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炭水化物×炭水化物

 テーブルを片付けて、アレクライトとディジニールは部屋にテラリウムを置きに、一旦出て行く。

 楓もテラリウムを寝室とリビングに飾って、上機嫌になる。


 部屋の扉が開くと、月華とゼランローンズが何やら大荷物で入ってきた。


 鍋敷を置いて、その上に大きな両手鍋を乗せ、ゼランローンズが魔法で水を出す。火の魔法も使ってるようで水というよりは、熱湯が出ている。それがテーブルに3箇所。

 楓は、人間が熱湯の蛇口になっているという、不思議な光景を眺めてる。


 後ろから、メイドさんがワゴンを押して入ってくる。

 テーブルにうどんが入ったサラダボウルが並ぶ。


 メイドさんの配膳が終わると、入れ替わりでアレクライト、ディジニール、リーナネメシアが入ってきて、夕飯の時間となった。


「ん〜〜〜!! うどんもっちもちー!! 美味しい!!」

「このスイギョウザたまんないね!」

「こんなモチモチな餃子初めてだわ、おいしー!!」

「茹で上がった出来立てってのが、さらにたまらない!」


 楓とアレクライトは大歓喜で食が進んでる。他の人たちはフォークで器用にうどんを食べているが、箸を使い慣れてる楓と月華は、不思議な光景だなぁと思いながら食べ進める。


 餃子はセルフで茹で上がった物を、網おたまで取って食べるスタイルだ。うどんの麺で作った餃子の皮は、モチモチで大好評。


 月華は喜んでもらえてよかった、と思い視線をずらすとシェリッティア3兄妹は無言でひたすら食べ進めてる。

 口に合わないのかと思いきや、うどんも餃子も吸い込まれるように消えて行く。

 無理して食べてるのかと思い、月華は3人を止めようとしたら、アレクライトに制される。


「この兄妹、ホントに美味しい時は一心不乱に食い続けるんだ。だから最上級の美味しいなんだと思うよ」


 うどんと餃子を1人前ずつ食べたところで、ディジニールとリーナネメシアは顔を上げて柔らかい蕩けるような顔を見せた。


「ツキカちゃん、このお料理ほんっとに美味しい!!」

「ツキカ、あんたここの厨房で働きなさいよ! 給金弾みに弾むわよ!!」

「え、料理人になるなんてヤダよ」


 ディジニールの誘いをぶった斬るあたり、仕事は選ぶらしい。すぐに食らいつかない月華は冷静だな、と楓は感心する。

 うどん2人前、餃子3人前相当を食し終わったゼランローンズも、顔を上げる。そして月華に深々とお辞儀をして礼を述べる。


「こんなにうまい物が食えるなんて生きててよかった。ツキカ、感謝する!」

「モチモチなのは、ゼラが手伝ってくれたから出来たやつだ。だから、これは2人の成果だと思うよ?」

「2人の……そうだな、だが俺はやはりツキカに礼を述べたい。こんなに美味しい食事は久しぶりなのだ。本当にありがとう」

「どう致しまして。ゼラも手伝ってくれてありがとう」


 2人は拳を突き合わせる。

 その行動を他の面々は……


――色気がない。

――何か暑苦しい。

――ムードなしかよ!


 などと、思い思いの感想を抱いていた。


「ツキカ、よかったらレシピ教えてもらえないかしら?」


 ディジニールが訊ねてみると、月華は口を開く。


「薄力粉5対、強力粉4の割合で、塩は3%くらい? 水または熱湯を適量。ひたすらこねて、いい感じになったら寝かせて、プレスして畳んでプレスして畳んで、これかな? って思ったら寝かせる。以上」

「ざっくりすぎるわよ!!! 適量ってなによ!!」

「何かいい感じの具合になりそうな量」


 月華は感覚で料理するタイプなので、この説明が精一杯だ。

 あとは本場のシェフが研究すればいい、と丸投げした。何事もさっぱりしてる月華らしくて、楓とアレクライトは笑う。


 そして、ご飯が終わったところで、リーナネメシアは明日は仕事なので、名残惜しそうに帰っていった。

 ディジニールも仕事で、明日は隣街にいる貴族の家に訪問するから、朝早くに家を出ないといけないのでもう休むとの事。


 後片付けはメイドさんがしてくれるというので、ワゴンに全部載せて廊下に出しておく。


 アレクライトの作ったテラリウムが、リビングに飾ってあるのを、月華が見つけた。


「これ、テラリウムか?」

「ツキカも知ってるの?」

「あぁ、知ったきっかけは苦い記憶だけど、テラリウム自体は好きだよ」


 仕事で赴いた現場に飾ってあった、大きなテラリウムを職人さんが倒してしまい、お客さんに謝り作り直したという思い出だ。復元はできなかったが、作り直した形の方をお客さんがたいそう気に入って喜んでくれたのでヨシとなった。


「月華の作るテラリウムも、見てみたいわね!」

「だね。オレもハマりそうだよアレ」


 小さなガラスにあるこぢんまりとした庭に、ゼランローンズは感嘆を漏らし魅入ってる。

 そして自分の大きな手指を眺め、自分には無理そうだなと諦めの溜息を漏らす。そんな彼の腕をポンと月華は叩く。


「ピンセットで摘めば問題ない」


 どうやらいつか、ここに居る面々で小さな庭を作る事になりそうだ。


 明日、朝食を摂ったらゼランローンズの実家へ出発する。


 アレクライトとゼランローンズは、楓と月華の2人にとって、何か助けになる事が記録の中にあって欲しいと、願わずにいられなかった。


 テラリウムの話でいつの間にか、かなり話し込んでいた。

 就寝前に明日の事を確認しあい、特に思い当たる急用がないので予定通り、ゼランローンズの実家へ出発することが決定された。


「旅に慣れていないだろうから、負担が大きくなるかと思われる。2人とも、しっかり休んでくれ」

「体調が悪かったら、すぐ言ってね」


 アレクライトとゼランローンズは、楓と月華へ声をかけ、就寝の時間だ、と部屋を出た。

 扉が閉まって程なくして、部屋の明かりを落とし、楓と月華はベッドへ潜り込んだ。


うどん生地で餃子しか作った事がなかったので正規のうどんを作ってみたら中々美味かったですが、やはり餃子の方が好き。

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― 新着の感想 ―
うどんの水は40%前後のてきとうですよね~(笑 コシは中力粉に敵わない。なんで捏ねたあとのグルテン量が強力粉の倍になっとんねんおまえ…て検証サイトみたときに思ったのでした シェリッティア3兄妹,なん…
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