犯人みーつけた。
爽やかな朝。
ここは、ティア商会オーナーである、ディジニールの屋敷。その小ホールに、鈍い音が響き渡っていた。
バシッ ドッ ガッ ザザッ ダンッ
アレクライトと月華が組み手を行なっている。それで発生している音だ。
ゼランローンズに基本を教えてもらい、アレクライトで実践をする。
アレクライトは力より、技で相手を翻弄するタイプだ。
とはいえ、元騎士団長。基礎体力も技術も、他者の追随を許さない勢いで彼は強い。
そんな彼の切り返しを、目で追い、体で覚え『護身術』を覚えていく月華。
「ちょっ……休憩! マジで……待った……」
「あと1戦!」
幾度となく月華は転がされる。
だがその回数も減ってきた。短時間で確実に技術を上げてる。その動きに、ゼランローンズは満足そうにうんうんと頷いてる。
かれこれ1時間は動きっぱなしだ。
「ツキカ……マジで待って……『護身術』レベルを……超えてるから……」
「何を言ってるんだ?自分の身を守れるって、誰にも負けないって意味だろ? こんなのまだまだだ!」
「いい加減にしろ、ガチ脳筋!!」
もうアレクライトから月華に対して、丁寧な言葉遣いも敬称も消えてる。ホールの扉が開き、ディジニールが、朝食の準備ができたと呼びにきた。
彼が来る前にメイドが幾度か呼びにきたが、あとちょっと、と追い返していた。痺れを切らしたディジニールが乗り込んできた形になる。
「ちょっとぉ! 朝から女の子に乱暴してないで、さっさとご飯食べるのよっ!!」
「ニール君! 乱暴に扱われてるの、オレだからね?!」
理不尽に怒られながら、アレクライトは浄化魔法をかけて、自分と月華の汗を払った。月華は護身術の指導と浄化に対して礼を述べる。
ゼランローンズは、月華は教え甲斐があると上機嫌だ。
食堂に入ると楓が待っていた。
楓の隣には楓より背が小さい女が、楓にピッタリとくっついて座ってる。
「リーナネメシアか?」
楓から少し見える人影に、ゼランローンズが声をかける。
人影はひょこっと顔を出して、ニッコリと笑って挨拶をする。
「おはようございます、ゼラン兄様。お久しぶりです、アレクライト様。えっと……」
「あぁ、彼女はツキカだ」
女性は立ち上がりドレスを摘み、お辞儀を行ない月華に挨拶を返す。
「初めまして、ツキカ様。ゼランローンズとディジニールの妹にあたります、リーナネメシア・シェリッティアと申します。以後よろしくお願い申し上げます」
「ご丁寧にどうも、丁寧な言葉遣いや敬称は不要ですので気軽にお呼び下さい」
「わかったわ、ツキカちゃんもリーナって呼んで欲しいですの!」
砕けるのが早いのはおネェの影響だろう。人懐っこく笑う妹は、立っていた人たちを席へ促して食事となる。
脳筋、おネェと続いたので、次の隠し玉をちょっと期待してみたが普通だったので、少し肩透かしを月華はくらう。
「なんなんですの、あのクッソわがままな小娘は!! どういう躾を受けたらあそこまで、のさばれるわけ?!」
リーナネメシアは、不運にも聖女の専属侍女となってしまい、ここ数日わがまま放題されていたそうで頭にきていた。専属侍女は数人いるので、今日はお休みの日。
ディジニールに朝から愚痴を吐き出しにきた。
やっぱり不満が噴き出るかー、と楓と月華は遠い目をした。
「傾国の聖女再び、となりそうか?」
「かもねー? あのクソ王も昨日から寝込んでるし、ボンクラがやりたい放題になりつつあるわー」
「ん? 王が寝込んでおる?」
もはやボンクラは共通語。
リーナネメシアは優雅に食べ進めつつも、兄の問いかけにきちんと言葉を返し、城の情報を教えてくれる。
「ええ、昨日の朝から具合悪くなって、夕方に意識が無くなったんですってー」
「「あいつか!!!」」
ゼランローンズとアレクライトが同時に叫んだ。
リーナネメシアは目を白黒させて、首をコテンと傾げる。
「ツキカとカエデさんに呪いをかけた奴がいて、今日探しに行こうと思ってたんだ」
「ぬゎんですって?! 初耳なんだけど!! カエデを魔術療養士のとこに診せに行くって、呪いを受けたからって事?!」
アレクライトが、今日の予定の仔細を伝えるが、その予定を実行する必要はなくなりそうだ。
初耳な文言に、おネェは目を見開いて食いついた。
「塩をかけたら呪いが消えたんだがな。昨日の夕方に」
「………!」
王が意識不明になったの時間と、楓の呪いが消えた時間が一緒……という事を結びつけて、合点が行く。
ゼランローンズは、自分も一部はよくわかっていないが、と前置きをした上で、念の為、事実の一部を隠して、残りの事実を伝える。
「…はぁ? あのクソ王、カエデちゃんに呪いかけたっていうの?! マジ放送禁止用語してこようか?」
リーナネメシアが、貴族令嬢に似つかわしくない、不穏な言葉を発する。楓は、気持ちだけを受け取ってお礼を言う。
「カエデちゃんってば謙虚ー! あれ? 同じ稀人のツキカちゃんだって、呪いを受けたんじゃないの?」
「ツキカに呪いは効かなかった。その時点で王に呪術は返ったのだろう、それが昨日の朝だったと思われる」
「ツキカに呪いが効いてないって、何で言い切れるのよ! ツキカも魔法療養士にお見せなさい!」
「ツキカは王より強いのだろう。呪術の痕跡もなかった」
「あぁ、なるほどね……ツキカなら納得だわ……」
「ツキカちゃんカッコイイ!」
兄妹で会話が進む。
元から鍛えていたのと、元騎士の指導を受けて、実践して更に体を鍛えている彼女は、彼らの周りから見ても、とても強い人に分類されるそうだ。
その会話に入ると月華の治癒能力などを隠している点などもあるのはわかって、下手に口を開けばボロが出そうなので、月華と楓は黙々と食事を続ける。




