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お化け退治(物理)


 日も沈みきり、辺りにはとっぷりと闇が満ちる。

 ほんの少しだけ丸みが欠けた月が、満ちる闇を止めるように輝いてる。


 1つは地球にあった月と同じような色。もう1つは少しだけ、赤らんでいる。

 双子だと言われてるが、構成成分が違うようだ。

 そんな月明かりがふんわり入る部屋で、月華は人工の灯りをつけずに椅子に座り、体調を崩した楓に触れてみる。

 楓の額は熱い。なので、触れた手は冷たく感じただろう。少しだけ身動ぎをし、彼女の瞳が開く。


「……月華?」


 プラチナブロンドの髪が、月明かりを浴びて輝いてるように見える。

 後ろにアレクライトとゼランローンズもいる。

 見慣れたみんながいて安心したのか、楓の顔はふにゃっと緩んで笑う。


「熱つらいか?」

「少しだけ。関節が痛いほど熱出るの、久しぶり」

「痛いならさすっておこうか?」


 布団から出ていた肘に、月華はそっと手を置いて優しく撫でる。


———早く治れよ? 元気になれよ?


 月華は心の中で呟くと、手が急に光だして楓を包み込んだ。

 そして、その光が楓へ吸い込まれた後、パァンと音を立てて弾け、衝撃波が起こった。

 衝撃波に吹き飛ばされた月華だったが、後ろにゼランローンズが構えていたので、壁に激突せずに済んだ。

 アレクライトもその場で踏ん張り、衝撃に耐えた。


「な? な、な?! な、な???」


 いきなり出た光と、自分から出た何かに、楓は起き上がり辺りを見回して、目を白黒させる。

 だが、誰も何が起こったのか分からずにいる。

 ゼランローンズが、一先ず部屋の明かりを灯す。

 アレクライトが楓に近づいて、どこか痛い所はないか? とそっと触れる。


「ん? 楓の背中から煙り出てないか?」


 月華が楓の後方を凝視すると、全員で見る。

 黒い煙が、服の間から、ぽ、ぽ、ぽ、ぽ、ぽっ、と出ている。


「え? 煙??」

「失礼!」


 アレクライトは、楓の後頭部へ手を回し、彼女を自分の肩につけるように、引き寄せる。

 空いてる手で、首の後ろ部分の服を引っ張ると、ボワッと黒い煙が吹き出した。

 楓の背中を覗き込むと、黒い模様が描かれており、それが薄くなって煙に変わっている。

 その正体にアレクライトの顔が歪む。


「呪いか……!!」


 ぽこぽこ、ポワッ、と出た煙が、楓の頭上で、一塊になったので、アレクライトは瞬時に、楓を抱きかかえ、煙から距離を取る。


「いつの間にカエデ嬢へ呪術を?!」

「え?! 呪い?!! じゅじゅつ???」


 黒い煙は人型に集まり、再び楓に戻ろうとする。

 手足と思われし部分は、だらんと伸びて力なく、何かに引き摺られるように楓を目指し、ゆるりと近づく。

 アレクライトは楓を抱きかかえたまま、距離を再び取るが、部屋の中で取れる距離など、たかが知れている。

 ずるずると煙は迫り行く。


 その煙に向けて、月華は助走をつけて殴りかかってみた。

 すると、壁際に煙は吹き飛び、ビシャッと潰れ、平面の人型みたいになるが、再び煙が動き、立体人形に戻った。

 そしてゆらっと蠢くように、楓の方へ振り向くと動き始める。月華はまた殴りつけ、壁に当たり……また、と何度も繰り返す。

 楓に近づけないようにするには、殴る事が有効なようだ。


「ファボリーズ……いや、塩だ、塩持ってきてくれ!」

「塩ぉ?! わ、わかった」


 月華に塩の調達を頼まれたゼランローンズは、部屋から出て行く。

 呪いの煙を殴り続けるシュールな絵面に、アレクライトと楓は言葉を失う。

 除菌効果のあるファボリーズが真っ先に浮かんだあたり、月華はあの煙を菌という扱いをしてるな、と楓だけが悟った。


「楓を抱えたまま、わたしの後ろにいてくれ。こいつ、一直線で楓を狙いに行くから、全員が直線上にいた方が、殴りやすい」


 呪術の塊を、殴るという発想には恐れ入った……とアレクライトは渇いた笑いを出しながら、楓をしっかり抱きかかえる。


「カエデ嬢の世界では、呪術を物理攻撃するんですか?」

「聞いた事ないわ……そもそもそういう類のモノって目に見えないものですし……。見えたとしても透けてたりするし?」


 それから3分ほど殴る、潰れる、膨らむ、迫る、再び殴る……と繰り返してると、ゼランローンズが塩が入った容れ物を手に、部屋へ戻ってきた。

 塩を煙にかけて、と彼に頼むと、ゼランローンズはその大きな手で、掴んだたくさんの塩を、煙にぶち撒けた。

すると、塩のかかった部分が蒸発するかのように消えて、無くなった。


「何で塩……」

「故郷では、塩は、清める作用があると信じられていて、悪いモノを追い払う事が出来る、と言われているんです」


 アレクライトと楓が、塩について話をしていたら、塩をかけ終わった脳筋2人は、拳を合わせて頷きあう。


 月華が煙跡をみると、塩は真っ黒になっていた。

 一応煙を殴った手に、塩を振りかけておく。割と多めに。


 ゼランローンズは廊下に出て、メイドに掃除道具を持ってくるよう頼んでいる。


「とりあえず、"出た"部屋って居たくないから、場所変えようか」


 月華は、自分に当てがわれた部屋にで楓を休ませようと、提案した。ゼランローンズが部屋へ案内してくれる。

 その部屋は和室とまではいかないが、靴を脱いでカーペットに上がる仕様にしてくれた。

 低いテーブルに座椅子がセットされたリビングルーム、奥の部屋は、寝室のようで、ローベッドがあり、オシャレ和室風の部屋だった。

 ベッドへ楓を運び込み、アレクライトは頬や額に触れて、首を傾げる。昼間の熱さがサッパリ消えていた。


 楓も体が軽いと言っているので、熱は下がったのだろう。

 だが、気を失うほどの高熱を出したのだから、体力も減っているだろうと、安静にするように伝えて布団を掛けた。

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