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ボッタクリは値切るに限る。

「ツキカちゃん、お兄様! 歩くの早いですわ!!」


 リーナネメシアが小走りで、2人の後をついてくる。2人は振り返ってハッとした。2人とも背が高く、その分足も長い。リーナネメシアは150センチくらいの小柄な女性なのだ。歩幅が全然違うので、どんどん差ができていた。


「すまん、リーナ。お前がいるのを忘れてた」

「ひどいですの!」


 リーナネメシアは、月華の腕を取り自分の腕を絡ませる。月華も、彼女の歩調に合わせれてなかったことを詫びる。


「貴族のお嬢さんなのに、雪道歩けるんだな?」


 月華がふと質問をすると、リーナネメシアはにっこり笑って答える。


「これでも侍女の中堅、体力はありますの」

「貴族なのに侍女してて、いいものなのか?」

「城の貴族どもには、平民の侍女を嫌がる者もいてな。一定数貴族からも侍女を出さねば、うるさい連中もいるのだ。ここ数年は、聖女に仕える為の侍女を増やす為に、貴族から侍女を募っていた」

「腐った連中で溢れた城だな。仕事ができて、それなりの態度なら誰だっていいじゃないか……」


 自分はそれなりの態度じゃなく、荒っぽいから含まれないな、と思いながら身分社会ってめんどくさいと思った。


 そして食材屋で、今日使う物、明日作りたい物などなどを、食材を目の前にすると勝手に考えて、独り言をブツブツ言ってると、とても膨大な量になった。

 いかんいかん、とかぶりを振って顔を上げると、月華が呟いた食材が全て、ゼランローンズによって購入されていた。

 そして、支払いと配達の手続きまでも、終わっていた。


「ちょっと、ゼラ……」

「材料は此方持ちの約束だ」


 ニッコリ笑って月華の頭をポンポンと叩く。してやられた……という悔しい顔を一切隠さず、ジト目で見つめる事しかできなかった。

 リーナネメシアはクスクス笑って、2人のやりとりを眺めていたが、再び月華の腕を取り、店を出る。


「醤油が欲しいけどあるかな……。大豆や穀物類を発酵させた調味料なんだけど……」

「あ、それなら『ソラマメ屋』にあるかもしれないですの!」


 何だか馴染みのあるような名前のお店だ、知らない店だけど。と思いながら、リーナネメシアがソラマメ屋に案内してくれるので足を進める。

 大通りから2本くらい中に入った狭い道で、路地裏の小ぢんまりした店だ。月華1人だったら絶対に行かないところだろう。


 店に入ると、豆がひたすら置いてある。剥いた枝豆とか大豆、そら豆に小豆、ひたすら豆だ。甘納豆もある。

 小さなカウンターの中にいる壮年の店主が、チラリと一瞥し「らっしゃい」と呟く。無愛想だ。月華は、自分並みに無愛想なやつだと思った。


「醤油は置いてます?」


 単刀直入に訊くと、店主がカウンターから身を乗り出し目を見開いた。


「お前さん、醤油を使えるのか?!」

「調味料としてなら使いますが?」


 「醤油を使える」なんて、使用者を限定するアイテムのように言わないで欲しい。と思ったが、醤油は摂り過ぎれば、とんでもない事になるので、人によっては毒薬と思うだろう。

 店主は瓶を棚の奥から取り出して、月華に差し出した。


「ちと値は張るが醤油だ」

「色は醤油だな……」


 瓶を傾けると、端の方が茶色く伸びる。粘度が低そうなのでたまり醤油ではないようだ。

 蓋を開ける許可をもらい匂いを嗅ぐと、これまた馴染みのある醤油の匂いだ。蓋を閉めて頷いた。


「これを買おう」

「大銀貨5枚だよ」

「まけてくれ」

「直接すぎるわい! 少しは遠慮せんか!」

「どうせ売れないか罰ゲームの景品になって、店に苦情が来るだけだろ、わたしが調味料として有効活用するからまけてくれ」


 初めての店で、馴染みもない店主に値段交渉をする月華は逞しい、と兄妹は見入っていた。

 店主は首を横に振りたかったが、売れない物だ。棚の奥に入っていたのがその証拠。


「これがどのくらいの価値かわかってるのか!」

「わたしの故郷ではその5倍の量で、パン1つと同じ値段だったぞ」

「なっ?! わしぼったくられた?!」

「かもな?」


 最終的に大銀貨2枚まで値切った。60%オフだ。月華は淡々と弱い所を突いて、値切りきった。

 店主も仕入れた値段があるからと渋りに渋ったが、このまま月華が買わなければ売れなくて、そのうち経年でダメになるので、廃棄すなわち、仕入れ値丸々損をする。それなら不良在庫が安くても、引き取ってもらえれば丸々の損ではないだろう? と強引に値切った。

 ついでに甘納豆の小袋と豆茶を買った。

 支払いはゼランローンズがさっさと行なう。店の中で「お金を払う!」「いいやここは自分が!」とやるのは、店の迷惑になるのでやめておいた。本当は自分で払いたかったものの、月華は抗議するのを今はぐっと堪え店を出た。



 そしてブラブラとウィンドウショッピングをしてたいら、リーナネメシアは気に入ったものをポンポン買っていく。


 だが、その用品が掃除道具だったり、新商品の洗剤だったりと、所帯染みてる。

 メイドの仕事を、少しでも楽にするのに、新商品をバンバン試すという。


 浄化魔法を使えばさっさと終わるが、貴族も庶民も魔法を使いこなせる者は多くない。

 リーナネメシアは浄化魔法などお手の物レベルだが、魔法が使えない人は手作業だ。

 メイドの中で魔法が使いこなせるのは、リーナネメシアとアレクライトの姉である侍女頭だけである。

 なので、手作業の効率を上げる事が、メイドたちの課題らしい。


 買い物もあらかた終わったので、帰路に着こうとした時に、月華の前に男が立ち塞がっていた。

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