」
「ならばサロンに行こうか。軽食を用意させよう」
作中の日本では天皇は70代くらい、皇太子が40代くらいで、子供が学生や幼児らへん。




