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干物女と孤女

きつね女に見えるけど、ネットスラングの「こじょ」です。

喪女と迷ったけど孤女の方がそれっぽかったので。


 月華の部屋として、用意してもらった部屋のベッドは、ダブルより大きく、2人で寝ても余裕がある大きさなので、楓の新しい部屋の用意は断った。


「何かゴメンね? 部屋に押し掛けた感じになっちゃって……」

「ん? いいんじゃね? 掃除してもらったとしても"出た"部屋に居たくないだろう? 塩で退治できたんだから、あの煙はやっぱ"アレ"なんだろうし……」


 夏の怪談ではなく、異世界の怪談になってしまった部屋は、やはり使いたくない。月華はそう考えているし、楓も同じ気分のようだ。


 風呂も済ませたし、あとは眠るだけ。

 ディジニールお手製パジャマを着て、布団に潜り込む。

 楓は自分が寝込んでいる間に、月華とゼランローンズの進展具合が気になったのでやんわり聞いてみるが、恋愛が頭の辞書にない彼女には、まったく伝わらなかった。


「だーかーらー、ゼランローンズさんと、恋人になったとかそういう感じの事を、訊いてるのよー」

「何で? クマ兄さんとわたしが恋人に? そんな悪趣味なひとじゃないだろ?」

「悪趣味?! 月華は美人だし、スタイルいいし、ゼランローンズさんと気が合いそうだしお似合いだって思ったのよー。何かと彼は月華の事、気に掛けてくれてるじゃない?」

「兄さんがたの家の連中は、無条件で尽くしたがるって言ってたじゃないか。それを恋人と結びつけるのは変じゃないか?」


 直球で訊かないと、返ってこない恋バナは少々物足りない。遠回しに訊いて、自爆してくれるような甘い話を聞きたい楓は、モヤモヤ感を持ちながらも、ゼランローンズの事を好きになってないか探りを入れる。


 楓から見ると、ゼランローンズは月華が好きなはずだ。異世界人として大事にしてくれるのは、自分にも変わらないが、月華を見る彼の視線は、とても甘く、優しいものなのだ。

 そう見えるので応援したくなる。



 そんな楓は干物女。

 かつては恋人もいたし、恋も幾度となく、した経験だってある。だが今は、そんなことから遠ざかっている。

 恋人がいたにも関わらず、自分の事は自分で。出来ない事があれば調べるし、解決する努力は人一倍欠かさない。

 可愛げのない女と振られた事だって、1度や2度じゃない。

 楓は自分でやる、頼らない事に固執していた。


 そしてこの度、仕事のデスマーチで忙しかっただけなのに、見事に浮気を疑われて、恋人関係を破棄したことで、しばらくは、恋人など要らないものとなってしまった。



 一方月華は喪女……いや孤女(孤独女)に分類されそうだ。

 人に頼る事、甘える事を知らずに、出来ずに、育ってしまった彼女は、彼氏を作る発想自体が無かった。

 月華は、イマイチ他人との距離の掴み方が判ってないので、全ての人に壁1枚は挟み込む。

 表面上は気を許しているかのような発言をしたりするが、心の奥底は誰にも見せない。自分に対しても壁1枚は絶対に入れてある。なので、心の奥底の本音は絶対に引き出さない。



――他人には頼らない


 2人とも10代の思春期に、その考えを固定してしまった。

 この世界への召喚に巻き込まれてきてしまったが、自力で生きなければ……という思考が常に付き纏う。


 各々で、自分は面倒くさい人間だ、と考えていた。



 楓が、自分とゼランローンズを結びつけたいのだな? 何となく察したところで、月華は反撃に出る。


「楓こそ、金髪兄さんに惚れてるんじゃないのか? あの人が笑いかけると、耳まで赤くして照れてるじゃん?」

「なっ……ちがっ……アレはその、見たこともないレベルのイケメンだから、耐性がなくって……!」

「耐性……え? 笑顔って防御しないといけない??」


 人付き合いの下手くそな月華は、言葉を察することが苦手だ。まんまを受け止めるので、頓珍漢な答えを返すことが多々ある。


「ちっがーう! 綺麗なものを見て、感動を超える現象よ!」

「んー、よくわかんねぇけど、楓は金髪兄さんに惚れてるってことか」

「そ、そんな……私なんか釣り合わないわよ……。平々凡々の日本人顔だし……。過去に付き合った人からも、可愛げがないって振られてるし……」


 黒髪ロングな清楚系女子と思われて、付き合いを進めるうちに"なんか違う"と振られることが大半だった。

 最近起きた破局は、仕事の忙しさを疑われて振られる前に振った。月華はそれらを訊いて納得した。


「あー、なるほどなぁ? 男って甘えてくる、頼ってくる女に弱いからなぁ。よく職場で"女はちょっと抜けてるくらいが丁度いい"とか、上から目線で理想を語るオッサンいたもんなぁ」

「うっわ、それすごくムカつくわね! 女を下に見てマウント取りたいのかしら……」

「多分なー。自分の仕事っぷりを棚の上に置き去りにして"女が俺より稼げるわけがない!"とか言ってたし」


 一応、全員がそうというわけではない事も、月華は加えて言う。だが、声を大にしての言葉は印象に残りやすい。


「ちなみに、月華の稼ぎは、その棚の上男と比べるとどうだった?」

「わたしは現場と内勤やってたから、そいつの1.5倍は稼いでた」

「すごいわねぇ……と、言っても、私も元彼の1.5倍くらいは手取りで稼げてたから、似たようなもんね」


 頑張れば稼げる環境だった2人は、ますます甘える女から遠ざかっていたようだ。

 職種が異なり、環境も違っていた2人だが、何処となく合う価値観にお互い安心が湧いてくる。

 早くこっちに馴染んで稼ぎたいね、と締めて眠りについた。

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