音読するお仕事です。
石動 亜耶音の異世界トリップ日記。
20XA年7月5日に、私はこの世界に呼ばれた。
この日記が石川県金沢市にある、私の部屋のノートに転写されますように。
家族が見つけて、作家デビューしてお金持ちになれますように。
マジで起こるのね、異世界トリップ。
何か神殿みたいなところに呼び出されたけど、冴えないオッサンがいたよ。
「ドゥジャエンファーケ(テンケーの通りか)」
とか言いながら(当初は言葉何言ってるかサッパリだったし、いまだにテンケーの漢字がわからない。辞書アプリください。)私のことまじまじ見ていたよ。マジ意味わかんね。
てんけーってパソコンの数字のキーのこと?
ピチピチピカピカのJK呼び出しといて何かびっくりしてるけど、びっくりしたいのは私だよ?
王様に報告だーって、私を担ぎ上げて神殿を駆け上がっていったよ、あのオッサン。※この頃は言葉がわからなかったけど、めちゃくちゃ外国語勉強した今だから、書けるよ!
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この世界に来て15年。いつのまにかアラサー。
私には魔物の力を弱める効果があるらしい。今更気づいたけど、何せ全てが初の事。
記録をして次の人へ残そう。
スマホもない、ネットもない、アプリもない中、頑張ったと思うんだ。
魔法が使えるようになって、いろいろ捗るようになった。
イメージが大事。燃え盛る炎や魔物を一撃で貫ける氷柱とか、ゲームのおかげでイメージできてたから、簡単に使えるようになった。
イメージ大事。ホントに大事だから2回書くよ!
だけどケアラとか、ホイマが使えないのは未だに解せぬ。
とりあえず、私を召喚した場所の床に刻んである魔法陣に、翻訳魔法を組み込んだ。
次に誰かが来ることがあれば、私のようにイチから謎語を学ばなくていいように。
チート能力ヒャッハーをしてください。
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親切にしてくれた、シェリッティアのおじさんを見送った。
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今や私も見送ったおじさんと同じ歳になってた。
アラカンよ、アラウンド還暦。
もう日本には戻れなくてもいいよ。流石にここで骨を埋める覚悟は出来ている。
骨になるのが現実味を帯びた年になって、ようやく諦めがついた。こんなおばあちゃんでも、聖女として扱ってくれてる。
願わくば、次に誰かがここに来るときは、心穏やかに過ごせますように。
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さようなら。
せめて魂だけは還らせて欲しい。
さようなら、シェリッティア家とスヴァルニー家の友よ。
石動 亜耶音 は もうすぐ 眠ります
来世は イケメンと 出会えますように。
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「マジで日記いや、年記だった……初代聖女の手記……」
「だな、しかも魔法や様々な革命に関しても、擬音が多い……。『西エリアをバババーッとアレしたら、南エリアにシャーっと水が行って、街に水がパァっと通って、めでたしめでたし』……肝心な部分が不明だな……」
「おまけに3日ならぬ、3年坊主の常連」
一応向こうの世界独特の言い回しは、意味を伝えながらゼランローンズに伝えた。
手記を棚に戻して一休みする。
楓とアレクライトの方を見ると、あちらも首を傾げながら読み上げて書き起こしてる。
あちらは別の聖女の手記だ。
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8月13日
白蜜豆のホワイトおはぎ
白蜜豆 1kg (豆が甘いので砂糖不要)
豆を柔らかくなるまで煮る
豆が柔らかくなったら裏ごしをかけて冷ます。
白餡のできあがり。
あとはもち米を炊いて、少しつぶして白餡装備すればOK!
もち米ないけどな!!!!
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8月14日
魅惑のパンケーキ
円形のセルクル
卵 8個
小麦粉 いい感じの固さになりそうな量
媚薬 3滴まで
ミシャ牛のミルク コップ1杯
全部ひたすら混ぜてトロッとなったらセルクルに入れて焼く。
形の整ったパンケーキが焼き上がるので、『お菓子作りできるアタシ』アピールに意中の男性へ振る舞って。
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8月15日
愛の共同作業アイス
ミシャ牛のミルク
極楽蜂が集めた蜂蜜かお砂糖
アノタ鶏の卵黄
氷魔法が使える意中の異性
卵と蜂蜜混ぜる。
牛乳火にかけて混ぜて、卵入れる。混ぜる。
火から下ろしたら鍋の中身をボウルに移して、氷魔法をボウルにかけてもらう。
10分くらいカシャカシャしたら、半円の金属容器に移して氷魔法の人に冷凍してもらう。できあがり
誰も知らない味に意中の人夢中! これぞ愛の共同作業。
今夜のあなたは眠れない?!
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「婚活女子かっ!」
「所々不穏な材料があるな」
記録に対して月華と、ゼランローンズのツッコミが入る。
読み上げている楓の目は死んでる。
書き起こしてるアレクライトの目も死んでる。
ゼランローンズは、今まで書き起こしたレシピを見ながら、頷き口を開く。
「此れは北部地方に伝わってたが、時と共に失われた料理の可能性があるな。この中のマトモな料理は使えるかもしれない」
「使えるのがあるならよかったわぁ……」
楓の目に光が戻る。
『題名:聖女のモテレシピ』は中々精神的にくるものだった。
主にギリギリアウトのレシピを読むのが多く、自分が悪いことをしている気分になってしまうもので、なかなかメンタル削り力の高い記録だと、ため息を大きく吐き出していた。




