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ストレスが体に現れる時って割と限界迎えてるよね。


「さて、馬車はニールが持って行ってしまったから徒歩になるが送って行こう」


 ゼランローンズが立ち上がり、それに全員が続く。


 椅子から立ち上がった時に、楓は視界が回る。

 立っていられないほど、目が回り、膝から崩れ落ちる。幸いテーブルにぶつかる前にアレクライトが楓の体を支え、怪我などすることもなく。ゆっくりと体を低い体勢にして貰えた。

 ゼランローンズと月華も振り返り、慌てて駆け寄ってくる。


 頭を動かしてないのに、激しく揺さぶられる感覚の次に、楓の視界は暗転し意識が途切れた。


 アレクライトは慌てて楓をしっかり支える。顔色を見てみると真っ白だった。

 室内にいて、温かい食事をとったはずなのに、肌が冷たくなっている。

 医者に診せに行かねば! と、楓をしっかりと抱きかかえて、飛び出そうとしたとき、月華がそれをやんわりと止める。


「ツキカさん! 何して……早く医者へ……!!」

「振動を与えないよう、ゆっくりして歩け。いいな?」


 あまりの迫力に、アレクライトはコクリと頷いて、楓へ負担がないように歩き出す。

 ゼランローンズが前を、月華が横を歩き、アレクライトと楓に誰かがぶつからないように壁になる。

 10分くらい歩いて、何処かの医院へたどり着く。


 日本と違い、内科とか外科のような細かい分類は無いらしい。

 意識のない人が運ばれてきたので、急患として最速で診てもらえた。

 周りの人も「その子を1番に診てあげて」と順番を譲る。

 そして、診察台に楓を横たわらせたところで、月華は念のため2人を追い出した。


 おそらくは、無理な納期の仕事を、体に鞭打ってこなした後、緊張が解けたのに、今度は別方面で過度なストレスが掛かったからだろうな……と月華は思案する。


 異世界という言葉を抜きにして、差し障りのない範囲で伝えておく。


「疲労と緊張ってとこかね……」


 医者が話を聞いた後、触診を行う。

 どうやら熱が出てきたらしい。

 薬草茶と解熱剤を出しておくので、2〜3日は安静にするよう言われて終わりだ。


 月華は楓の衣服を整えた後、ひょいっとお姫様抱っこして、医者に「ありがとうございます」と告げ、部屋を出た。


 診察室を出ると、アレクライトが側で待っていた。

 ゼランローンズは馬車を手配しに行ってる、との事だった。楓をアレクライトに渡す。

 アレクライトが事前に受付で薬を受け取って、診察代と薬の代金を支払っていたようで、月華はアレクライトに礼を述べる。

 そして順番を譲ってくれた人々へも、深く頭を下げ礼を言うと、皆優しい笑顔で頷いてくれた。


 外には、ゼランローンズが馬車を借りてきたようで、待ってくれていた。早速乗り込み、ディジニールの家を目指す。


「カエデ嬢……」


 息が荒く辛そうな楓の頬を、アレクライトはそっと撫でる。

 月華は、はぁーと息を吐き捨てら髪をガシガシ掻く。


「おそらく当然の状態だと思うんだよなー。過度なストレスは、身を壊す可能性が大いにある」


 ストレスで体調が悪くなるなんて、よくあったことだ。

 それで仕事を休んだり、辞めたりする人も、かなりいた。

 世界が変われば常識も変わる。知らない世界で優しい人たちに会えたのは、とてもありがたい事だったが、やはり心の負担は大きい。


「……謝るなよ? 金髪兄さん」


 月華は先回りで釘を刺す。ぐっと言葉に詰まり、アレクライトは体を揺らす。


 そしてディジニールの家について、楓は用意されてた部屋へ運び込まれた。

 楓のそばについて、離れようとしないアレクライトを、月華は荷物を担ぐように持ち上げ、玄関ホールまで持ち運んだ。


 その光景にゼランローンズは目を丸くして、慌ててアレクライトを引き剥がすように受け取った。


「ツキカ……な、な、な……」

「楓のそばから離れようとしなかったから、物理的に剥がしてきた。あと、わたしらから見たら、いきなり季節が変わったから、体への負荷も大きかったんだと思う。わたしらがいた季節は、残暑厳しい夏の終わりだったからな」


 心だけじゃなく、体にもかなりの負担があった事を告げる。


「わたしも楓の負担に気づかなかった……申し訳ない」

「何でツキカさんが謝るんですか……違うでしょ……」


 アレクライトは、苦しさ、悔しさ、そして情けなさに、顔を歪ませ、謝ってきた月華に声を返す。

 月華はふと視線を上げ何かを考え、頷いてアレクライトの額を人差し指で突く。


「さっさと仕事片付けて、楓の看病してやんな」


 本来なら、この家にはメイドが沢山いるので、そんな必要はないだろうが、敢えて彼にそう伝えると、目を見開き頷いて踵を返した。


「あぁ、アレク。ついでに馬車を返しといてくれ」


 ゼランローンズは思い出したように、彼の背中へ声を投げかける。

 アレクライトは、ギギギっ、と音が鳴りそうな雰囲気で、半身を振り返り、ゼランローンズを見る。


「俺はもう、全て終わらせてきた。私物も配達馬車の手配をし、業務用の書類の指南書や、細かな引き継ぎ事項も書類に纏めてある」


 ゼランローンズは、召喚された聖女が王都での滞在を望まない場合、仕事を辞するつもりだったので、召喚反対を唱えつつ、念の為、普段から引き継ぎ・片付けを行なっていたようだ。


 アレクライトは、完全に召喚の儀を止めるつもりで動いていた。

 聖女が来ない場合、自分が先頭に立ち魔物を止めねばならないので、引き継ぎ書類作りや整理などは、一切していなかった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ゼランローンズさん、脳筋だとばかり思っていたら段取り上手でびっくりしました。 聖女が召喚されてしまう、という事態も想定して行動していたなんて、用意周到で意外でした。 [一言] オネェさんが…
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