シェリッティア家訪問。
翌日からの行程は、雪も減りさらに順調だった。
移動と休憩と宿泊を経て、さらに翌日の昼前に、ゼランローンズの実家に着く。
遠くから見ても大きな家だとわかったが、近くで見るとさらに大きい。
ディジニールの屋敷の2倍以上ある。
楓と月華は圧巻の光景に言葉が出ないが、ゼランローンズとアレクライトには見慣れた景色なので、そのまま開かれた門扉を馬車で潜り、正面の玄関近くで停めて馬車から降りる。
メイドや執事がズラリと並んでお出迎えする。
「ゼランローンズ様、おかえりなさいませ。アレクライト様、お久しぶりにございます。そして異世界からの来訪者のお嬢様がた、ようこそシェリッティア家へ」
撫で付けられたロマンスグレーの髪を一纏めにくくり、シャキっと背筋が伸びて、腰から礼をする執事の男が代表をきって迎え入れる。
「うむ、皆も息災で何よりだ」
「旦那様と奥様はサロンでお待ちです。ご案内致します」
本当に貴族の子息だったんだなぁ、とやりとりを見て思いながら、案内を受け、サロンに入る。
サロンには、蜂蜜色の髪の男と赤銅の髪を持つ女が、座っていた。
近くまで歩くと、2人が立ち上がり、こちらへ向かってくる。
男は間違いなくゼランローンズの父だ。背はゼランローンズより低いが筋肉質で厳つい。目鼻立ちもゼランローンズに似ている。
女は小柄でリーナネメシアに似ていて、可愛らしい雰囲気だ。
「おかえりなさい、ゼラ。いらっしゃい、アレクくん。そしてようこそ稀人のお嬢さんたち。わたくしはティティラファリカ・シェリッティアよ。ここを自分の家と思って寛いで頂戴」
赤銅の髪の女……ゼランローンズの母親が、優しい口調と笑顔を見せ、歓迎の言葉を述べる。
「シェリッティア家今代当主のザーナカサブランだ。どうぞゆっくりしていってくれ」
「ただいま戻りました。父上、母上」
「お久しぶりです、お世話になります」
「楓と申します。突然の訪問により、ご迷惑お掛けして申し訳ありません。よろしくお願いいたします」
「月華です。なるべく手早く済ませてお暇させて頂きますので、その間ご容赦頂きたく思います」
月華の言葉を聞いて、夫人は目を見開き、ツカツカと近寄ってきて、楓と月華を抱きしめた。
「ダメよ、さっさと帰ろうとしないでゆっくりなさい。色々お話を聞かせて頂きたいし、体も休めないといけないんだし」
この心配しつつ、そばに置いておきたい感が、ヒシヒシ伝わる何かを感じて、ディジニールの事を思い出す。むしろ彼が重なる。
あぁ、親子だ。リーナネメシアも距離が近かった気がする。と思いながら夫人の抱擁を受け続ける。
シェリッティア家主人は、その様子を微笑ましそうに見ながらアレクライトへ言葉をかける。
「あぁ、アレクくん。娘からの報告の中に、君の姉君から君宛の手紙も、同封されていたので渡しておく」
「ありがとうございます」
アレクライトは手紙を受け取り、その場で開封する。1枚目を見た瞬間から、顔がひきつりだす。
「私的な手紙のようです。報告はおそらくシェリッティア辺境伯へお渡ししてるものと同様だと思われます。特筆すべき内容があれば、別途お伝えします」
そう言ってアレクライトは、手紙を読まずにポケットへ入れた。
その手紙の1枚目からすでに、愚痴が羅列していた。聖女の我儘放題に辟易する内容のようで、此処で手紙を読んでも得られるものが無いと判断した。
「さ、カエデちゃん、ツキカちゃん! お着替えしましょう! その服だと、こっちの気候に合わないわ」
夫人がニッコリ笑うと、彼女の後ろに大量のメイドが現れる。楓はラノベでよく見た『メイドに服を剥かれて体の隅々まで洗われた。』のフレーズを思い出し、顔を引きつらせる。
月華も同じだったようで、1歩、2歩と下がってた。
「母上、彼女たちは、自分の事は自分でなさる方々なので、手伝いは不要でっ……!」
ゼランローンズの助け舟で、一瞬ホッとしたその瞬間に、メイドたちに捕まり、持っていかれてしまった。
「ま、待たんか!」
メイドを追いかけようとしたが、夫人がゼランローンズの前に扇を出して止める。
「今追いかけると、彼女らの裸体を見ることになるわよ? いいのかしら? それとももう既に……?」
「そんな真似してるわけないでしょうに!」
「相変わらずカタブツねー」
「もういっそ見てきたらどうだ?」
「父上まで! 何を仰るのですか!」
ゆるい発言を繰り返す父母に、真面目な言葉を返す。
シェリッティア家で、ガチガチに真面目なのはゼランローンズだけで、貴族にしては他の面々はゆるいのだ。
とは言っても、東部にある領地は統制が取れているし、領民からも、ありがたいことに慕われている。
領民の前ではきちんと領主様をしている。が、ひとたび家に入ると、ゆるくなる。
「女性の支度は時間をかけるものだから、座ってお茶でも飲んでましょうね」
夫人がメイドにお茶を入れさせ、全員が席につく。
おしゃべりをしながら1杯目のお茶がなくなる頃、ぐったりした顔の楓と月華が、サロンに入ってきた。




