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みんな背が高い。


 先ほどより馬車の速度は格段に上がった。揺れもかなり増えた。


 楓はシートベルトのありがたみを、こんな所で思い知る事になるとは思わなかった。

 今、この場で何よりも欲しいものが、シートベルトである。


「すまん、相当揺れてしまっている!」


 前方よりゼランローンズからの謝罪が聞こえるが、彼が意図的に揺らしてるわけではない。全員で大丈夫と言葉を返し、揺れに耐えてる。


 アレクライトと月華は体幹がしっかりしてるため、揺れても持ち直せるが、楓は揺れに合わせて大きく振られている。このままでは怪我をしてしまうと思い、月華は楓をアレクライトの膝の上に乗せる。アレクライトはすかさず楓の腹に腕を回し、しっかりと抱き締める


 月華は座面から降り床に座り、座面に掴まる。靴を脱ぐ様式になっていてよかった。それでなければ、雪のついた靴が乗った床に座る羽目になり尻が濡れていただろうな……と安堵する。


 15分くらい走っていると、細かな雪が降ってくるのが見える。

 そしてまた時間と共に雪が段々と強くなってくる。ようやく町が見えたのか、ゼランローンズの声が届く。


「町が見えた、もう少しだけ持ち堪えてくれ!」

「こっちは大丈夫だから気にするな!」


 ゼランローズの気を遣う言葉に、アレクライトが返事をする。返事はできなくても、楓と月華だって同じ思いだった。



 馬車が町に着いて速度が落ちる頃、辺りはすっかり吹雪だ。

 馬車が入れる厩舎にたどり着き、馬には藁の上で休んでもらう。

 ゼランローンズは風を起こし、馬と馬車と自分の雪を吹き落とし、馬車内に入った。


「すまなかった、大丈夫か?」

「こっちはなんとか。雪の中ありがとな」


 月華は床から椅子に戻り、アレクライトはぐったりした楓を支えてる。吹雪で町の中の様子も見えないので、雪が落ち着くまで、一同は馬車の中で過ごす事にした。


 楓も持ち直したので、馬車の中で昼食だ。

 本来なら道中で、休憩しながら昼食を取るはずだったが、思い掛けない雪により、予定より早く町に着いた。


「うまっ……冷めても旨いってすごいな!」

「温めて食うと尚美味いぞ?」

「そんな事できるの、ゼラだけだからな?」


 ゼランローンズは魔法で手から熱を発し、パラフィン紙で挟んである小さめのカルツォーネを、温めてから食べてる。

 先に楓と月華の分を、温めてから渡してあげる紳士振りも抜かり無い。

 アレクライトは自分の分も温めてもらって、更に美味しい状態で食べ、嬉しそうだ。


 雪は少し落ち着いたのか、辺りの景色も少しわかるようになった。

 厩舎番が来たので挨拶をし場所代を払い、雪が落ち着くまで再び馬車の中で過ごす。


 月華はスケッチブックを膝の上に広げて、鉛筆でデッサンをしはじめる。

 ディジニールからスケッチブックを3冊ほど渡されて、向こうの服を描いてと言われてた。

 朝早く出かけた彼に、スケッチブックを預かっていたメイドから渡された状態だ。

 楓も横から見てあんな服があった、流行ったなどと伝えていく。


「よし、(金の元が)できた」


 月華の手は早い。スケッチブック1冊を描き終えて閉じる。ディジニールに売るようだ。

 服に興味が無かったので、あまり覚えてない部分は、楓が補ってくれたので2人の合作だ。


「でも、ここら辺の人って露出ないわよね。季節柄なのかもしれないけど。ドレスは露出してるデザイン多いけど……」

「だなぁ……まぁ、地域が変われば売れるデザインかもしれんし、他の地域の服飾も余裕があったら見ておこうか」


 月華はもう1冊スケッチブックを取り出して、今度は男性の服を描き始める。

 反対の隣に座ってるゼランローンズが、しげしげとスケッチブックを覗き込む。


「ツキカのいた所では、男性はそのような服を身につけていたのか?」

「うん。でもこれ、ほぼわたしの私服」


 Tシャツにカーゴパンツという、カジュアルな服装が描かれている。

 こちらの男性は襟付きのシャツにベスト、スラックスのようなカッチリと着こなす服装が多い。

 男物を着ていた月華は、こちらの方が早く描ける。実際に着ていた物なので、作りもデザインも記憶にバッチリだ。


――――ダボっとした服のツキカ……ありかもしれん

――おい、そこのエロクマ顔が緩んでるぞ

――――エロ?! 異議を物申す!


 また、瞬きで暗号会話をする男たちだが、そんなこと露知らず、女たちはスケッチに夢中だ。


Tシャツ、パーカー、ネルシャツ、重ね着……

カーゴパンツ、サルエルパンツ、ワイドパンツ……


「月華は、ダボっとしたパンツスタイルが多かった?」


 楓は、月華の私服というスケッチを覗き込んで訊くと、こくり頷きが返ってきた。

 百貨店で展開してる大きいサイズの服は、横も大きいので体に合わない。

 わざわざ直すくらいなら、男物の方が楽に着れる。という事だった。


「女物は丈が足りなくて……。男物だとウエストがデカくて、ベルトで誤魔化して着てた」

「既製品が合わないのは俺もよくわかる……。アレクですら、あまり既製品で、綺麗に着ることができる服は少ないからな」


 背の高い大食いトリオはうんうん頷く。


「そういえば、みんなの背ってどのくらいなの?」


 楓はふと気になって口を開いた。


「オレは185センチだよ」

「俺は197センチだ」

「わたしは175センチ」

「高いわね……私は160センチよ……」

「女性にしては高いよ、カエデも」


 楓は日本にいた時の身長の扱いは、平均くらいだった。ヒールのあるパンプスで、少し伸びたけど、靴を脱いで内履きのサンダルを使用してた職場内では、小さいと言われたりもしていたので、小さい方かと思っていたが。


 世界が変わると、こうも身長で違いが出る事に驚く。

 だが、すぐ近くにいる人たちの背の高さに、自分はやはりちびっ子なのかと思ったが、そうでもないらしい。


 日本人からしてみれば、周りの人は、欧米風の顔立ちで体格も欧米っぽくみえる。なので、背の高い人が多いのだろうと思っていたが、彼らは周りの人らより、かなり背が高いらしい。


 この世界では、楓ですら高い方と言われるくらいなので、この4人はとても背が高い目立つ一行(いっこう)のようだ。

 馬車の旅でよかった、と楓と月華は安堵する。

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