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野郎の恋バナって花咲かないよね。


「アレクはどんどんカエデ嬢にのめり込んでるようだな?」


 ワイン片手にクマ兄さんが絡んでくる。アレクライトも負けじと言葉を返す。


「ドストライクな子なんだよ? そりゃ意識するって! そういうお前だってツキカさんにゾッコンだろ。今日なんて、女性物の服着てオシャレしてたの見て、しきりに可愛い可愛いって言ってたじゃないか?」

「こ、声に出しとらんわ!」


 普段から親しい間柄の者たちが、酒を入れるといつもより突っ込んだ話題になりやすい。

 探るような言葉ではなく、直球がポンポン飛び交う。


「出てたねー。バッチリ出てたよー。しっかし、お互い異世界人に惚れちゃうなんてねー。ボンクラの事とやかく言えないかなー?」

「……んむ。だが、成人女性でありながら、此方の女性とは結婚観が違うようで、男に媚びることも迫る事もしない。稀有な女性たちだな」


 ワイン片手に、つまみのジャーキーのような肉にかじりつき、男たちの夜も恋バナである。


「保護って名目掲げて、手っ取り早く、身分が要るから婚約しましょうって言っちゃえば、よかったんじゃないのー? バカねー」


 ディジニールも恋話会に参加中である。アレクライトはブンブン首を振って否定する。

 そんな騙し討ちしてはいけない、誠実でありたい。もともとの真面目さは、異世界人相手でも発揮している。


「えー? あのボンクラなんて、容姿の良さで聖女に迫った後、媚薬を使ったって話よー?」

「び……やく……?!」


 聖女召喚の儀を行う為に神殿へ向かう道中、薬師がいる町で媚薬を作らせたという情報をディジニールは持っていた。

 顔が広い彼は情報屋としても優秀である。貴族でありながら、驕った商売をしない点も評価が高く、情報は集まりやすい。

 これもすべて、聖女や巻き込まれた人が現れた時に、役立つように幼少の頃より才を磨きあげた結果だ。


「そういうニール君はどうなの? どうみてもあの2人への肩入れ凄いんだけど?」

「アタシはあの2人の姉役として、親友として、共にありたいわ〜。難攻不落っぽい女の子たちだから頑張んなさいよ、特にツキカね」

「ツキカが? 何かあるのか?」


 本人のいないところで、問題児扱いな月華。

 ゼランローンズは、何が問題なのか判っていなかった。

 弟の謎の情報網に、何か引っ掛かったのだろうかと不安になったが、すぐに来て3日足らずの人にそんな問題など湧くはずがないだろう、と口にする。

 全然別物よ! と弟は憤慨する。

 割と頭の中が、筋トレと真面目成分で構成されているゼランローズは、少々恋愛ごとに疎い。


「あの子、絶対に恋だの愛だの遠ざけてる以前に、それを感じ取ることがなかった子よ……! 難攻不落どころじゃないわ……」

「だろうねぇ。男と女じゃなくて、人間と人間の接しかただもん、あれ」

「人間のはずなのにクマって呼ばれてるわよねー! アンタは金髪兄さんだしー!」


 ケラケラと笑われてしまう。本人は誰かの顔と名前を覚えるのは、時間がかかると言っていた。


「まぁ、俺たちが幾ら惚れていようとも、本人にその気が無く、別の誰かを好いたとしたら全力で(おう)え……」

「バカなの?!!」


 異世界人第一主義が顔を出したところで、ディジニールが怒鳴りつける。


「今まで、騎士や貴族の肩書きに釣られた、アホみたいな女しか寄って来なかったけど、律儀に相手して断られてを繰り返してきたじゃない、2人とも……。貴族のめんどくさいしがらみとか、打算とか全く関係なしの相手に惚れたなら、もっと頑張りなさいよ!」


 異世界人が大事だけど、兄や友だって大事なんだ。と力無く呟く。そんな彼の頭を兄の大きな手が包む。友の剣だこができたゴツい手が肩に乗る。


「ありがとな、ニール」

「ありがとう、ニール君」


 ため息混じりに浮かんだ涙をサッと拭って、唇に弧を描き引き上げる。


「んじゃ、作戦会議よー!」


 そこらの令嬢なら簡単に陥落するプレゼント作戦は、絶対に効かない。あの2人は拒否や恐縮をして距離を置くだろう。

 時間をかけてゆっくり、お友達から始めるのが、堅実で誠実に思えてくる。


「ゼラちゃんはツキカと過ごしたければ、筋トレに誘えばいいんじゃない?」

「そうだね、ツキカさんは断らないだろうね」

「だが、それではただの筋トレ仲間で終わるのでは?」

「「終わる以前に始まらない」」

「……………」


 酒が進めど、酒に強い3人は、テンションがちょっと上がるだけで、悪酔はせず今後のことを考える。


「実家で聖女の資料を見てもらった後、嫌な思いをした王都に戻してもいいものだろうか……」

「そこだよねー。でも仕事したいなら王都が1番便利だよね」

「一先ずウチの店で働いてもらうってのが、安心しそうよね? 今日話をしてて、あの2人も教育水準の高いところから来てるっぽいのを感じたわ」


 ちょっと抜けているところがあるけれど、話をしていて良識が異なるわけではなさそうなため、人として問題はないとディジニールは判断する。


「たしか記録によると、同じような板を持ってる人と、遠距離で文字のやりとりをしたり、お喋りを楽しんだとか? 小さな板で様々なゲームができたとか……だったよね」


 教育水準の高い異世界人は、こぞって光る板を持っていたと記録にあった事をアレクライトは思い出す。


「ゲームというのはチェスとかなのだろうか」

「チェスだけじゃなく、その板で物語も読めると書かれてあったわ。全然想像つかないけど……」

「2人に訊ねるのが1番理解が早い気がするね……」


 楓の体が万全の状態になったら、2人の希望を聞いてから、シェリッティア家へ向かう、という事にした。


 アレクライトの家にある、代々聖女たちに関わった記録はアレクライトが全部記憶してるので、彼がついていけば問題ないので、スヴァルニー家は後回しだ。


 と結論が出たところで、各々の部屋に戻り眠りについた。

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