着るなら露出は抑えたい。
ちょっと短い。
「あんた、よくここまで描けるわね? あっちの世界でデザイナーだったの?」
「いや、仕事で描いてた図面は、建物が多かった」
と、言いつつも何かを見ると、頭の中にて図面化してしまうのは、割と癖になってる。
ゴスロリ服も構成を考えてみたりと、自分の部屋で描き起こしていた事もあった。
その隠れた趣味が、ここに発揮されてる。
「メイド服も可愛いわよねぇ……」
楓は、日本のメイドカフェを思い出して口を開く。
ゴスロリっぽいけど、違うジャンルの服を思い出して、月華も頷き、ディジニールが口を開く前に、鉛筆を走らせる。
「お仕着せとは違う、"それっぽい"服って感じかしら? あっちでのメイド服は」
「確かに、こんなにフリルふんだんに使ったり、パニエ仕込んだりするお仕着せは無いわねぇ。あと露出高いわよね……」
「見た目の可愛さ重視みたいな物で、理想を詰め込んだもの? みたいな扱いでいいと思うわ」
「理想を詰め込む……ああ、たしかにそうね。若い子が、この服で仕事してた方が、家人のテンション上がるでしょうね……」
どこの世界も一緒か! とツッコミを入れたいところだが、敢えてスルーを決め込み、理想の詰まったメイド服の三面図も描き終えた。
「もしかしたら、この世界の慣習に叛いてる可能性もあるから、あくまでもあっちの世界にあった、1つのファッションジャンルと思ってくれれば、ってとこだな」
見ていて可愛いけど、それが犯罪になるならよろしくないので、予防線を張っておかないとならない。
月華は何処までも慎重だ。
そんな彼女の意図を読み取りつつ、ディジニールは自分のスケッチブックに、月華の描いたゴスロリ服を参考に、デザインを始める。
明るめの色鉛筆でザザッと色を塗って仕上げると、満足げに頷く。
そこで当初の目的を思い出し、口を開く。
「違う違う、カエデとツキカのドレスよ! どんなのがいいか聞こうと思ってたのよ!」
ディジニールが最初に描いた物を広げて見せてきた。
様々なタイプの服が描かれてあるが、2人の体型に合ったデザインの物を、数点描き出して、好みを聞いてきた。
ここで断るのは、今までのやり取りで不可能と悟ってるので、諦めてデザイン画に目を向けた。
「胸も、背中も、開いてないやつなら、何でもいいや」
「私も、胸が開いてる服は抵抗あるわ…」
2人は露出する服装は遠慮したいと述べるが、おネェの口が尖っている。
「折角いいもの持ってんだから、出しときなさいよ!」
「見せもんじゃないから仕舞っておくんだ」
ふと思い立った月華は、ひとつのデザイン画を指さして、ディジニールに聞いてみる。
胸の谷間を見せる服装の真ん中部に、レースを入れてしまえば派手な露出にならないから、いいのでは? と。
だが、その服はスカート部分が広がっているもので、どうみても、月華が着る感じには見えない、デザインのドレスだ。
「いいわね、ソレ! 近くに行けば、バッチリ見えるタイプのレースを使えば、ムッツリどもが喜ぶわー。パートナー伴っての夜会にピッタリだわ! あんたすごいわねー」
「職場で散々、ムッツリどもの与太話を聴いてたからな……喜ぶ物が何となくわかる」
胸の谷間がどーんと見える服は、見ていて嬉しいけど、恋人にはしてほしくない。見たいけど、見られたくない、などの我儘を、よく野郎どもは言ってた事を思い出した。
身勝手なものである、と極寒の大地より冷たい視線を送った懐かしい記憶。顔は覚えていないが。
「うんうん、パートナー探しのお嬢ちゃんたちは、自分の体をガッツリ自慢するタイプが多いから、胸や背中が開いたドレスが、今の夜会のトレンドなのよねー」
そして、ムッツリスケベが喜ぶドレス案が、幾つか出た。その中で月華は、自分のドレスデザイン画を、ちょっとずつ地味な方向へ修正していく。
地味にしたいのだというより、このデザインなら、ここにも布があった方が素敵に見える、とプラスの言葉を当てて、言葉巧みに露出を抑えていく。
全体的に露出が抑えられたデザインに変えたところで、色々案をもらって、刺激を受けていたおネェは気分良く、デザイン画の完成を宣言した。
「確かにこれなら、ディジー発案の素敵なデザインを損なわず、露出も減って着易そう」
楓は、月華の働きに、心の中で小躍りをして喜んでいた。
そして、そうこうしているうちに、お昼を告げる鐘が鳴る。




