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ガチムチは顔も鍛えてる?


 背にクッションを入れて、背もたれをつくって、起き上がった状態ながらも、ベッドに押し込まれた楓は、そのスタイルで話を聞く。

 楓が寝てた時に起こった事と、楓の身に掛かった呪いについて。


 まず、月華について。

 癒しの効果があるマッサージの話だ。


 言われてみて、楓は自分が筋肉痛じゃない事に気づく。

 乗馬での筋肉痛なんて想像がつかないから、気にして無かったのだ。

 なので、筋肉痛が起きてない事にすら疑問を持たなかった。


「月華のマッサージはホント気持ちいいし、蕩けるから回復してても不思議じゃないわ〜」

「あぁ、アレは別格だ……」 

「最初にしてもらった痛いやつじゃなかったから、すごくびっくりしたよ……。あっちでも、だいぶ体軽くなったけどね」

「自分でやっていても、みんなが言う蕩ける気分にならないんだが……」


 マッサージの癒し効果は、受けた人が回復効果を実感してるので、間違いなく治癒だと、しっかり納得した。

 そして王族だけではなく、保護者たちの家にも一旦秘匿する。


 次は、楓が受けた呪いについてだ。

 アレクライトが、背中を覗き込んで見たものは、本で見た事がある、呪いの紋様だったと言う。


「呪いってジワジワ蝕んで、なぶり殺す、みたいイメージなんだけど……。あれ、ホントに高熱の風邪みたいだったわよ? ちょっと節々痛くなった感じの」


 呪いと聞いて、楓はホラー映画を思い浮かべる。

 呪いにかかった人は、手足がジワジワと色が変わり、自分や周りが怖がって、孤立して、次第に人格が壊れていく……そんな映画を見たような気がした。


「ほら、高熱が出てジワジワと……」

「え?! 地味じゃない?!」


 月華が楓の想像と合っているぞと言ってくれるが、本当に地味すぎて、楓は思わずツッコミを入れてしまう。 

 アレクライトは、月華が楓に触れた時、光って、そのあとに呪いが吹き出した事を思い出し、月華に何をしたのか訊いてみる。


「ん? あぁ、楓に触れた時『治れ』って思ったんだけど?」


 具合の悪い人に「よくなってね」と、撫でるやつだ。

 アレクライトとゼランローンズは、目を見開いて固まった。

 そして2人でブツブツ呟きだした。大柄の男たちがブツブツ呟く姿は中々こわい。


 そして、アレクライトが、コインを財布から取り出して、弾いた。クルクルと上がるコインが手の甲に着地する前に反対の手でコインを覆う。表か裏かと、ゼランローンズに問う。裏と彼が答え、手を離すと表が見えたところで、間髪入れずアレクライトの拳がゼランローンズの頬をとらえる。


「きゃあぁ!! 何してんのよ!!!」


 楓は衝撃的な光景に、丁寧に話していた言葉など吹き飛び、叱りつける。

 月華はその様子を動揺する事なく、ただじっと見てたが、口を開いた。


「金髪兄さん、手大丈夫?」

「ちょっ、月華! ゼランローンズさんが殴られたのよ?! そっちを心配しなさいよ!!」


 少しだけ頬が赤くなったゼランローンズと、殴った時の衝撃が手首まで達して、めちゃくちゃ顔を歪めてるアレクライトが見える。


「何で、オレの方が、痛いの? おかしい……」

「拳の握りが甘いし、腕力が落ちてるぞ?」


 脳筋は顔まで鍛えてるの? とアレクライトが半泣きになりながら手首をさする。

 楓は月華を見て、疑問を口にする。


「これは治してみろ? てことかしら?」

「治らなくても怒るなよ?」


 結局、新しい怪我を作って、治せるかを実験するカタチになっていた。

 月華は、ゼランローンズの頬に痛かったらごめん、と言いながらそっと触れた。


 手が離れた時、赤くなってた頬は元の肌の色になっていた。だが、アレクライトの手首に触れても何も起こらなかった。

 何故? と楓とゼランローンズが首を傾げてると、アレクライトが眉間にシワを寄せながら口を開く。


「ツキカさん……もしかして、オレの鍛え方が足りないから、この怪我は自業自得って思っていません?」

「…………………いや?」


 ものすごく、空いた間と、逸らされた月華の目が、全てを物語っていた。

 楓は感心したように、アレクライトに声を掛ける。


「アレクライトさん、何でわかったんですか?」

「ツキカさん、ゼラに劣らず脳筋ですからね……何となくわかるんですよ、脳筋の思考……」


 ジトっと目を据わらせて、脳筋と呼ぶ2人を交互に見る。

 アレクライトと月華は、数日の付き合いだが、アレクライトとゼランローンズは、25年以上の付き合いだ。

 脳筋の思考は嫌でもわかる。

 月華は観念したように、アレクライトの手首に手をかざす。


「治って丈夫にな〜る、治って丈夫にな〜る、ガチムチにな〜〜〜る」 


 何か余計なワードも入っていた気もするが、腫れだしていた彼の手首は、通常の太さに戻っていた。

 治ったようだ。だが彼の顔は晴れない。

 晴れないどころか、こめかみや目元がピクピクと痙攣するかのように動き、唇も引き攣っている。


「捻挫が一瞬で治った……!」

「んーむ、やはり魔力は見えない……」

「クマ兄さん魔力にこだわるね」

「魔力を感じれる、ゼラの家系が特別で、オレだってそんなのわからないからね?」

「ゼランローンズさんのお家は、魔法に詳しいんですか?」

「ゼラの家は魔導師系が多くて、複数属性が使えるし、魔力の動きを感じ取れる『魔法特化家系』って感じですよ」 

「「まほう とっか かけい……」」


 どうみても、屈強な戦士のゼランローンズは、王宮の魔道士なんて、足元にも及ばないレベルだそう。


 魔法のエキスパートな人って、もっとナヨナヨしてそうなのに、解せぬ。と、楓と月華は心の中で呟いていた。

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