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お仕事頂きました。


「何でディジーのドレスが届いてるのよ……」

「荷物に入れずに済んだ、豪華な服も靴もアクセサリーも、ここにある理由がわからん……」


 豪華な服に、心が後退りしている2人。荷物の着替えはシンプルな町娘風の服ばかりで安心していた。

 だが、ディジニールは豪華な装いの服を、実家にどうやってかはわからないが、送ってきていた。その事に恨みと疑問符が飛び交う。


「ハッハッハッハ! ニールはキャリーキャットを持ってるからね。荷物だけを運ぶからキャット便は、人間より早く着くんだ。ほら、いま庭で休んでるよ」


 主人はサロンにある大きな窓を示すと、大きな猫が日向ぼっこをしている。

 子猫のようなずんぐりした顔と手足だが、でかすぎる。だが、肉球をペロペロなめて顔を撫でている動作は、とてもとても微笑ましい。


「2人ともよく似合っているぞ。娘が2人増えた気分だ」


 主人が豪快に笑うなか、楓は死んだ魚のような瞳で虚空を見つめ、月華はゼランローンズを射殺さんばかりの瞳を向ける。


 アレクライトとゼランローンズはエスコートすべく、2人の側にやってくる。

 楓は半分諦めと慣れで、アレクライトの手を取りソファへ向かう。


 その後ろでバシバシと叩く音が聞こえるので振り返ると、月華がゼランローンズを投げ飛ばそうと柔道の如く、袖を襟を取ろうと手を出して、ゼランローンズはその手を捌いてる。


「ま、まて! ツキカ! 俺は何も知らぬ!」

「だろうと思った! けどこれは八つ当たりだ!!」

「そ、そんなにドレスが嫌いなのか?! とても似合っているぞ!」

「嫌いだとも! こんなヒラヒラキラキラした服なんぞ似合わない! 服に着られるなんて、まっぴらごめんだ!」


 袖、襟を取ろうとする手をいなしながらも、会話は続く。バシバシと、音が鳴りながら進む会話は、異様な光景だ……と楓は遠い目をする。

 アレクライトは笑いながら見てる。


「カエデは抵抗しないんだ?」

「人間、諦めが肝心よ。ディジーで学んだわ」


 楓は諦めと言いつつも、イケメンのエスコートは物語の中だけ、だったはずなのに体験できるのが、少々嬉しくもあった。


「あとで目一杯、組み手に付き合うから! この場は怒りを鎮めてくれ……!」

「その言葉、忘れるなよ……!!」

「あ、それならワシも混ぜて」


 主人が砕けた口調で会話に混ざる。組み手の約束取り付けで、一旦怒りを沈めた月華に、コロコロと夫人は笑う。


「さ、ひとまずお昼にしましょう」



 昼食を終えて食後のティータイムで、主人が提案をする。


「これまでの聖女と稀人の記録を、読み聞かせて貰えないか? 記録によると歴代聖女は、記録が読めなかったり、他人の日記を暴くのは憚られる――と、記録を残してくれなかったようでな」


 稀人たちは、王宮の世話にならず、シェリッティア家に世話になっていたようだが、時折ふらりと旅に出ていたらしい。

 2人で現れ、2人は常に一緒に行動していたので、記録は本人らが自分の世界で使っていた言語で書いた手記のみ。

 晩年シェリッティアに戻ってきて、数ヶ月で息絶えたそうだ。


「聖女の殆どが王宮で過ごしたから、こちらに滞在して手記を紐解いてくれた者が、少ないのだよ。勿論報酬もお渡しする」

「読んだものが、情報として使えない内容の可能性もありますよ? それで報酬をと言われましても……」


 楓はお金になる提案に食らいつきたかったが、踏みとどまる。期待していた内容でなければ罵倒され、期待以上の成果の場合、掠め取られ結局泣き寝入り。そんな日常を思い出す。


「通常の本の転写複製が1冊金貨3枚だ。このくらいの厚みでね。古い本ほど、丁寧に扱わなければならないから、値段は上がる」


 手で7〜8センチの幅を示して、主人は再び口を開く。


「状態保存の魔法が掛かっている記録は、原本がある分、値段が下がる事が多いが、古語のものを現代語に直す場合は、金額が上がる」


 続いて夫人が口を開く。


「聖女と稀人の記録は、あなた方でしか読めない可能性があるので、読めた物に関しては、1人の記録に対して金貨20枚お支払い致します。今まで誰1人読めなかった、とある稀人の記録は、金貨50枚をお支払いします」

「金額がおかしいかと思うかもしれんが、シェリッティア家にとっては、読み解きたいものなのでな」


 楓と月華はお互い顔を見合わせる。

 気分的なレートだが、銅貨は100円、大銅貨が500円、銀貨は1,000円、大銀貨で5,000円、金貨は、10,000円だ。

 稼ぐにはもってこいだ。


「金額に不満はない。わたしは受けよう。複写に関する用品はそちらで用意してもらえるんですか?」


 月華は頷き、経費部分の交渉に入る。


「勿論だ。書き取りにはゼラをつけよう。読み上げてくれるだけで構わない」


 本の音読だけでは、ぼったくってる気分になるが、この家にとって価値があるなら手伝おう、と月華は是と返事をする。

 複写用品にゼランローンズが入ってる事が、何だかおかしい気もするが、文字は翻訳チートの日異辞典に頼るより、記載は早そうだ。


「カエデちゃんはどうかしら?」


 夫人が訊ねてたので楓も頷く。お金が入って、聖女の記録も読めるなら一石二鳥だ。身の振り方を決めるにも、お金があれば、幅だって広がる。


「んじゃカエデちゃんには、アレクくんについてもらうわ」


 単純計算で仕事速度は2倍だ。

 明日から仕事として取り掛かってもらうので、今日はゆっくりと体を休めてほしいと、夫人に言われたので2人は頷く。


「んじゃ、休憩として、食後の運動でもするか」 


 月華が言葉をこぼすと、ゼランローンズと主人が立ちあがり、着替えを済ませたら庭に行こうと、3人はサロンを出て行った。残りの3人はため息を吐いた。


「休憩が運動って意味がわからないわ……」

「あれが脳筋だよ……体動かしてなきゃ死ぬ何かなんだよ……」

「ザーナを持て余してたから丁度いいわ。若い2人にシバかれて、大人しくなっててくれると助かるわぁ」


 不穏な言葉が聞こえたが、楓は聞かなかったフリをして香りの良い紅茶を一啜りした。

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