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手料理の約束再び。


「茶碗を持つのが久しぶりすぎる」

「出汁のきいたお吸い物も懐かしいわ……」

「楓はエビフライ、醤油派? ソース派? タルタル派?」

「お味噌汁やお吸い物の時はお醤油で、スープの時はタルタルね」

「おお、ちゃんと和洋わけてるのか」


 久々の和食に、会話も食べ物中心になる。


「タルタルとはなんだ? そちらのソースなのか?」

「きいたことないけど、類似してるものはこっちにあるかなぁ?」


 ちゃっかり、会話の中身は聞いていたので、男たちは会話に加わってみることにした。

 楓はタルタルについて答える。


「えーと……家庭によって違うかもしれないけど、潰した茹で卵にマヨネーズ、玉ねぎを入れて塩胡椒がうちのタルタルかしら」

「粗潰しの茹で卵にピクルスとパセリにマヨネーズ、んで仕上げに塩胡椒が、わたしの作ってたタルタルだな」


 きいてるだけでは、ピンとこないだろうから、今度作ろうか。と楓と月華に言われた男2人は、テーブルの下でガッツポーズをする。


「タルタルエビフライ食べたことないなんて、人生の3割は損をしてるわ!」

「さ、3割も?!」

「カエデの好物なのか……その品は」

「モチのロンよ! サックサクじゅわじゅわのエビフライを、タルタルの卵感とマヨマヨしさが抜けた後を、玉ねぎが追従してくる! あぁ……たまんないわぁ」


 楓が熱く語るので、ますますタルタルが気になる男2人。


「月華のタルタルも美味しそうよね、ピクルス入りってお店でしか食べたことないわ……」

「ピクルスの代わりに沢庵もなかなかいける」

「おいしそう!」

「いろいろ試せばいいんじゃないか?」

「そうね! 究極のタルタルを、いつか作ってやるわ……!」


 食事を終えて宿に戻り、風呂に入る。

 女性2人が先に入る。そして月華が先に上がってくる。

 タンクトップにハーフパンツという部屋着スタイルだが、膝下が見えてるのは、男たちには刺激的なようで、慌てて長めの服を着るように言ってきた。


「……このふくらはぎ見ても、そんなこと言えるか?」


 月華は据わった目で言葉を返し、くるりと後ろを向く。

 細めではあるが筋張ってて厳ついふくらはぎだ。見るからに筋肉質で逞しい脚が見える。


「なんでこんなに筋肉質なんだよ……」


 アレクライトがびっくりしながら足を見てる。

 女性の足をまじまじと見るのは、如何わしい気持ちになるはずなのに、一切ならない。色気がないのだ。

 どちらかというと騎士団にいた時に、よく見た足だ。


「筋トレの効果だ」

「綺麗な足だな」


 クマ野郎よ、足を褒める意味合いが違う……。アレクライトの顔はそう言いたげだが、月華は誇らしげだ。

 肩から全部出てる腕も筋肉質だ。アレクライトより筋肉は無いが、やはり肩や腕のラインが筋肉の形をしてる。騎士団の連中より綺麗な筋肉かもしれない。

 アレクライトはそんな事を思っていたが、ゼランローンズはそっとガウンをかける。


「この地域の建物は、保温性が王都付近に比べると高くは無いから、冷やさないようにな」


 こいつはどこまでも紳士か……! オレも見習った方がいいのかな、とアレクライトは思っていたが、かけられたガウンを脱ぎ、月華はこれから筋トレするからまだいらないとゼランローンズにガウンを突き返す。


――こいつはどこまでも脳筋だ……


 アレクライトは、月華にどんどん脳筋項目が当てはまっていくことに、少々残念な気分になる。


 楓はガウンを着た状態で風呂から出てきて、先に風呂を使わせてくれてありがとうと礼を言う。

 アレクライトが先に風呂に入り、出てきたら、入れ替わりでゼランローンズが入る。


「人に露出するなって言って、半裸で出てきているじゃねぇかよ……」


 月華が不機嫌……と言うよりは納得のいっていない顔丸出しで、アレクライトへ声を投げかける。アレクライトはオレは男だからいいの、と軽口を返す。


「シックスパック……」


 鍛え上げられたアレクライトの上半身を見て、楓から言葉が溢れる。割れた腹筋、胸にも肩にも腕にも盛り上がった筋肉が見える。細マッチョ以上マッチョ未満な、筋肉質である体つきに、思わず楓は頬を赤らめる。


「楓、シックスパックならここにもあるぞ?」


 月華はタンクトップをめくり楓に腹を見せると、細マッチョのシックスパックが楓の視界に入る。

 アレクライトは目を見開いた。いやらしい意味ではない方の驚きである。脳だけじゃなく腹も筋肉だったからだ。


「一緒にお風呂入ってたのに、全然気づかなかった……」


 いくら同性とはいえ気恥ずかしさもあり、体をまじまじと見たりはしていない。なので、月華の腹にあったシックスパックを見落としていた。


「シックスパックを持ってないのは私だけ……?!」


 ゼランローンズは間違いなくあるだろう。無ければ詐欺だというレベルで、彼は筋肉の塊だ。

 楓は1人仲間外れ感を感じたが、アレクライトは慌ててそんなの必要ないと諭す。


「女性は筋肉つけるの大変だから、やめた方がいいよ! 運動は大事だけどツキカのような、やりすぎはよくない!」

「やりすぎ? まだ足りないぞ?」

「脳筋は黙っててくれ!」


 ゼランローンズも風呂から出てきたが、きちんとガウンを着てる。その様を見て月華はアレクライトを見るが、彼はスッと視線を外す。


「さて、明日から移動のペースも上がるだろうから、備えて眠るか」


 ゼランローンズが声をかけたので、全員頷いて布団に入る。魔導具のランプから光が消えて、夜の帳が広がる。


「おやすみ。皆、良い夢を……」

「おやすみなさい」

「おやすみー」

「おやすみ」


 それぞれ挨拶を交わし、眠りについた。

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