表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/839

趣味って時々すごい勢いになるよね。


「好きだけど、足りないわ……」

「え?」


 真顔になって足りないと言う。こんなにサボテンがあるのに何が足りないのか、と思いながらアレクライトはこ首を傾げる。


「テラリウムを作りたくなったのよ 」

「テラリウム?」


 テラリウムはここにないのか、アレクライトに興味がないのか通じなかった。語りたくなったので、場所を移動した。


 開店してから時間が経ってないのか、客が少なめの喫茶店でテラリウムについて説明した。

 向こうにいた時の趣味で、たまに熱が上がり、作りたくなるものだった。


 穴の開いたガラスなどの透明な器に、石と土を敷いて多肉植物をちょっとずつ挿していくもので、バランスよく飾りつける。出来上がったものはインテリアとしても使えるもので、作りっぱなしにはならないし、会社のデスクにも飾っていた。


「……それ、ニール君に相談してみたら? もしかしたら仕事になるかもよ?」


 本当のところアレクライトは、相談しろと言う言葉は掛けたくなかった。女性に仕事をさせるのは恥という感覚があるので、仕事をさせるような真似はしたくなかった。

 自分の恋人でもないのに、そんな気分になるのは既に彼は楓に囚われてるから、なんとしても添い遂げる存在になりたいと、気持ちが逸ってる。

 だが、ゼランローンズと話をして、仕事面では男性と同じように接する方が彼女たちにとって、侮辱にならないであろうと言われて、そう接するよう試みる。


「……! どうかしら……でもやってみたら案外行けちゃうかもしれないわね! なら、材料買って実物をディジーに見てもらおうかしら……!」

「じゃあ、ガラス工房にまず行こうか、ここから乗合馬車で10分くらいのところにあるよ」


 パッと明るくなる顔に安堵してしまう。やはりゼランローンズの読みは当たっていたようで、少々悲しい気分になってしまうが、彼女の笑顔のために、この街にある店を回ろうと、記憶を総動員させた。


「ごめんなさい、何だか巻き込んじゃって……」

「いいのいいの、テラリウムっての気になるし!」

「じゃあアレクも一緒に作りましょ!」

「わかった、楽しみだ」


 可愛らしい雑貨屋の後に喫茶店で一休み。

 デートっぽいけど、中身がなんか違う気がする……と各々が心の中で独り言つが、デートだと言い聞かせて席を立ち乗合馬車の停留所へ行く。


 のんびり趣味のために出掛けるなど、半年以上していなかった楓は、とてもわくわくしてた。自然と口は弧を描き、周りの景色も明るく楽しいものに見えてくる。



 それから10分後、馬車を降りる。ガラス工房併設のお店で、ガラス製品を眺める2人。

 小さな瓶から、大きなビーカーのような物まで、様々な物が置いてある。

 その中で、楓は両手で底が包めるくらいの、下膨れ度合いが大きめな雫型のガラスを手に取った。隣で見ていたアレクライトは、瓶に加工するための素材である事を教えてくれる。


「これに穴が空いてたらカンペキだったのに…」

「おう? 嬢ちゃん、穴あけ加工をする為の商品だぜ? そりゃ」


 楓の後ろから、屈強な体躯の男が声をかけてきた。

 ガラス工房の職人さんだと思われる。オーバーオールのつなぎに、冬なのに日焼けした肌と半袖のシャツ。どう見ても売り子さんではない。


 楓は振り向いて、職人へ瓶をだして、ここにこのくらいの穴が欲しい、と下膨れ部分に丸を描く。

 職人は驚いたのか、目と口を限界まで開いてるような表情だ。

 瓶として使うには、あまりにもおかしい位置に穴が欲しいと言うのだから当然だろう。


 だが、客の要望だ、応えよう! とニカッと笑う。

 他にも、球に近い物を手に取り、正面やや上に穴を頼んだ。立方体の天板部分が開けてる物なども購入。

 箱に綿を詰めて梱包してくれた。


 雪道に慣れてない楓が持つのは危ないと、アレクライトが荷物を持ってくれる。

 確かに転んでしまったら、せっかくのテラリウムが作れなくなるので遠慮なく甘えておいた。


 そして、園芸用品店へ行き、小石を買い、小鉢の多肉植物を7種ほど買って、中々の荷物になったので帰る事にした。


 雑貨屋で見た多肉植物より、種類が多くてあれもこれもと買ってしまいそうだった。

 選択肢の分母が広がるのは、目と財布に毒だ。選べなかった物への後悔をしそうだったが、吟味して選んだ植物たちを飾りつけて、目一杯楽しんで愛でよう。と決意し帰路に着く。


 部屋へ戻り、メイドさんから、クタクタになった雑巾になるような余っているシーツをもらって、テーブルに広げ買ってきたものを並べる。

 アレクライトに説明しながら、テラリウムを作っていく。


「小石を敷いたら、土をかぶせて、更に小石を敷いて、多肉植物を切って挿す。が基本なのよ。自分の好きな見た目になるように、飾るだけよ」


 雑な説明だが、それ以上説明のしようが、楓にはなかった。習い事の教室に通ったわけでもなく、ネットで何かを調べてるうちに、脱線して見つけた多肉植物テラリウム。

 作り方のページだったので、そのまま読みふけり、ネットでキットを買って作るようになる。気づけば、バラで各材料を買うようになってのめり込んだ。


 ガラスの中の小さな世界は、楓の心を癒す効果があった。

 小さな癒しの世界を再び作れる事に喜びを感じ、指を進めるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ