強引ぐ おネェ うぇーい!
商品を並べる事ができる部屋、小ホールへ移動するとの事だ。
だが、商品が並べ終わるまで時間があるので、もう一杯茶を飲んでからくらいが丁度いい、と言われ2人はそれに従う。
月華は情報収集を行おうと、ディジニールに質問した。
「ティア商会でしたっけ? 何を扱ってんるですか?」
「歯ブラシからドレスまで、多岐に渡るわ。メインはオシャレ用品よ。オーダーメイドドレスが1番人気よ、貴族は見栄っ張りだから、とってもお金になるわぁ」
「習性……いや慣習を利用した商売とは、逞しいですね……」
「ま、商売抜きにアンタたちのドレスは作るわよ」
「いや、だからお金がですね……」
「おだまり! アタシが作りたいのよ!」
こいつのオシャレ心に火をつけた原因がわからない……と、2人で半目になっていたら、目敏く気づいたおネェはニヤッと笑い、2人を上から下までじーっくり見た後、口を開く。
「カエデは中々ステキな体つきなのに、それを活かせる服が少ないのよね、勿体ないわ。キチッと測った服を着ておけば、疲れだって少ないのよ。あと、ツキカ! あんたよ!」
ディジニールは、ビシッと指をさして目を見開く。
月華は頭に「?」を沢山浮かべ首を傾げる。
「な・ん・で! 男装してるわけ?! 可愛めの服かもしれないけど、どう見たって、かわいい服が好きな男子じゃないのよ! おっぱいまで潰して、せっかく服がカッコよく着こなせる背が、胸があるのに、勿体なさすぎじゃないのよぉ!!」
「え、楽ですし?」
「ダメよ、似合いもしない、流行のドレスに金を落とす貴族と違って、アンタたちが似合わない物を着るのは、ずぇっったいにダメよ!!」
「うわ、めんどくせ」
つい、敬語が崩れてしまう。
そのくらいおネェはぐいぐいくる。
ぐいぐい来るけど、ぼったくるためでは無く、似合う物を身につけて欲しいと言う、おネェなりの優しさ故、冷たく突き放すのもよくは無いだろう……と思い、月華は距離感が、本当にわからなくなっている。
情報集めようとしたら、服の無頓着さを責められる。何だろう、これは。と思いながら、おネェに説教を受ける。
「そうよ、その調子で丁寧な喋り方なんて、やめておしまいよ!」
「あーわかった、わかったよ、姐さん」
「そうね、そうよね! アタシはアンタたちのお姉ちゃんでもあるわ!」
「ちがう、その姉じゃない」
細かいことを気にするなと言いながら、ディジニールはホールへ案内する。
小ホールと言いながらも、都会のコンビニより明らかに広い。訪ねてからお茶をしてる間に、これだけの荷物を集めて、運んで並べた事に、頭が下がる思いだ。
髪飾りや耳飾りといったアクセサリー類、その横に化粧品類、そして布やラフな服にドレス、バッグや靴。
隣に試着室のような、カーテンのかかったエリアが2つある。
そして日用雑貨もある。
ホールの半分を使い扇状に並べてある。大型トラック1台くらいの荷物があると思われる。
「さ、好きなものを持って行くといいわ!」
「ディジー、何で旅にドレスがいるのか、わからないんだけど……」
両手を広げて、満面の笑みを浮かべるディジニールに、楓はおずおずと訊ねる。
するとツカツカと早足で寄ってきて、楓に詰め寄る。
鼻と鼻がくっつきそうな距離までズイッと近づいて、楓の頬をぷにぷに突きながらお説教が始まった。
「イイコト? シェリッティア家にとって、稀人は大事にしたい存在なのよ! 常に特別なの! いい? 恋人よりも大事にするような存在なのよ!」
「は、はいぃ……」
詰め寄るおネェに圧倒される楓が見ていられなくて、月華はディジニールの首根っこを掴んで、引き剥がした。
「んもう、何すんのよっ」
「大事なのはわかったから、大事なら本人の意見も聞いてやれ。いきなり沢山の"違う"を押し付けられても、こっちだって困惑する。今までわたしらが築いていた価値観が、法を破る、相手を傷つけるかもしれないものなら、遠慮なく言って欲しいが、わたしたちはまず"慣れる"為に"触れる"事をしないといけないんだ」
根っから否定する気はない、少しずつ覚えて行くという姿勢を見せた事で、ディジニールの顔も穏やかになった。
そして、楓を引っ張って行き、服を当てたり、アクセサリーを当てたりと、楽しそうだ。
「ほら、ツキカ! アンタも!」
勢いのあるおネェは止まらない。
が、そんな彼を、月華は制して首を振るう。
「サイズないから、見るのがめんど……」
「何言ってるのよ、あるわよ! それに作るのよ!」
ディジニールはポケットからメジャーを取り出した。
従業員の男がいつの間にか退室して、残ってるのは女性のみなので、おネェは遠慮なく服を剥いていく。
月華は楓に目を向けると、いつの間にか下着になっていた。
服はメイドが持っていて、楓に渡そうとはしていない。
楓は既に剥かれた後……と、遠い目をしている間に、月華も剥かれ終わった。
胸のサポーターまで剥かれた。その後メイドが薄手の前掛けをかけてくれる。
ディジニールはテキパキと測って紙に記入していく。
その顔は職人そのものであり、真剣だ。
測り終わった後、試着室に放り込まれて、ブラジャーが投げ込まれた。
「サポーターを返せ!」
「ダメよ、おっぱいのカタチ悪くなるじゃないの!! あと、カエデ! あんたブラジャーのサイズ合ってないじゃないのよ! こっちつけなさい!」
「え? うそ?」
ゼランローンズの『弟』であるディジニールは、女性の下着アドバイスまで始める。
何だろうコレ……と思いながら、月華は投げ込まれた下着を見ながら遠い目をした。
仕方なく久しぶりに普通の下着をつけた。
「姐さん、服返して」
「はい」
カーテン越しに渡されたのは、ペチコートワンピースだけだった。
どういう事か訊ねると、オーダー服用の布を合わせたいから肌着までしか着ないで、とのことで、楓と月華はインナー姿で試着室を出た。
するとディジニールが、待ってましたと言わんばかりに布を当てては置き、当てては置きを繰り返す。
そして満足したので2人に服を渡すが、宿を出るときに着ていた服ではなかった。




