材料が似てると品数増やせるよね。
男は月華を見て、眉間にシワを寄せ怒鳴り散らしてきた。
「お前がシェリッティア副隊長を誑かす毒婦か!」
「…………?」
月華は知らない人なので首を傾げる。男はその動作に、ますます眉間のシワを深めて怒鳴り続ける。
「シェリッティア副隊長が、急に隊を去るなんて言い出したから、どうしてかと思ってたら、お前のような毒……婦……ふ? が……?」
急に怒鳴っていた声が窄まり、月華の頭からつま先までを見る。彼女は今朝アレクライトと組み手をしていたので胸にサポーターをつけ、動きやすいようにズボンスタイルだ。
コートを着ているので、背の高さも相まって尚更、女性の体格には見えない。
「え? 毒夫……????」
パッと見、男装状態。そんな月華に毒夫と訊く。
同じ『ドクフ』でも翻訳で頭の中に浮かぶ『フ』は『夫』で変換される。
英語だと毒婦は wicked womanだ、それがmanになった感じだろうな、と翻訳チートの力を感じていた。
ゼランローンズが2人の間に割り込み、何のことか訊ねると、男は顔をクシャクシャに歪めてゼランローンズが急に退職したのは、女に騙されたものだという噂が広まっているそうだ。
真面目で部下の信頼も厚いが、如何せん男所帯だ。女性の免疫が少ない分、騙される男は後を立たない。ゼランローンズにそいつらの二の舞になって欲しくない! と拳を握り締め訴える。
「……アホくさ……帰りましょ、ツキカちゃん!」
「……だな」
「俺も流石に阿呆らしくて言葉が出ぬわ……。根も葉もない噂で、女性を怒鳴りつける事はおろか、あまつさえ男性に見間違えるなど、最低であろう……そのような噂は事実無根だ。責任を持ってお前が訂正しろ」
男に言い捨てその場を後にし、帰路に着く。
男はゼランローンズの姿が見えなくなるまで、捨てられた犬のような顔をして目で追っていた。
帰宅し、昼食をとって、まったりティータイムで寛ぐ。
食休みを終えたところで、ゼランローンズと月華は小ホールを借りて運動をする。
リーナネメシアはその様子を見ている。
「あんな大男なお兄様と組み手したがるなんて、ツキカちゃん変わってるわぁ。あんだけデカいと怖いじゃない……」
「でも、ツキカ様も背の高い方ですから。リーナ様から見ると巨大でも、ツキカ様から見れば大きい、くらいだと思われます」
メイドがリーナネメシアのティータイムに付き合いながら、話し相手になっている。本音を言うならメイドの位置に、月華がいて欲しかったが、最初に会ってるのがゼランローンズなので、そちらに懐くのは仕方がない事だろうとため息を落とす。
夕方になり、月華は厨房を借りる。
食材は、生地を作ってる間に届くだろうから、先に生地作りから始める。
大きなボウルに粉、水、塩を入れ、ひたすら捏ねる。捏ねくり回す。
ゼランローンズとリーナネメシアが、邪魔にならなさそうな位置で、作る様子を見る。
ある程度、纏まったところでいったん生地を寝かせ、その間にスープ作りだ。
鶏ガラと野菜を茹でて出汁をとる。
アク取りをするので火の番をしながら、「時間かかるから各々好きに過ごして」と伝えるが、兄妹は此処に居たいと言う。
「醤油が何でこんなに高いかなぁ……」
マグカップ1杯分の瓶に入った醤油の値段は、今日の食材と同じくらいだ。
1.5リットル198円の特売品醤油を使ってた身としては、解せぬ思いだった。
「あまり馴染みのない調味料は売れないし、仕入れないから高いのだろうな、恐らく他国の輸入品だろう」
「なのかなぁ。醤油があっただけマシと思おう……」
寝かせたうどん生地を、次は袋に入れて踏む作業に移りたいが、ビニール袋やラップなどないので、広い調理台で手で押す事にした。
その工程はゼランローンズが代わってくれた。大きな手と恵まれすぎている体躯を駆使する為、中々いい感じに踏む作業の替わりになる。
生地が広がったら、月華が生地をたたみ、再び押してもらう。
「餃子の皮にしてもいいんだよなぁ、もちもちの皮の餃子になるし」
「ギョーザとは?」
「えーっと……ラビオリみたいなやつだけど、ちょっと違う食べ物」
「そちらも気になるな……」
「んじゃ生地を3分の1餃子に使おう」
ゼランローンズが押し終わった生地を、1対2に分け、両方、濡布巾に包んで再び寝かせる。
買った食材が届いたので、ちょうど良いと餃子の具を作る。
ひき肉とニラで、ニラまんじゅうの餡を作る。
とは言え10人前くらいの量を作っている。
ゼランローンズとアレクライトと月華が、かなり食べるのでうどんも10人前くらいある。どちらかというと、業務用のご飯作りに思えてしまう。
餡を作り終わったところで、スープも出来た。
休ませた生地に打ち粉をして、麺棒で伸ばし畳み、切っていく。麺ができたので、粉をつけて一旦バットに入れておく。
餃子の皮も丸く成形し、手早く餡を詰めていく。見る見るうちに、バットの中は生餃子で埋まっていく。
「わたしのオススメは、湯がきながら食べるスタイルだな。って言っても、火をかけ続けるとかは、携帯するかまどとかないだろうし、大鍋茹でたのを持っていくかたちになるのかな……」
「ふむ、それならば、俺が魔法をかけ続け、湯を沸騰させた状態を保てば問題ないか?」
「そんなことできるのか……?」
「うむ」
魔法についてよくわからないけど、使い続けて大丈夫なのか訊くと、そのくらいならばまったく問題ないとの答えが返ってきたので、10号土鍋くらいの両手鍋と、人数分の網おたまが部屋へ運ばれた。
うどんも茹で上がり、丼は無かったのでサラダボウルに盛り付け部屋に運ぶ。
うどん生地で作る餃子はとてもモチモチしてて好きです。焼いてもモチモチがあるから好き。




