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脳筋も時には大事?


 んー? と首を傾げつつ、月華は楓に声を掛ける。


「楓もできるんじゃね? 手を上に向けて雪の結晶の形の氷をイメージしてみるとか。ゲームのエフェクトみたいにさ?」

「まっさかー」


 それでも笑いながらゲームで見た、雪の結晶のエフェクトを思い浮かべた。

 すると楓の手の周りに、雪の結晶のエフェクトが浮かび上がる。

 アレクライトとゼランローンズは、目を丸くして、口がポカンと開いてた。


 月華は、自分に治癒が使えるなら、楓にも何か使えるものがあるのでは、と思って根拠もなくテキトーにいってみた。

 それが当たったようで、彼女自身も若干ビックリしていた。表情は変わっていないが。


「月華……これ、ほんとにエフェクトだわ……。温度とか感じないし、SF映画のホログラムみたいにすり抜ける。プロジェクションマッピングみたい……」


 結晶を出していない手の人差し指で突いたり、扇いだりしてみるが、スルッとすり抜ける。

 なら、花が咲く様子をイメージしてみたら? と月華は自分が思い当たる、エフェクト的なものを口にする。

 今度はぶわぁっと部屋一面に、桜の花びらが舞い散る。勿論これらも触れない。


「……これどうすんのよ」


 エフェクトを出すだけの、謎スキルを手に入れた。


 ゲームステータスの画面のような、確認できるウィンドウが出るわけでもないので、自分の能力がわからない。


 とりあえず、害は無いが念のため、人前では出さないようにして下さい、とアレクライトに言われた。

 訳の分からない現象が起こり、なんとも言えない気持ちになっていたが、アレクライトは咳払いをして口を開く。


「だいぶ脱線しましたが、呪術をカエデ嬢が受けた事については、こちらで調べておきます」

「今頃、術者に呪いが返っていたりしてな。『人を呪わば穴二つ』だ」


 月華はしれっと恐ろしい事を言う。

 だが、楓もうんうんと頷いている。勝手に呪術を掛けられたのだから、しっぺ返しくらい、受けていてほしいものだ。


「流石に『右の頬を叩かれたら左の頬を差し出せ』精神は持ってないから、相応の罰を受けていてほしいわよ」

「先程から、よくわからない言い回しをされているが、何なのだ?」


 ゼランローンズは、月華や楓から飛び出す、諺や聖書の言葉に、疑問符ばかり浮いている。

 翻訳チートは向こう独特の言葉には働かないようで、通じない。

 楓はどちらの言葉も噛み砕いて説明する。


 宗教のものや、昔から伝わる言い回しなので、直訳すると意味がよくわからないものになる。

 それは何処の世界にも、あるものらしい。


 食事は部屋で取ることになったので、ローテーブルと座椅子という馴染みのあるスタイルで食事ができる。

 とは言っても、日本で使用していたローテーブルは1人用のコタツテーブルなので、大きさはまるで違う。

 どちらかといえば旅館でご飯を食べる気分だ。

 だが、靴を脱いでご飯が食べれる馴染みのスタイルは、とても落ち着ける。


「……お米?」

「インディカ米っぽいが、米だな」


 目の前にはパエリアがある。巨大なプリプリのエビ? が乗っていて、魚介の香ばしい匂いも食欲をそそる。

 他にもローストチキンや、色とりどりのサラダ。


「ここに来て、食事の水準が上がってるわ……確実に」

「だな。こんな贅沢は身に合わない……」


 今まで、食事は主食と副菜だけが多かった。

 面倒な時は、コンビニやお弁当屋で買うが、バランスなど考えていない。考えたら食費が一気に跳ね上がる。

 楓と月華は貧乏だったわけではないが、食い道楽ではなかったので、適当な食事で済ませていた。


 豪勢な食事を終えて、明日の予定を確認しあう。

 呪いのかかった体に後遺症がないか、明日魔術療養士に調べてもらう事になる。


「でも、何故カエデさんだけ呪いにかかったんでしょうね……1人きりで行動していらっしゃらないし……」


 楓も嬢呼びをやめてもらった。

 アレクライトは眉間にシワを寄せて考え込む。


 異世界人を狙うなら、楓と月華の2人を狙うはずだ。

 楓と月華もその事は理解できる。

 異世界人を狙いたいなら、片方だけにかけても意味がないだろう。知り合いがほぼ居ない状態の彼女たちは、単体で狙われる理由がない。


 ゼランローンズはコメカミに指を当て、記憶を探り、思い浮かんだ項目を述べる。


「呪術は基本、己より弱い者にしか掛けられない。だいたいの基準は、魔力の弱いものが掛かりやすい。掛けてから12時間から24時間後に、術が定着して発動する。とは言え、呪術を使えるものは、殆ど王宮で保護して魔術士となるので、犯人は絞られる」

「あぁ、そういう事なんだね」


 その記憶を呼び起こし、声に出した事で、ゼランローンズとアレクライトは、納得の表情を浮かべた。


「あの場にいた魔術士と王族が容疑者……ってわけね」

「それならわたしだって呪術に掛かるんじゃ?」

「「それはない」」


 犯人候補を絞り、楓はむぅっと呻りながら考える。

 呪いの対象は、楓だけでは無いだろうと考える月華は、自分がかかってない事を、不思議に思っていたが、月華に呪いがかかる事はない、と男たちに強く否定された。


「ツキカだと、あの場にいた魔術士くらい簡単に倒せるだろう?」

「……人を何だと思ってるんだ。平和に暮らしてきた一般人だぞ?」


 ニコリと笑いながらゼランローンズに言われて、月華は眉を捻り言葉を返す。

 そしてアレクライトは月華へ質問する。


「ツキカさん……『右の頬を叩かれたら』?」

「左ストレートをぶち込んで、右フック」

「それ、実際に神殿でやってたわよね……?」


 月華に呪いが効かないのは、相手との力量の差という事らしい。魔力だけではなく、体力や腕力、精神力など、総合的なもので呪いが掛かるかどうかが決まる。


 なので、月華は魔術士のような、腕力も、体力もない、もやしっ子に負ける理由はない。

 もやしっ子といえども、王宮勤めなので、それなりには鍛えてるため、一般の成人女性では敵わない。


 月華は、通常に当て嵌まらないから、呪いを受けなかった。楓は、極々普通の一般人にカテゴライズされるので、呪いに掛かった。そういう結論に至った。


「鍛えていれば、呪いは掛からないって事かしら……?」

「カエデさんはどうかそのままでいてください……お願いします……」


 これ以上脳筋はいらない、という副音声が聞こえた気がする。


 難しい話をしながらも、食事を終えた。

 ゆっくり休むよう言われながら、アレクライトとゼランローンズは部屋を出た。

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― 新着の感想 ―
どうかそのままでいてください…切実な願いだ… 月華さんが順応力高すぎるんだなあ^^; うらやましい
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